第11話:気になる気持ち(その11)
文字数 2,220文字
「じゃあ、スタミナラーメンとしょうゆラーメンで。
あと、何品かこっちのおごりで付けてあげるから、ゆっくりしていってね」
と言って、大将は部屋から出て行った。
再び二人きりになったため、気まずい雰囲気が戻ってくる。
たわいもない楽しい話でもして『この場を盛り上げねば!』という気持ちはあるのだが、メンタルが弱り過ぎていて、何も浮かんでこない。
半ば『しかばね状態』になっているおれに西森が、
「せ・・・、先生は何を思って、
私のことを『かわいい』って思ったんですか?」
と突然聞いてきた。
「え?」
西森は下を向きながらポツリと話し始めた。
「私、本当に今まで男の人から『かわいい』なんて言われたことないんです。
小さい頃から、クラスメイトともほとんど話さず、教室の片隅で1人本を読んだり、勉強ばかりしてたので、気味悪がられることの方が多くて・・・」
確かに、おれも西森と話すまでは、優等生で隙が無く、いつも怒っているイメージしかなかったため、正直近寄りがたかった。
おれがそう思うぐらいだから、同級生の男子から見ても西森は、『敬遠したいタイプ』の女子だったのであろう。
西森は続ける。
「そんな『かわいさ』のかけらも無い性格だったから、小さい頃、男子に散々バカにされたのが悔しかったんです」
初耳の内容におれは驚く。
「え!?
西森が、男子にバカにされていたのか!?
今のお前は、バカにされるどころか、みんなから尊敬の視線を集めているじゃないか!」
「それは今の話であって、昔はそうじゃなかったんです!
男子にいじめられて、からかわれて、それがすごく悔しくて。
だからその時、決めたんです。」
「決めた?
決めたって、何を?」
西森は強い口調でこう答えた。
「誰にもバカにされないぐらい優秀になって、みんなを見返してやろうって。
誰にも頼らないで1人で生きていけるぐらい強い人間になろうって」
そう言うと西森は再び黙り込み、おれから顔をそむけた。
きっと今、顔は恥ずかしさで真っ赤になっているに違いない。
プライドの高い西森が、あえてここまで話をしてくれるなんて、相当恥ずかしくて嫌なことだと思ったから・・・。
「に・・・西森・・・」
思わず切なくなって、今すぐにでも西森を抱きしめたい気持ちになった。
が、それを拒むように西森は、
「だから先生、これ以上、私に絡んでくるのは止めてもらえませんか?」
と、おれを突き放したのだった。
西森に『これ以上、絡んでくるのはやめてほしい』と言われ、頭の中が真っ白になった。
一緒にご飯を食べてくれることになって、こうやって2人きりになれたことで、西森も少しはおれに対して関心を持ってくれているのかと思っていたが、それは完全におれの勘違いだったようだ。
浮かれすぎていた、調子に乗り過ぎていた、いろんな後悔の念が心の中にこみあげてくる。
でも、仕方が無い。
全てを受け止めるしかない、と覚悟を決めた。
「そ、そうか・・・
そんなに迷惑だったんだな、西森にとっては・・・」
「そうです、迷惑です!」
迷惑!!
はっきり言いきられ、おれは完全に西森にふられてしまった。
楽しい『お食事会』になるかと思いきや、悲しすぎる『最後のお食事会』になってしまうとは・・・。
ダメだ、もう何も食べる気にもなれない・・・。
このまま泣きながら帰ってしまいたい気持ちだが、もうすぐラーメンが届くので、この場で耐えるしかない。
ショック過ぎて、今にも倒れそうになっているおれに対して、西森はさらに言葉をぶつけてくる。
「先生も知ってのとおり、私は親の期待に応えるために、もっと勉強をがんばらないといけないんです。
他のことを考えている余裕なんてないんです!
なのに・・・」
急に西森が黙り込む。
「なのに?どうした?」
続きの言葉を聞きたくて、うつむいた西森の顔をのぞきこもうとすると、いきなり『バチーン!』とメニューで頭を叩かれた。
「なっ、何!?」
突然の攻撃にビックリしたおれに対して西森は、
「先生とあの夜、屋上で星を見てから勉強以外の余計なことを考えるようになっちゃったじゃないですか!
ホント、どうしてくれるんですか!」
と叫んだ。
え?
西森の突然の発言に、今まで死んだ状態になっていた心が一気に動き始める。
ええっ!?
聞き間違いじゃないよな!?
あの屋上の事件以来、今まで勉強のことしか考えてこなかった西森が、それ以外の余計なことを考えるようになったって・・・
それは・・・
つまり・・・
『おれのこと』なのか!?
本当に?本当に!?
再び急に浮かれ始めてきた気持ちを、とりあえず抑える。
ちゃんと真相を聞くまでは、冷静さを保て。
いや、保てそうにもないけど、でも焦るな!
「勉強以外の余計なことって・・・、つまり・・・『おれのこと』なのか?」
ちょっと自意識過剰な問いかけで、自分で言っておきながら恥ずかしくなってきたが、西森は大きなメニューで顔を隠したまま、
「べ、別に、先生のことだとは言ってません!」
と否定した。
でも、どこか緊張していて声が少し震えている。
「じゃあ・・・」
おれは西森からパッとメニューを取り上げると、驚いて顔を隠そうとする西森の手をつかんで、グイッと体をこっちに引き寄せた。
「!?」
2人の距離が急接近し、おれにジッと見つめられた西森は、さらに頬を真っ赤にさせる。
「おれのことが迷惑で、全く興味が無いくせに、なんでこんなに真っ赤になっているの?」
我ながら意地悪で、大人げない作戦だと思ったが、このまま引き下がるわけにはいかなかった。
あと、何品かこっちのおごりで付けてあげるから、ゆっくりしていってね」
と言って、大将は部屋から出て行った。
再び二人きりになったため、気まずい雰囲気が戻ってくる。
たわいもない楽しい話でもして『この場を盛り上げねば!』という気持ちはあるのだが、メンタルが弱り過ぎていて、何も浮かんでこない。
半ば『しかばね状態』になっているおれに西森が、
「せ・・・、先生は何を思って、
私のことを『かわいい』って思ったんですか?」
と突然聞いてきた。
「え?」
西森は下を向きながらポツリと話し始めた。
「私、本当に今まで男の人から『かわいい』なんて言われたことないんです。
小さい頃から、クラスメイトともほとんど話さず、教室の片隅で1人本を読んだり、勉強ばかりしてたので、気味悪がられることの方が多くて・・・」
確かに、おれも西森と話すまでは、優等生で隙が無く、いつも怒っているイメージしかなかったため、正直近寄りがたかった。
おれがそう思うぐらいだから、同級生の男子から見ても西森は、『敬遠したいタイプ』の女子だったのであろう。
西森は続ける。
「そんな『かわいさ』のかけらも無い性格だったから、小さい頃、男子に散々バカにされたのが悔しかったんです」
初耳の内容におれは驚く。
「え!?
西森が、男子にバカにされていたのか!?
今のお前は、バカにされるどころか、みんなから尊敬の視線を集めているじゃないか!」
「それは今の話であって、昔はそうじゃなかったんです!
男子にいじめられて、からかわれて、それがすごく悔しくて。
だからその時、決めたんです。」
「決めた?
決めたって、何を?」
西森は強い口調でこう答えた。
「誰にもバカにされないぐらい優秀になって、みんなを見返してやろうって。
誰にも頼らないで1人で生きていけるぐらい強い人間になろうって」
そう言うと西森は再び黙り込み、おれから顔をそむけた。
きっと今、顔は恥ずかしさで真っ赤になっているに違いない。
プライドの高い西森が、あえてここまで話をしてくれるなんて、相当恥ずかしくて嫌なことだと思ったから・・・。
「に・・・西森・・・」
思わず切なくなって、今すぐにでも西森を抱きしめたい気持ちになった。
が、それを拒むように西森は、
「だから先生、これ以上、私に絡んでくるのは止めてもらえませんか?」
と、おれを突き放したのだった。
西森に『これ以上、絡んでくるのはやめてほしい』と言われ、頭の中が真っ白になった。
一緒にご飯を食べてくれることになって、こうやって2人きりになれたことで、西森も少しはおれに対して関心を持ってくれているのかと思っていたが、それは完全におれの勘違いだったようだ。
浮かれすぎていた、調子に乗り過ぎていた、いろんな後悔の念が心の中にこみあげてくる。
でも、仕方が無い。
全てを受け止めるしかない、と覚悟を決めた。
「そ、そうか・・・
そんなに迷惑だったんだな、西森にとっては・・・」
「そうです、迷惑です!」
迷惑!!
はっきり言いきられ、おれは完全に西森にふられてしまった。
楽しい『お食事会』になるかと思いきや、悲しすぎる『最後のお食事会』になってしまうとは・・・。
ダメだ、もう何も食べる気にもなれない・・・。
このまま泣きながら帰ってしまいたい気持ちだが、もうすぐラーメンが届くので、この場で耐えるしかない。
ショック過ぎて、今にも倒れそうになっているおれに対して、西森はさらに言葉をぶつけてくる。
「先生も知ってのとおり、私は親の期待に応えるために、もっと勉強をがんばらないといけないんです。
他のことを考えている余裕なんてないんです!
なのに・・・」
急に西森が黙り込む。
「なのに?どうした?」
続きの言葉を聞きたくて、うつむいた西森の顔をのぞきこもうとすると、いきなり『バチーン!』とメニューで頭を叩かれた。
「なっ、何!?」
突然の攻撃にビックリしたおれに対して西森は、
「先生とあの夜、屋上で星を見てから勉強以外の余計なことを考えるようになっちゃったじゃないですか!
ホント、どうしてくれるんですか!」
と叫んだ。
え?
西森の突然の発言に、今まで死んだ状態になっていた心が一気に動き始める。
ええっ!?
聞き間違いじゃないよな!?
あの屋上の事件以来、今まで勉強のことしか考えてこなかった西森が、それ以外の余計なことを考えるようになったって・・・
それは・・・
つまり・・・
『おれのこと』なのか!?
本当に?本当に!?
再び急に浮かれ始めてきた気持ちを、とりあえず抑える。
ちゃんと真相を聞くまでは、冷静さを保て。
いや、保てそうにもないけど、でも焦るな!
「勉強以外の余計なことって・・・、つまり・・・『おれのこと』なのか?」
ちょっと自意識過剰な問いかけで、自分で言っておきながら恥ずかしくなってきたが、西森は大きなメニューで顔を隠したまま、
「べ、別に、先生のことだとは言ってません!」
と否定した。
でも、どこか緊張していて声が少し震えている。
「じゃあ・・・」
おれは西森からパッとメニューを取り上げると、驚いて顔を隠そうとする西森の手をつかんで、グイッと体をこっちに引き寄せた。
「!?」
2人の距離が急接近し、おれにジッと見つめられた西森は、さらに頬を真っ赤にさせる。
「おれのことが迷惑で、全く興味が無いくせに、なんでこんなに真っ赤になっているの?」
我ながら意地悪で、大人げない作戦だと思ったが、このまま引き下がるわけにはいかなかった。