第10話:クリスマス・デート(その3)

文字数 860文字

突然、職員室に入ってきた西森を見て、
「なっ、夏・・・」
と思わず名前を呼びそうになったが、あわてて、
「に、西森、どうした?」
と言い直した。

危ない、危ない・・・。

今、誰もいないとはいえ、ここは学校。

名前で呼ぶなんて、絶対にやっちゃいけないことだ。

西森は職員室をぐるりと見回し、
「朝のHRで配られたアンケートを回収して持ってきました」
と言って、こちらに向かって歩いてくる。

そういえばアンケートを朝配ったっけ。
それを持ってきてくれたんだな。

それだけのことだけど、やっぱりこうやって西森と二人で話が出来るのはうれしい。

「ありがとう」

お礼を言って、アンケートを受け取る。

この光景だけ見れば、どこにでもいる『先生と生徒』の姿にしか見えないだろう。

西森はもう一度辺りをキョロキョロと見回すと、
「今、誰もいないんですか?」
と聞くので、
「うん、タイミングよく、誰もいない。
でも、すぐ戻ってくるかも」
と答える。

本当にいつ誰が戻ってくるか分からないので、安心はできない。

西森はおれの机の上をチラッと見ると、マグカップに気づいたようだ。

「あ、これ、私がプレゼントしたマグカップ!
使ってくれているんですね!」
とうれしそうに言ったので、おれもニッコリ微笑みながら、
「ああ、西森のことをいつも忘れないように、大切に使っているよ」
と答えると、西森はカーッと頬を真っ赤にした。

かっ、かわいい!
ここが『家』なら、即、抱きしめているだろうな!

風邪のお見舞い後は、お互いのスケジュールが合わなくて、ほとんど話もしてないし、一緒にいることが出来ていない。

なので欲求不満は高まっていくばかりだ。

再度、キョロキョロと辺りを見回してみる。
まだ誰も帰ってくる気配は・・・無い・・・ようだ。

おれは椅子を西森に勧めながら、
「西森、もしよかったら資料作りの手伝いをしてもらえないか?
無理にとは言わないけど・・・」
と言った。

もちろん『資料作り』は口実で、ただ一緒にいたいだけなのだが。

西森は一瞬、驚いた顔をしたが、コクリとうなずくと、
「はい、私でよければ」
と言って、椅子に座った。




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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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