第7話:二人きりの夜(その7)

文字数 980文字

「こちらの『椿の間』のお部屋です」

宿の人が案内してくれた部屋は「椿の間」という部屋で、ドアを開けると、お香の香りだろうか?

心が落ち着くような香りが匂ってきた。

入口から入って、右の扉を開けると畳の部屋があり、その奥にベッドルームがあるようだ。

畳の部屋もわりと広くてキレイだし、落ち着いた雰囲気でカップルに人気が高そうだ。

部屋だけでなく洗面所も明るくてモダンで、女子受けもよさそうな部屋である。

宿の人が押し入れを開けながら、
「この中にお布団が入っていますので、敷きましょうか?」
と言ってくれたが、
「あ、あとで自分で敷くので大丈夫です」
と答えると、
「分かりました。
では、ごゆっくりどうぞ」
と言って、一礼してから部屋を出て行った。

「バタン」とドアの閉まる音が聞こえる。

とうとう、この部屋にはおれと西森の2人だけになってしまった。

「・・・・・・」

急に二人きりになり、緊張してきたせいか、何を話せばいいのか分からなくなって、思わず黙り合ってしまった。

しかも部屋の照明が、雰囲気の良い間接照明なので、もしおれと西森が恋人同士だったら、突然キスしてもおかしくない雰囲気だ。

でも、恋人同士じゃないので、おれはあわてて、
「こんなおしゃれな宿が、この山の中にあったなんて知らなかったなぁ。
旅行雑誌とかにも取り上げられてないんじゃない?」
と他愛もない話をし始めた。

すると西森も、
「本当ですね。
私、こんな素敵な宿に泊まったの初めてです。」
と普通に話をしてくれる。

うん、この調子、この調子。

学校でいる時と同じような感覚で、話をしていたら、変な気も起らないだろう。

おれは、水の入ったポットを手に取り、コップに移し入れながら、
「今日はゴメンな。
一緒に『星を見る』約束をしていたのに、こんなことになっちゃって」
と謝った。

そう、本当だったら、西森が合宿を抜け出して、2人で落ち合って、星を見るはずだったのに、いろいろあって、今こんな状況だ。

水の入ったコップを西森に差し出しながら、
「でも、ま、どっちにしろ、この大雨じゃ、中止になったかな。
ほんとに、すごい雨でビックリだよ」
と言うと、西森が、
「確かに星は見られませんでしたが・・・」
とつぶやく。

おれが、
「うん、星は見られなかったけど?」
と聞き返すと、西森は、
「でも、先生とこうやって二人でお話しできる時間はできましたね」
とちょっと照れながら言った。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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