第16話:気になる気持ち(その16)
文字数 2,191文字
「西森の(仮)の彼氏にしてくれないか?」
なんだ、このアホすぎる発言は。
この世界のどこに
『仮でもいいから、彼氏にさせてください!』
と生徒に頼みこむ先生がいるというのだ。
ほら、見ろ。
西森のあきれ返った顔。
もはや、おれがアホ過ぎて何も言えない状態なのかもしれない。
きっぱり『無理です』と言ってくれた方が、沈黙より何十倍かマシだ。
しばらくお互い無言状態だったが、ふいに
「先生」
と西森が声をかけてきた。
「ハ、ハイ!?」
おれはあわてて返事をしたため、声が少し裏返ってしまった。
『いよいよ、完全に失恋するのか』と身構えていたのだが・・・
「先生が(仮)の彼氏になった場合、私に何をしてくれるんですか?」
「え?」
西森が真剣な目をして、問いかけてきている。
『彼氏になったら、何をしてくれるんですか?』
そう聞かれ、改めて考えてみた。
おれが彼氏になったら、西森にしてやりたいこと・・・
それは・・・。
「いっぱい・・・」
「いっぱい?」
おれは伏せていた顔をグッと上げて言った。
「いっぱいありすぎるんだよ!
2人で一緒にどこかに出かけたいし、学校で2人きりの秘密の時間も作りたいし、会えない日は電話やメールでやり取りもしたい!
でも、一番おれが西森にしてやりたいことはー」
おれは一呼吸おいて、
「もっと西森の笑顔を増やしてやりたいんだ!
そしてその笑顔を、おれが一番近くで見ていたいんだ!」
と、自分の気持ちを西森にぶつけた。
そう言われて、西森は一瞬ポカンと驚いたような表情をしていたが、急に恥ずかしくなったのか、徐々に顔が真っ赤になっていく。
その愛おしい表情をもっと近くで見ようと近づいた瞬間、急に西森が自分の顔をおれの胸にコツンと当て、顔を隠した。
「!?」
初めて西森からおれに近づいてくるなんて!?
しかも、顔をくっつけている場所がおれの胸なので、心臓の音がものすごい爆音で鳴っているのが西森に丸聞こえじゃないか!
でも、ドキドキを止めることもできないので、このままの体勢を保つ。
「に・・・西森?」
「今、先生に顔を見られたくないから、このまま話を聞いてください」
そんなかわいいこと言われたら、どんな表情なのかめっちゃ気になるけど、今はじっと耐えて、西森の言葉に耳を傾ける。
「先生の授業、受けてみます」
「え!?」
まさかの『前向き発言』に思わず大きな声が出てしまった。
それは、つまり・・・
おれと(仮)だけど付き合ってくれるということなのか!?
心の中に一気に『幸せ気分』が押し寄せてきたが、
「でも、勘違いしないでくださいね」
と、西森から釘をさされる。
「か・・・勘違い?」
「そうです」
西森は伏せていた顔を上げ、
「私は、先生の授業が失敗するのを見たいだけなんですから!」
と、まさかの意地悪発言をしてきた。
『失敗するのを見たいだけ』って、相変わらずかわいくないこと言っちゃってくれているけど、必死に照れた顔を隠そうとする西森は、めちゃくちゃかわいいよ。
おれは目の前の『愛しい彼女(仮)』の頭にポンと軽く手を乗せ、
「まだ授業も受けていないのに、
もう失敗するって決めつけているわけ?」
と聞くと、
「失敗します。だって先生、教え方、下手くそですから」
と、また憎らしいことを言ってくる。
その仕返し、というわけじゃないけど、おれは西森の頭に乗せていた手を、そのままグイッとこちらに引き寄せ、2人の額をコツンと合わせた。
キスしようと思えばキスできる距離だが、今はただ見つめ合うだけ。
お互い緊張しているので、まるで『にらめっこ』しているような状態だ。
しばらく見つめ合った後、
「失敗しないように、がんばります!」
とおれが言うと、西森が
「が、がんばってください!」
と返す。
そのやり取りがなんだかおかしすぎて、思わず『クスッ』と二人で笑ってしまった。
*****************
おまけ(夏菜の気持ち)
先生と食事して家に帰って来たら、もう9時を過ぎていた。
30分ぐらいで食事を終わらせて帰って来るつもりだったのに、気づけば3時間も一緒にいたなんて・・・。
今日は家に帰ったら、いっぱい勉強する予定だったのに、急に先生が告白してくるから、予定が全部狂っちゃってどうしてくるのよ!
参考書を一度も開いてないなんて、ありえない状態すぎる。
勉強しないといけないのに、先生のことが頭の中でグルグル回っている。
キスされそうになったこと。
『好きだ』と告白されたこと。
『仮でもいいから、彼氏にしてほしい』と言われたこと。
どう考えても、先生が生徒に対して言うべき言葉じゃないと思うけど、思い出しただけで、また急に顔が赤くなって、胸がキュンと音を立てる。
「ほんと、あの人は何なのよ・・・」
勉強する気になれなくて、そのままベッドにバフッと倒れ込んだ。
その時、スカートの中に何かが入っていることに気づいた。
そう、メモ用紙を入れていたんだっけ。
起き上がって、あわててメモ用紙を取り出す。
そこには先生の電話番号とメールアドレスが書かれてあった。
メモに書かれている先生の名前を改めて口に出してみた。
「高山 流星・・・」
流星・・・
ほんと、流れ星みたいに突然、私の前に落っこちてきたみたいな人。
そういえば、この前の夜、先生が言っていたっけ。
恋をしたら、世界がキラキラ輝きだすって。
まだキラキラ輝いているかどうかわからないけど、でも確実に、私の灰色で単調だった毎日が、少しずつ色づき始めていた。
なんだ、このアホすぎる発言は。
この世界のどこに
『仮でもいいから、彼氏にさせてください!』
と生徒に頼みこむ先生がいるというのだ。
ほら、見ろ。
西森のあきれ返った顔。
もはや、おれがアホ過ぎて何も言えない状態なのかもしれない。
きっぱり『無理です』と言ってくれた方が、沈黙より何十倍かマシだ。
しばらくお互い無言状態だったが、ふいに
「先生」
と西森が声をかけてきた。
「ハ、ハイ!?」
おれはあわてて返事をしたため、声が少し裏返ってしまった。
『いよいよ、完全に失恋するのか』と身構えていたのだが・・・
「先生が(仮)の彼氏になった場合、私に何をしてくれるんですか?」
「え?」
西森が真剣な目をして、問いかけてきている。
『彼氏になったら、何をしてくれるんですか?』
そう聞かれ、改めて考えてみた。
おれが彼氏になったら、西森にしてやりたいこと・・・
それは・・・。
「いっぱい・・・」
「いっぱい?」
おれは伏せていた顔をグッと上げて言った。
「いっぱいありすぎるんだよ!
2人で一緒にどこかに出かけたいし、学校で2人きりの秘密の時間も作りたいし、会えない日は電話やメールでやり取りもしたい!
でも、一番おれが西森にしてやりたいことはー」
おれは一呼吸おいて、
「もっと西森の笑顔を増やしてやりたいんだ!
そしてその笑顔を、おれが一番近くで見ていたいんだ!」
と、自分の気持ちを西森にぶつけた。
そう言われて、西森は一瞬ポカンと驚いたような表情をしていたが、急に恥ずかしくなったのか、徐々に顔が真っ赤になっていく。
その愛おしい表情をもっと近くで見ようと近づいた瞬間、急に西森が自分の顔をおれの胸にコツンと当て、顔を隠した。
「!?」
初めて西森からおれに近づいてくるなんて!?
しかも、顔をくっつけている場所がおれの胸なので、心臓の音がものすごい爆音で鳴っているのが西森に丸聞こえじゃないか!
でも、ドキドキを止めることもできないので、このままの体勢を保つ。
「に・・・西森?」
「今、先生に顔を見られたくないから、このまま話を聞いてください」
そんなかわいいこと言われたら、どんな表情なのかめっちゃ気になるけど、今はじっと耐えて、西森の言葉に耳を傾ける。
「先生の授業、受けてみます」
「え!?」
まさかの『前向き発言』に思わず大きな声が出てしまった。
それは、つまり・・・
おれと(仮)だけど付き合ってくれるということなのか!?
心の中に一気に『幸せ気分』が押し寄せてきたが、
「でも、勘違いしないでくださいね」
と、西森から釘をさされる。
「か・・・勘違い?」
「そうです」
西森は伏せていた顔を上げ、
「私は、先生の授業が失敗するのを見たいだけなんですから!」
と、まさかの意地悪発言をしてきた。
『失敗するのを見たいだけ』って、相変わらずかわいくないこと言っちゃってくれているけど、必死に照れた顔を隠そうとする西森は、めちゃくちゃかわいいよ。
おれは目の前の『愛しい彼女(仮)』の頭にポンと軽く手を乗せ、
「まだ授業も受けていないのに、
もう失敗するって決めつけているわけ?」
と聞くと、
「失敗します。だって先生、教え方、下手くそですから」
と、また憎らしいことを言ってくる。
その仕返し、というわけじゃないけど、おれは西森の頭に乗せていた手を、そのままグイッとこちらに引き寄せ、2人の額をコツンと合わせた。
キスしようと思えばキスできる距離だが、今はただ見つめ合うだけ。
お互い緊張しているので、まるで『にらめっこ』しているような状態だ。
しばらく見つめ合った後、
「失敗しないように、がんばります!」
とおれが言うと、西森が
「が、がんばってください!」
と返す。
そのやり取りがなんだかおかしすぎて、思わず『クスッ』と二人で笑ってしまった。
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おまけ(夏菜の気持ち)
先生と食事して家に帰って来たら、もう9時を過ぎていた。
30分ぐらいで食事を終わらせて帰って来るつもりだったのに、気づけば3時間も一緒にいたなんて・・・。
今日は家に帰ったら、いっぱい勉強する予定だったのに、急に先生が告白してくるから、予定が全部狂っちゃってどうしてくるのよ!
参考書を一度も開いてないなんて、ありえない状態すぎる。
勉強しないといけないのに、先生のことが頭の中でグルグル回っている。
キスされそうになったこと。
『好きだ』と告白されたこと。
『仮でもいいから、彼氏にしてほしい』と言われたこと。
どう考えても、先生が生徒に対して言うべき言葉じゃないと思うけど、思い出しただけで、また急に顔が赤くなって、胸がキュンと音を立てる。
「ほんと、あの人は何なのよ・・・」
勉強する気になれなくて、そのままベッドにバフッと倒れ込んだ。
その時、スカートの中に何かが入っていることに気づいた。
そう、メモ用紙を入れていたんだっけ。
起き上がって、あわててメモ用紙を取り出す。
そこには先生の電話番号とメールアドレスが書かれてあった。
メモに書かれている先生の名前を改めて口に出してみた。
「高山 流星・・・」
流星・・・
ほんと、流れ星みたいに突然、私の前に落っこちてきたみたいな人。
そういえば、この前の夜、先生が言っていたっけ。
恋をしたら、世界がキラキラ輝きだすって。
まだキラキラ輝いているかどうかわからないけど、でも確実に、私の灰色で単調だった毎日が、少しずつ色づき始めていた。