第28話:教育実習生にメラメラ(その28)

文字数 603文字

先生は、私と目を合わすことなく、うつむいたまま、話を続ける。

「その・・・、おれが西森に『仮の彼女になってくれ』って無理言って、西森が渋々引く受けてくれたことだし、正式に付き合っているわけでもないから、もう終わらせた方がいいのかな、って・・・」

そして急に顔を上げ、私の目を見つめると、
「これ以上、西森に負担をかけたくないから、別れよう」
と、悲しそうな目をしてほほ笑んだ。

『別れよう』

先生のその言葉が、心の中で何度も繰り返された。

つまり・・・
それは、私が先生の『仮の彼女』の役を終わらせるってこと?

普通の「先生」と「生徒」の関係に戻るってこと?

え?なんで?

なんで、言葉が出てこないの?

先生と別れたら、昔の平穏な毎日が戻って来るんだよ?

何にも邪魔されず、勉強だけしていれば、それだけで良かった毎日が。

良かったじゃない。

『ハイ、別れます』って言えばいいじゃない。

そう言えばいいのに・・・。

なぜか、そう言えない自分がいる。

「・・・・・・」

沈黙が続く保健室。

すると先生は、私の頭にポンと手を置くと、
「ということで、今まで付き合ってくれてありがと、な。
いろいろと迷惑かけてゴメン。」
と言うと、椅子から立ち上がり、ベッドのカーテンを開けて去っていこうとした。

え?
これで終わりなの?

先生と一緒に過ごすこともなくなるの?

急にいろんな感情がこみあけてきて、
「先生!!」
と、私は叫んで、とっさに先生の白衣の裾を思わずつかんでいた。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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