第9話:風邪をひいた日の話(その26)

文字数 893文字

腹の音は、夏菜にも聞こえていたようで、
「やっぱり先生、お腹減ってますよね。
ごめんなさい、全然料理が進んでなくて!
早く作らなきゃ!」
と言って、再び調理に戻った。

せっかく、良い雰囲気になっていたのに・・・。

残念な気持ちもあるけど、欲望に負けそうになっていたので、ちょうどよかったのかもしれない。

ベッドに戻ろうとした時、夏菜が、
「ああっ、やっちゃった!」
と声を上げた。

ケガでもしたのかと思い、
「どうした!?
何があったの!?」
と聞くと、夏菜は泣きそうな顔をしながら、
「先生、ごめんなさい・・・。
お粥、出来るまで30分から40分ぐらい時間がかかりそうです・・・。
先生、お腹減ってるのに、さらに待たせてしまうなんて・・・」
と言う。

夏菜は、
「こんなことなら、やっぱりコンビニでパンとかおにぎりとか買った方が良かったですね・・・。
ごめんなさい・・・」
と必死に謝ってくるので、おれは首をブンブンと横に振り、
「そんなことないって!
30分ぐらい待てるし、夏菜がお見舞いに来てくれたことだけで十分なんだから!」
と答える。

それがおれの本音なのだが、そう伝えても、まだ夏菜は落ち込んだような顔をしている。

メモを見ながら、
「昨日調べたとき、どれぐらい時間がかかるかも、ちゃんと分かっていたはずなのに・・・」
と悔しそうである。

たぶん、優等生の夏菜からすると、ミスをした自分が許せられないのだろう。

そんな夏菜がやっぱり愛おしくて、おれはガマンできず、
「大丈夫だって」
と言って、後ろから優しく抱きしめた。

「せ、先生?」

夏菜は一瞬、驚いた様子を見せたが、
「もーっ!
これじゃ、身動きとれないじゃないですか!
お粥作るのが、もっと遅くなって、お腹がさらに減りますよ!」
と、ちょっとご立腹。

でも、文句を言いながらも、おれの腕を振りほどくことなく、胸の中でじっとしているので、おれはさらに強く抱きしめ、
「お腹が減るのはつらいけど、でも、さっきからずっと夏菜のこと抱きしめたかったから、もうちょっとガマンする。
だから、もう少しこのまま抱きしめさせていて。
エプロン姿が可愛すぎて、萌え死にそうなんだけど・・・」
と、夏菜の耳元でささやいた。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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