第12話:気になる気持ち(その12)

文字数 1,405文字

突然、おれに引き寄せられた西森は、大きな瞳をさらに大きくさせ、真っ赤になったまま固まっている。

このままギュッと強く抱きしめておれのモノにしてしまいたい気持ちが高まっていく。

が・・・

「ふぇ・・・」

突然、西森の目からポロポロと大粒の涙が出始めたため、おれは『ワーッ!?』とパニックに陥った。

「ごめん、ごめん!西森!
別に怖がらせようと思ったわけじゃなかったんだ!
間違えた、間違えた!!」

相手はまだ、恋愛もしたことがない女の子なのに、大人の男が急に迫ってきたら、そりゃ怖いよな!

完全におれがバカだった!

西森を泣かせてどうするんだよ!!

「ごめん、ごめんな、西森・・・」

まだポロポロ泣いている西森の頭をソッとなでる。

西森は顔を手で覆ったまま、小さく肩を揺らせ泣いていた。

そんな西森の頭をただ優しくなでるしか、今のおれにはできなかった。

近づきたいけど、近づけない。

近づけば何もかもが壊れそうな気がして。

すると西森が、
「せ・・・、先生の・・・バカ・・・」
と、小さな声でつぶやいた。

さすがに否定はできない。

「うん、バカだったと思う・・・。
怖かった?」

そう聞くと、西森はコクンとうなずく。

「いつもの『授業に失敗ばかりしている先生』じゃなくて、別人みたいで・・・」

『授業に失敗ばかりしている』は余計な言葉だと思ったが、西森が言う通り、『先生』ではなく『大人の男』の顔を見せてしまったのは、本当に悪かったと思う。

だから思わず、
「おれのこと、ますます嫌いになった?」
と聞いてしまった。

この問いかけに対して西森は、
「嫌いです!大嫌い!」
と、大きな声で答える。

『大嫌い』と言われるのは何度目だろう。

だんだん慣れてきたような感覚になってきたが、さっき、西森を無理に抱き寄せたことで、本気で嫌われたような気がする。

二人の間に重い沈黙の時間が流れた。

おれが変な行動を取ってしまったせいで、もう以前のような『先生×生徒」の立場には戻れない。

戻ることもできないし、進むこともできない。

自分の犯した失敗を悔やんでいると、
「でも・・・」
と、西森がポツリとつぶやいた。

「でも・・・?」

西森はおれをキッとにらみつけると、
「嫌いで迷惑で、忘れようと思っているんです!
本当に!」
と言って、またメニューでおれをビシバシと叩き始めた。

「いたっ!?
ちょっ、ちょっと西森!?」

西森からの突然の攻撃に、ビックリするおれ。

でも、ちょっと痛いけれど、さっき西森を怖がらせてしまったから、これぐらいの罰は受けても当然だ。

なので、ビシバシ叩かれるがまま、ガマンしていると、急に西森が叩いていた手を止める。

「なのに・・・」

また西森がポツリとつぶやいた。

「なのに?」

西森がうつむいたままなので、また泣いているのかと思い、ソッと頬に手を触れ、顔を上げさせた。

やっぱり、今にも泣き出しそうな顔だ。

「み、見ないでください!」

西森は顔をそむけようとしたが、おれの手が頬に触れたままなので、逃げることもできず、そのまま潤んだ瞳でおれを見つめる。

「おれのことどう思っているのか聞かせて?」

二人きりの密室の中、お互いの心臓の音だけが「ドキンドキン」と響いている。

西森の頬がさらに赤くなった。

「先生・・・」

西森のささやくような甘い声に誘われたのか、おれはその唇に吸い寄せられていく。

二人の唇が重なるまであと数センチ・・・

と、その時だ。

「ハイ!ラーメンお待たせーっ!」
と大将が勢いよく部屋に入って来た。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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