第3話:ドキドキ初デート(その3)

文字数 1,823文字

おれは自宅のテーブルの上に置いたスマホを見つめたまま、しばらく呆然としていた。

謝罪文を送った後、西森から『うるさい、勉強のジャマ』という内容のメールを返されたことがよっぽどショックだったようで、買ってきた夕飯を食べるのを忘れるほどボーっとしたままだった。

「はぁ・・・」

大きくため息をつく。

とりあえず飯でも食おう。

西森のことはショック過ぎるが、これ以上メールを送ったとしても、それは『火に油を注ぐ』ようなものだ。

絶対止めた方がいい。

今は特に何もしない。
これが一番ベストな方法だと思う。

おれはヨレヨレと立ち上がり、買ってきた飯を温めようと電子レンジに向かおうとした。

と、その時だ。

「ピピッ、ピピッ!」とスマホから電話の音が鳴りだした。

「もしや、西森!?」

おれはあわててスマホを手に取り、かかってきた相手の名前を確認することなく電話に出た。

「西森か!?」

「は?西森?
おれだよ、おれ、おれ。前田涼介」

「え!?あっ、涼介!?」

前田 涼介。

大学の時、同じ天文サークルに入っていた『星仲間』だ。

大学卒業後は、ここから少し離れた山の中にある『青少年自然の館』で子供達に星のことを教える職員として働いているのだが、なんで急にまた電話なんかかけてきたんだ?

涼介からの突然の電話を不審に思い、首をかしげていると、
「なになに?
西森って、流星の彼女なわけ?
名前も確認しないで電話に出るなんて、よっぽどその子に用があったみたいだな」
と、クスクス笑いながら言ってきたので、おれは思わずカーッと真っ赤になる。

「お、おまえには関係ねーよ!
というか、何だよ、急に電話なんかかけてきて。
卒業以来、ほとんど音信不通だったくせに!」

涼介が悪いわけでは無いのだが、さきほどの西森からの『ジャマ』メールの件もあって、八つ当たり的な口調になってしまった。

「久しぶりに電話をかけてきた友に対して冷たいな~、流星ちゃんは。
せっかく耳寄りな情報を教えてやろうと思ったのに」

「耳寄りな情報?」

何?
何かお得な情報でもあるの?

すると涼介は、
「今度、うちの施設のプラネタリウムが改装されることになったんだけど、改装前の最後の上映会に特別に招待してやろうと思ってさ」
と言ってきたので、
「え!マジで!?」
とおれは思わず大きな声を出してしまった。

涼介が働いている『青少年自然の館』の施設には何度か行ったことがあるが、かなり老朽化した建物である。

プラネタリウムも昔からある古いタイプのものだ。

最近都会にできているプラネタリウムは、映像も美しいし、座席も映画館のようなフカフカシートだし、中には寝っ転がって見れる施設もあるらしい。

おれも最新施設のプラネタリウムを見に行って、その映像の美しさに感動したが、『青少年自然の館』の古いけど、どこか懐かしくてホッとするあのプラネタリウムも好きなのだ。

「で、来週の日曜日なんだけど、来るか?」

「行く、行く!
ちょうど何の予定も無いから行く!」

おれが即答すると、涼介は
「了解。
あ、せっかくだし、さっき言ってた『西森ちゃん』も連れて来たら?
おまえの反応からすると、まだちゃんと付き合っているわけじゃない子なんだろ?」
と言ってきた。

涼介の鋭い指摘に思わず『ドキッ』とする。

一応付き合っていることにはなっているが、完全に「おれの彼女です」とちゃんと紹介できるような関係でもない。

でも、プラネタリウムで初デートというのも悪くはないな。

ただ、西森が一緒に付いてきてくれるかどうかは分からないが・・・。

「わ・・・分かった。
とりあえず彼女も誘ってみるけど・・・、その上映会って、けっこう一般の人も来るわけ?」
と、恐る恐る聞いてみると、涼介は、
「え、何!?『西森ちゃん』って、一般の人のいる場所には連れていけない彼女なの!?
って、もしや、おまえ生徒に手を出して・・・」
と、興味津々な声で聞いてくる。

おれは否定しようかと思ったが、西森を連れて行けば即バレることなので、
「う・・・、まあ、いろいろあって・・・」
と、言葉をにごした。

涼介は、電話の向こう側で笑いを必死にこらえながら、
「分かった、分かった。
今は何も聞かないでおいてやるよ。
ちなみに上映会は、一般の人は呼んでないから、安心してくれ。
じゃ、来週の日曜に待ってるな♪」
と言って、電話を切った。

おれは再び、テーブルの上に置いたスマホを見つめ、しばしボーっとする。

来週の日曜日にプラネタリウム・・・。

果たして、西森は一緒に行ってくれるだろうか・・・?
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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