第6話:二人の夏休み(その6)

文字数 991文字

とりあえず注文を済ませ、料理が出来上がるまで、お互いの近況を話し始めた。

「先生は、この夏休み、ずっと仕事だったんですか?」

西森にそう聞かれ、おれは「うん」とうなずく。

「ずーっと仕事、仕事。
二学期の授業の準備をしたり、部活の指導をしたり、あと、いろいろ頼まれる雑用をこなしたり、で、まだ『夏休み』という休みを取ってないな」
と言いながら、凝っている肩をもんでいると、
「夏休みの間、先生ってヒマなのかと思ってましたけど、そうじゃないんですね」
と、西森がつぶやいた。

確かに、おれも学生の時は『先生は夏休み、ヒマそうでいいな~』と思ったことがあるが、実際、先生になってみると『そんなことは無かった』と、淡い夢を打ち砕かれたような気分だ。

「西森は、やっぱり夏休みも勉強オンリーの毎日?」

おれが聞くと、西森は誇らしげな顔をして大きくうなずき、
「ハイ、今回の模試の結果も良かったですし、このまま良い成績をキープするためにも、勉強をがんばりたいと思います」
と、うれしそうに答える。

やっぱり、西森はすごいな・・・。

おれが学生だったら、夏休みにずーっと勉強なんて、絶対イヤだけど、それを「がんばります」と言えるなんて、ほんとに尊敬してしまう。

と、同時に、ちょっとさみしい気持ちにもなってしまった。

というのも、今日はこうやって食事に誘ってくれたけど、この先の長い夏休み、一緒に出かけることはあるのだろうか・・・。

そう思ったおれは、
「その・・・、もしよかったら、夏休みどこか出かける?」
と、軽くデートのお誘いをしたところ、西森は、
「えっ!?」
と、ビックリしたような声を出した。

「いや、その、おれも仕事で忙しいけど、1日ぐらいなら、花火に行ったり、海とか山にドライブに行ったりできるけど、どうかな?」

西森とデートと言えば、プラネタリウムに1回行ったっきりで、あれ以来、どこにも行っていない。

もちろん、「先生と生徒」という立場上、堂々とデートするわけにもいかないし、人混みが多い場所に出かければ、誰か知り合いに出くわす可能性もあるので、なるべく控えた方が良いとは分かっているものの、でも西森との『夏の思い出』が1つぐらい欲しい、というのも本音である。

西森がちょっとうつむきながら、
「花火・・・」
とつぶやいた。

「あ、いや、花火にこだわらなくてもいいから」
とフォローしていると、『プルルルル~』と西森の携帯が鳴った。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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