第9話:風邪をひいた日の話(その29)

文字数 718文字

押し倒された夏菜は、ちょっと驚いたような顔で、
「せ、先生?」
と、声を出した。

その表情を見て、ハッと我に返る。

「ご、ごめん!
つい、調子に乗っちゃって!!」

おれは謝りながら、あわてて夏菜から離れた。

あ~っ!もう!
何やってんだよ!

完全に、雰囲気にのまれてしまっていた!

夏菜が抵抗しないからって、自分の欲求をぶつけていいわけないのに!!

自分の弱さに猛烈に反省していると、夏菜が、
「べ・・・別に謝らなくていいですよ」
と言って、後ろからギュッと背中に抱きついてきた。

「!?」

まさかの大胆行動に、驚いて、心臓がまたバクバク音を立て始める。

え?
夏菜のこの行動の意味は何なんだ!?

『謝らなくていい』っていうことは、夏菜も『押し倒されて嫌では無かった』ということなのか!?

その先に進んでも良い、ってことなのか!?

い、いや、そんなわけはないはず!

だけど、でも、なんで・・・

頭の中でパニックを起こしていると、夏菜はおれの背中をポンポンと軽くたたくと、
「そろそろ、お粥が出来る頃だと思うので、見てきますね」
と言って、その場を立ち、キッチンに向かった。

夏菜が離れて、ちょっと寂しさを感じたが、それと同時に『ホッ』としている自分がいた。

押し倒した時、夏菜が驚いた顔をしなければ、おれはさらに先に進んでしまっていたかもしれない。

改めて、自分の「自制力」の無さにガックリしてしまった。

「もう・・・毎回、毎回、ダメじゃん・・・」

ものすごく落ち込んでいると、
「先生、お粥が出来ましたよ!」
と、うれしそうに言いながら、夏菜がお粥を持ってきてくれた。

夏菜はニッコリ笑いながら、
「初めて作ったので、失敗するかと思ってましたが、ちゃんと出来てよかったです!
うれしいです!」
と言った。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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