第2話:気になる気持ち(その2)

文字数 2,072文字

「あなた、うちの娘に何してくれてるんですか!」

と、思い切り西森の母に平手打ちされたおれは、
突然の出来事にビックリしすぎて言葉を失い、
ただ茫然とその場に立ち尽くしていた。

いつも冷静な西森だが、さすがに驚いたのか、
「お母さん!この人、学校の先生なの!」
と言って、あわてて間に入って来た。

すると西森の母は目を大きく見開き、
「ええっ、先生ですって!?」
と叫んだ。

西森の母が驚くのも、よく分かる。

だって今のおれは、Tシャツにジーンズ姿で、
履いているクツもスニーカーだ。

どう見ても『学校の先生』には全く見えない。

「信じられない」とまだ不審がっているお母さんに
とりあえず事情を説明することにした。

「驚かせてしまって、すいません。
副担任の高山と言います。
帰り道にたまたま西森さんと出会いまして、
夜も遅かったので家まで送らせてもらいました。」

60%ほど事実を隠している部分もあるが、40%は事実を伝えたと思う。

でもこの場で、
西森が『帰りたくない』と言ったことやら、
おれが無理やりマンションに連れて行ったことなどを話したら、
平手打ちでは済まされないような気がしたので、
簡単な説明だけで済ませた。

すると西森の母は、
「まあ、そうでございましたの!
先生とは知らずに失礼なことをいたしまして、
大変申し訳ございませんでした」
と急に態度を変え、深々と頭を下げる。

さらには、
「どうしましょう!
このことで夏菜の内申書が悪くなってしまったら・・・」
と急にオロオロし始めた。

さすが『教育ママ』さん。
何よりも娘の『内申書』のことが心配なんですね。

なのでおれは、
「ハハハハ、大丈夫ですよ。
こんなことぐらいで娘さんの内申書が悪くなることなんてありませんから」
と、笑って答えた。

すると西森の母も安心したのか
「そうですか、それならホッとしました」
と表情を緩ませた。

よかった・・・
なんとかこの場を収めることができた。

まだ平手打ちされた頬は痛んでいるけど。

「先生、娘を送って下さって、ありがとうございました。
では失礼いたします」

そう言って西森とお母さんは家に帰って行く。

そんな二人を何気に見送っていると
西森が家の中に入る前にチラッと一瞬だけおれの方に目を向けた。

「え?」

だが西森は特に何も言わず、家の中へと消えて行った。

こちらを見たのは、
特に何の意味もなかったことかもしれない。

でも・・・

気になっちゃうだろ!

何なんだよ、あいつは!!

今日1日でおれの頭の中を、
西森のことでいっぱいにさせてくれちゃって!

夜道を1人帰りながら心を落ち着かせる努力をした。

とりあえず落ち着け、落ち着け。

まだこれは『特別な気持ち』なんかじゃない。

ただ、いつも見慣れていない
『照れ顔』や『笑顔』を見てしまったから
頭の中がパニックになっているだけであって、
世間一般的によく言われている『恋愛感情』などでは断じて無い!

そう、
断じて無い、はずだが・・・

なんであいつの『笑顔』が頭の中から離れないんだ・・・。


翌日、学校に出勤すると
おれの机の席からよく見える壁の所に
例の『禁止行為 三箇条』が書かれた額縁が掛けられていた。

『禁止行為 三箇条』
1:女生徒と二人きりにならない
2:女生徒と二人で外に遊びに行かない
3:女生徒に特別な感情を持たない

なに、これ!?

昨日、おれと西森が二人きりでいたところを誰か目撃したの!?

改めて三箇条を見てみるとすでに違反しているものもあるような・・・。

ドギマギした気持ちで三箇条を見ていると、
肩にポンと誰かが手を置いた。

「!?」

振り返ると、そこには教頭先生が立っていて
「高山先生、三箇条のこと忘れないでくださいね」
と冗談っぽく言ってきたが、目は本気だ。

「は・・・はい・・・」

教頭先生にそう言われ、急に現実に連れ戻された気がした。

おれと西森は、先生と生徒という立場であって
それ以上の関係になってはいけない。

これは当然のことである。

うん、大丈夫だ。
おれは西森のことを何とも思っていない。

ただちょっと昨日は、見慣れない表情に動揺しただけであって、
恋愛対象なんかじゃない。

だから、次の授業が西森のクラスでもほら、
こんなに平気・・・

って、全然平気じゃねーよ!!

昨日の夜、
事故だったとはいえ西森のことを抱きしめてしまったし、
『課外授業』とか変なことも口走ってしまったし、
平常心で西森に会えるわけないだろ!

って、西森もおれのこと意識していたらどうするんだ!?

ダメだ、メンタルが弱すぎる。

教室の扉を開けないといけないが、
緊張してなかなか開けることができない。

でも、このままアホみたいに
廊下に突っ立っているわけにもいかないので、
勇気を出して勢いよくガラッとドアを開けた。

「起立、礼、着席」
と日直の号令で、生徒が挨拶をし席に座る。

「では、今日はこの前の続きを・・・」

平常心を保ちながら授業を始めた瞬間、西森とバチッと目が合った。

少女マンガや小説の展開であれば、
西森は照れた表情でそっと目をそらすはず、であったが・・・

「じーっ」

西森はおれのことを怒った顔で
じーっとにらみつけているではないか!?

え!?なんでそんなに怒ってるの!?
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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