第12話:苦手な優等生(その12)

文字数 1,337文字

西森から超予想外の質問を投げかけられ、おれはうろたえた。

『オトコノヒトガ、オンナノヒトトツキアウノハ、
カラダモクテキナンデスカ』

って、本当に何に書いていたんだよ!

質問をした西森も今更ながら恥ずかしくなったのか
真っ赤になってうつむいている。

む・・・、
この表情もなんかレアだな。

いやいや、そうじゃなくて、
天体観測をしに来たはずなのに、なんだ、この展開。

天体望遠鏡は組み立てたものの
まだ一回も星を見ていないまま、1人空を仰いでいる。

とりあえず誤解をさらに広げないように
ここは上手く説明をしなくては。

「西森、それは100%の事実じゃないぞ。
おれはそういう目的で恋愛をしてきたわけじゃないし」

「じゃあ、どういう目的で恋愛するんですか?
先生を含め、同級生達も」

西森のさらなる質問にたじろぐおれ。

どういう目的で恋愛って・・・

言葉で説明しようとすると、なかなか難しいな。

でも、ここで西森に少しでも
「恋愛」に興味を持ってもらわなくては、
教える側としてのプライドもある。

「す、好きな人がいるとだな、
こう世界がパーッとキラキラ輝いて何もかも楽しくなってくるんだ」

両手を振って、
キラキラした様子を表現しながらおれは思った。

なんだ、この下手な例え方。

ああ、おれ理系だったから文章とか考えるの苦手だった。

案の定、西森はおれの言葉を「うそ臭い」と感じているようだ。

「なんです、そのよく分からない例え方。
世界がキラキラって、
模試で1位取った時みたいな風景が恋愛の時も見れるんですか?」

模試で1位を取るとキラキラした世界が見えるのか?

すまん、西森。

おれ、模試で1位を取ったことがないから
西森が言うキラキラした世界がどういうモノなのか分かりません。

というか・・・西森も同じだよな。

恋愛した経験がないから、
おれがいくら言葉で説明したとしても
どんな世界か分かるはずがないんだ。

言葉を詰まらせていると、
「ピピピピ!」と西森の携帯の音が鳴った。

カバンから取り出した携帯はガラケーで、
スマホじゃないのが西森らしい。

「あ、母からです。
心配しているみたいなので、やっぱり帰ります」

西森はカバンを拾い上げ、おれにペコリと頭を下げる。

「先生、私のワガママに付き合ってくれて
ありがとうございました。
恋愛の話、私には無縁の世界だったので
話を聞けただけでも、いい経験になりました。
じゃあ」

もう一度頭を下げ、階段の方に向かう。

帰っていく西森の小さな後ろ姿を見つめながらおれは思った。

きっとこんな風に西森と二人きりで話すことは、もうないだろう。

学校でもほとんど会話することもないし、
まして恋の相談なんかに乗ることも絶対無いだろう。

なぜか急に胸が痛くなった。

さっき一瞬だけ見た西森の笑顔が頭の中に浮かぶ。

あの笑顔をおれは
もっともっと増やしてやることはできないんだろうか。

そう思うと、西森の手をとっさにつかんでいた。

「西森!」

急に手をつかまれた西森はびっくりして振り返る。

「!?」

おれの引っ張る力が強すぎたせいか、
西森はバランスを崩してそのままおれの胸の中に飛び込んできた。

と同時に、西森のカバンが大きく振られ
おれの天体望遠鏡に直撃した。

『ガシャーン!』

おれの目の前で天体望遠鏡はコンクリートの床に打ち付けられ
レンズが割れていくのが見えた。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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