第10話:ドキドキ初デート(その10)

文字数 1,512文字

市街地を走り抜け、30分ほど車を走らせると、右方向に海が見え始める。

目的地のプラネタリウムは山の中にあるのだが、山に入る前に海岸線を走るのだ。

お天気も良くて、海がキラキラ輝いていてまぶしい。

『わあ、きれいだな!』

と、言いたいところではあるが、後ろで西森が勉強しているので、おれは1人寂しく黙ったまま車を走らせる。

すると、
「あ、先生、海が見えてるじゃないですか」
と、突然西森が話しかけてきた。おれはあわてて、
「西森、勉強、終わったのか?」
と聞くと、
「ハイ、とりあえずやらなければならなかった部分は終わりました」
と答える。

そして再び西森は海に目を向け、
「久しぶりですね・・・、海を見るのは」
と、うれしそうな声で言ったので、おれは勇気を出して、
「よかったら、前の席に来ないか?
もっと風景がきれいに見えるぞ。
それに、これから山に入って行くから、市街地と違って、知り合いに会うことも無いだろうし・・・」
と言ってみた。

『風景がきれい』とか『山に入るから人に会わない』とかいろいろ言ってみたけれでも、本心としては西森に隣に来てもらいたいだけだ。

そんなこと、たぶん西森にもバレバレで、『結構です』と即、拒否られると思っていたのだが、意外にも、
「前に行ってもいいんですか?」
と、助手席に座ることに興味を持ってくれた。

「も、もちろん!」

おれは急いで、道路の空いていたスペースに車を止める。

西森は勉強道具をカバンに片付けると、車を降り、助手席側のドアを開け、中に入って来た。

さっきまで、西森がものすごーく遠くにいた感じがしたが、隣に来たことで、一気に二人の距離が縮む。

助手席にチョコンと座りシートベルトを締める西森。

その時、おれとふいに目が合った。

「あれ?
先生、今日はメガネかけているんですか?」

さっきからもう30分以上一緒にいるのに今になってやっと気づいたようだ。

「一応、変装のつもり・・・」

「あまり変装になってないですよ。」

西森にバッサリ否定され、『ガーン』とショックを受けていたのだが・・・

「でも、なんだかいつもと雰囲気が違って大人っぽく見えますね」

そう言って西森はニッコリ笑った。

「!?」

え!?
西森がおれのことを褒めてくれるなんて!?

さっきまで車の中でも隙のない優等生の表情だったくせに、急に、助手席に座る『かわいい彼女』の顔に変身するなんてズルい!

ダメだ・・・
今すぐここで抱きしめたくなってきた・・・。

でも、それはおれの『自制心』と『シートベルト』が邪魔して実際、行動には移さなかったが、助手席に西森が座っているだけで、こんなに幸せなんて!

その幸せをかみしめるように、しばらくハンドルを握ったままジッとしていると西森が、
「先生?
いつまで止まってるんですか?
プラネタリウムに間に合いませんよ?」
と、心配した顔をしながら言ってきた。

「あ、ゴメン・・・その・・・」

「その?」

狭い車内の中で、2人の目が合ってしばらく見つめ合う。

「西森の私服姿も、すごく可愛かったから思わず見とれてた・・・」

「!?」

おれとしては、素直な感想を述べただけだっがのだが、西森はまさかそんなこと言われると思ってなかったのか、急に真っ赤になって、プイッと顔を窓の方に向ける。

「バ、バカなこと言っていないで、早く車を出してください!」

そんな西森が可愛くて、クスッと笑ってしまった。

「ハイハイ、分かりました」

西森はまだ照れているのか、ずっと窓の外を向いたままだ。

でも、車が走り始め、キラキラ輝く海が窓一杯に広がると、
「すごい!先生、海がキレイですね!」
と、はしゃぎ始めた。

「うん、本当にキレイだな」

こうして、一時はどうなるかと思った西森との『初デート』が幕を開けたのだった。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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