第8話:先生のお誕生日(その34)

文字数 915文字

意地悪な質問に対して、意地悪な質問で返され、
「うっ・・・」
と言葉につまってしまう。

「どっち?」

先生に答えを促されて、ますます頭の中がゴチャゴチャになってくる。

私はどうしたいの?
先生に近づいてほしいの?
それとも、近づいてほしくないの?

きっと先生は『近づいてほしくない』って私が答えると思ってる。

そう答えたら、先生はちゃんと距離を取って、今日一日を過ごしてくれるだろう。

うん、きっとそう答えた方が『優等生』らしくて、良いと思う。

でも・・・

「・・・いいですよ」

私がポツリと小さな声で答えた。

「え?」

小さな声だったので、たぶん先生には聞こえてない。

というか、恥ずかしくて、どうしても声が小さくなってしまう。

そこをがんばってもう少し声を出して、
「ち・・・近づいてもいいです」
と言うと、今度は先生にも声が届いたみたいで、
「!!」
と驚いた顔で固まっている。

そして、
「え!?え!?
ち、近づいてもいいの!?」
と、先生が目をキラキラ輝かせながら聞いてくるので、
「い、いいですけど、条件があります!」
と私はあわてて付け加えた。

「じょ、条件?」

突然「条件」を言い出されたため、先生は首をかしげる。

私はうなずき、
「ち、近づいてもいいけど『何もしない』という条件です!」
と提案すると、先生は、
「ええええええ~!?」
と声を上げて、床にゴロッと倒れ込んだ。

そして、
「それ・・・一番、おれにとって過酷な条件じゃん・・・。
むしろ『近づかないでくれ』と言ってくれた方が、楽だった・・・」
とブツブツつぶやいている。

しばらく先生は倒れ込んだまま天井を見ていた。

困らせてしまったかな、と思ったけど、すぐに先生はムクリと起き上がり、
「・・・分かった。
何もしないように、がんばる」
と言った。

「が、がんばる?」

『がんばるって、どうやって?』と思っている内に、先生は私の隣にやって来て、すぐそばに座った。

「え・・・」

お互いの腕が触れあうぐらいの近さ。

さっきまでとても遠く感じられていた距離が、一気に縮まり、また心臓がドキドキ高鳴り始める。

私は真っ赤になり、
「ほ、ほんとに何もしません?」
と聞くと、先生は私の顔をのぞきこみ、
「努力はするけど、ブレーキ効かなくなったらゴメン」
と言った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み