第9話:教育実習生にメラメラ(その9)

文字数 1,210文字

教育実習生としてやって来た「中原みのり」先生の登場で、クラスはざわめいていた。

男子達は、中原先生の可愛さにメロメロ状態で、
「あ~、話しかけたいけど勇気が出ないな」
とか、
「勉強が分からないふりして、話しかけてみる?」
とか、くだらないことで盛り上がっているようだ。

女子は女子で、中原先生がわざと『かわいこ』ぶって男子達の気を引こうとしていると思い込み、
「なんか気にくわないのよね」
とブツブツ言っている。

私にとっては、全くを持って「どうでもいい話」なのだが、気になることが一点・・・。

「ちょっと見た!?
さっき、高山ちゃんと中原先生が、仲良さそうに一緒に歩いていたんだけど!?」

休み時間に、そう騒ぎながら、クラスメイトの女子達が教室に入って来た。

「え・・・?」

思わず心臓が「ドキッ」と鳴った。

もうすぐ『全国模試』も近いので、読んでいる参考書に集中しないといけないのに、なぜか耳は女子達の会話の方に向いている。

「中原先生は国語の担当でしょ?
なのになんで地学の高山ちゃんと話をしてるのよ」

「分かんない。
でも、一緒に歩いていたの本当のことだもん」

ドキンドキン・・・

ますます心臓が高鳴っていく。

頭では「参考書に集中しないと!」と思っているのだが、心の中では『なんで先生が中原先生と一緒に歩いていたのか』、その理由が全く分からなくて混乱している。

別に先生が他の女の人と歩いていても、私には関係ないし、どうでもいいことのはずなのに・・・。

全く参考書に集中できないまま、授業開始の鐘が鳴り、あわてて教科書を机の上に取り出す。

「ええと・・・、次の授業は・・・
国語だ・・・。」

ウワサの中原先生が、担任の吉川先生と一緒に教室に入って来た。

男子からは「やった!」と、うれしさの声が上がり、女子からは「チッ」と舌打ちするような音が。

吉川先生は、
「今日は、中原先生にも授業の実践をしてもらうから、みんな、しっかり聞くように」
と言って、自分は窓際の方に退いた。

「じゃ、じゃあ、皆さん、よろしくお願いします。」

中原先生は、ちょっとオドオドしながら教壇に立つ。

「教科書58ページを開いてください。
今日は『王子と召使』の小説を読んでいきたいと思います。
では、赤川君、最初から読んで下さい。」
と言って、授業を始めた。

教育実習生とはいえ、まだ大学生。

いきなり「授業をやれ」と言われても、何をどうすればいいのか正直分からないだろう。

なので、登場人物の心理描写を一生懸命説明してくれているが、教えられている側としては、あまりよく分からない。

授業レベルは、高山先生よりももっと低いと思う。

でも・・・。

フワフワの髪の毛、愛くるしい笑顔、男子が騒ぐのも無理ない。

中原先生は、やっぱりかわいい・・・。

それに比べて私は、性格もかわいくないし、いつも仏頂面だし、何一つ『女の子』として勝っている点が全く無い・・・。

これじゃ、先生が中原先生のことを好きになっても仕方ないな、と思った。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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