第14話:教育実習生にメラメラ(その14)

文字数 1,086文字

塾の外に出ると、もうすっかり夜になっていて、会社帰りの人たちが駅に向かって歩いている。

塾はオフィス街にあるので、夜だけど人通りも多いし、電灯も明るい。
だから1人で外で立っていても怖くはないけど、私の心臓はさっきからドキドキしっぱなしだ。

時計を見ると、夜の8時半。

「先生、まだ学校かな?
それとも家に帰ってるのかな・・・。」

家に帰ると親がいるので、電話をするとしたら今しかチャンスがない。

でも、いざ先生に電話をするとなると何を話していいのか分からず、携帯を握りしめたまま立ち尽くしている。

「どうしよう・・・。
電話する勇気が出ないよ・・・。」

先生の電話番号を携帯の画面に表示させているけど、勇気が無くて「通話」ボタンが押せない。

押してしまえば、先生の電話に即つながるのに・・・。

うじうじ悩んでいると、ふと頭の中に「中原先生」が浮かんできた。

もし、今、私が電話をしなければ、先生は「かわいくない私」より「かわいい中原先生」を選んでしまうかもしれない・・・。

「もーっ!
謝るぐらいできるでしょ!」

その瞬間、思わず「通話」ボタンを押してしまい、「トゥルルルル~」と呼び出し音が鳴り始めた。

「えっ!どうしよう!?」

思わず『切る』ボタンを急いで押そうかと思った瞬間、
「西森か!?」
と、電話から先生の声が聞こえてきた。

え!?
1コールで電話を取る!?
はやっ!?

「あっ、いや、その・・・」

先生に『電話で何を話すか』とういうことを事前にシュミレーションしてなかったので、頭の中が真っ白で、あたふたとした言葉しか出てこない。

でも、先生は、
「よかった・・・」
と一言。

「え?何がよかったんですか?」

私が思わず聞き返すと、先生は、
「だって、西森、何か怒っていたみたいだったから、もう話もしてくれないのかと不安だったけど、電話してきてくれてたから、うれしくて・・・」
と、電話の向こうで感極まったような声を出している。

電話したぐらいで、こんなに喜ぶなんて・・・

そう思っていると、
「で、どうしたの?
何か用があったのか?」
と聞かれたので、
「えっ!?」
と驚いた声を出してしまった。

先生に昼間、冷たい態度をとってしまったことを謝ろうと思っていたけれど、いざとなると言葉が出てこない。

「ごめんなさい」と一言言えばいいだけなのに。

何も言えなくて黙ったままの私に先生が、
「西森、今どこから電話してきているの?」
と聞いてきた。

私は辺りをキョロキョロと見回し、
「今、塾から出てきたところです。
これから電車に乗って帰ろうかと・・・」
と答えると、先生は、
「分かった、そこでちょっと待ってて。
今から車で迎えに行くから。」
と言い出した。

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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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