第9話:風邪をひいた日の話(その27)

文字数 859文字

エプロン姿がかわいい、と言われた夏菜は、
「こっ、これは!
お母さんが買ってきたもので、家にあったから、ただ持ってきただけです!」
と言う。

やはり『おれのために買ったもの』では無かったようだが、そんなことはどっちでもよくて、
「いずれにせよ、かわいいよ、夏菜」
と言って、さらに強く抱きしめると、夏菜もおれの手にソッと触れ、
「と、とりあえず、お粥を作らせてください・・・。
火にかけたら、お粥が出来るまで、先生とお話していますから・・・」
と、頬を真っ赤にしながら言った。

夏菜にそう言われたので、
「分かった。
お粥の準備ができたら、こっちにおいで。
おれも、夏菜とゆっくり話をしたいから」
と言って、おでこに軽くキスすると、とりあえず夏菜から離れ、部屋に戻った。

そのやり取りで、ちょっと冷静さを取り戻したのか、心の中で、
『ああああ~っ、やってしまった!!
今回はお見舞いに来てもらっただけだから、手は出さないと、誓っていたのに!!』
と、激しく後悔する。

いや、もう、いつもそうなんだけど・・・。

『手を出さない』といつも思っているのに、いつもいつも我慢出来ずに、手を出してしまう癖をなんとか治したいのに!

でも、やっぱり、夏菜を目の前にすると『欲望』の方が勝ってしまう、自分が悲しい・・・。

ガックリ落ち込んで、その場に座り込んでいると、
「お粥、火にかけてきました」
と言って、夏菜が部屋に入ってきた。

「あ、うん!
出来るのが楽しみ!」

おれがそう言うと、夏菜はうれしそうに微笑んだ。

くっ、可愛い!!
なんで、そんな可愛く笑うんだよ!!

これじゃあ、また、抱きしめてしまいそうになるじゃん!

『話をするだけ』だ!

距離を保って、話をするだけ・・・・

と、必死に自分の『欲望』に負けないように、心に抑制をかけていたのだが、夏菜がどんどんおれに近づいてくる。

「え?」

夏菜はおれのすぐそばに座ると、
「ついこの前、先生のお誕生日を祝った時に、いっぱいお話したのに、なんで、またすぐに『もっとお話ししたい、一緒にいたい』って思っちゃうんでしょうね」
と言って、ニコッと笑った。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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