第8話:気になる気持ち(その8)
文字数 2,312文字
おれに見つめられた西森は、やっと赤みが消えかかっていた頬を再び真っ赤にして、
「きょ・・・今日だけですよ」
と言った。
「え?」
まさかOKの返事が返ってくると思っていなかったおれは、思わず驚いてしまった。
ウソじゃないのかと思って、
「ほんとに?
ほんとに一緒に飯に行ってくれるの?」
と再度西森に問う。
西森はちょっと怒りながら、
「勘違いしないでくださいよ!」
と言った。
「か、勘違い?」
え?
おれ、何か勘違いしてた?
「ハイ、別に先生とご飯が食べたいわけじゃなくて、前から行ってみたいお店があったんですけど、一人で入る勇気が無くて、一緒に行ってもらいたいだけですから!」
『おれと一緒にご飯を食べたいわけじゃない』
ということを強調されたが、そんなことは今どうでもいい。
西森と一緒に特別な時間を過ごせられるのであったら、例えボロボロな食堂だったとしても、何だって構わない!
やったー!
マジでうれしい!
ここがコンビニでなかったら、絶対叫んでいたと思う。
おれは西森の手をギュッと再び握りしめると、
「西森、ありがと!どこのお店でもお供しますよ!」
と笑顔で言った。
西森はなんだか『勝負に負けた』ような悔しそうな顔をしていたが、でもおれが握っている手を離そうとはしなかった。
「と、とりあえず先生、コンビニから出ましょう。
さっきから他のお客さんからの視線が恥ずかしいんですけど」
西森にそう言われ、改めて周りを見ると、さっきまでガラガラだったコンビニは、いつの間にか晩ごはんを買うお客さんでいっぱいになっていた。
あわてて西森の手を離し、
「そうだな、じゃ、外に出よう」
と言って、ドアの方に歩き出した瞬間、ハッとあることを思い出してしまった。
西森とコンビニで遭遇してから、ずっと左手に握りしめていた『彼氏とイチャイチャするならこんな場所』特集の女性誌だ。
西森を飯に誘い出すのに必死になりすぎていたせいか、雑誌は手の中で完全に丸まってしまい、今さら棚に戻すこともできない状態だ・・・。
おれはあわてて西森の方に振り返り、
「西森、先で外で待っていてくれないか?」
と言って、レジに向かう。
「お会計、540円です」
さっきからおれと西森のやり取りを見ていたコンビニの店員は、女性誌の表紙を見て、
『今からあなた達、イチャイチャするんですか?』というような目で、おれを見ている。
でも、ここで照れた顔を見せたら、完全に気持ちを見透かされるような気がしたので、
「ありがとうございます!」
と、超さわやかな笑顔で受け取り、何事もなかったようにコンビニを出た。
外では西森が、ちゃんと待ってくれていた。
『彼氏×彼女』じゃないけど、おれのことを待ってくれている姿を見ると、思わずそんな気持ちにさせられてしまう。
「じゃ、行こうか」
空に輝き始めた星を見ながら、おれと西森はゆっくり歩き始めた。
少し緊張している西森の横顔を見て、もう後戻りできない覚悟をおれは心の中でかみしめていた。
***
「それで、西森が行きたいお店ってどこ?」
一緒に食事をする条件として『一度行きたかったお店に付いてきてくれること』と西森から提案されていたので、おれはどこのお店に行きたいのか聞いてみた。
女の子だから、オシャレなカフェとか、イタリアンなお店辺りを想像していたのだが・・・。
「あ、あのお店です」
西森が指さした先を見てみると、『スタミナ大王』の看板をデカデカと掲げているラーメン屋だった。
ここのラーメンはメガ盛りで、ラーメンの上に大量のもやし、チャーシュー&ニンニクが乗っていて、食べ盛りの男子高校生&大学生に人気のお店だ。
そういうおれも、けっこう通い詰めている常連客で、大将とは『顔なじみ』であったりする。
「え!?ほんとにこの店でいいのか!?
ラーメン屋だぞ?」
普通の女子高生なら絶対選ばないようなお店をチョイスしてきたので、おれは驚いて西森に確認をした。
「ハイ、そうですけど?なんか変ですか?」
西森はあっけらかんと答える。
「いや、変じゃないけど、なんかもっとかわいらしいお店に行きたいのかと思っていたから、ビックリしたというか・・・」
「いつも塾の帰りに前を通るたびに美味しそうな匂いがしていたので、食べてみたかったんです。
でも、男のお客さんが多いので1人では入る勇気がなくて。
でも、先生と一緒だったら大丈夫かな、と思ってここを選んでみました」
そう言ってうれしそうに話す西森を見たら『もっとオシャレなお店に行こう』とも言えず、泣く泣くラーメン屋に入ることにした。
おれとしては、落ち着いて話せる場所を期待していたのだが、ラーメン屋じゃ人もいっぱいで、西森と真面目な話をしたとしても隣の席の人たちに会話がダダ漏れ状態だ。
フフフ・・・、世の中、そんなに甘くないよな・・・。
さっきは、
『西森と一緒に行けるならボロボロなお店でも構わない!』
と思っていたけれど、実際にボロボロなラーメン屋を前にすると、
『こんな店はイヤだ~!!』と本音が出てしまう。
でも西森との約束なので、仕方なくラーメン屋の扉を開けた。
「ヘイ!らっしゃい!」
と、威勢のいい声で店員さん達に迎えられる。
やはりこの時間帯、男子大学生、サラリーマンを中心に店内はたくさんのお客さんでにぎわっていた。
空いている席を探していると、
「おや!?流ちゃんじゃないか!」
と大将が大声で話しかけてきた。
やばい・・・
制服姿の女子高生を連れているのを見られたくなかったのだが、さっそく見つかってしまうとは・・・。
「あ、大将、こんばんは。
今、混んでて席が無い?」
席が空いてなくて、追い返されることを期待していたのだが、大将は、
「1階は埋まっているけど、2階の個室なら空いてるよ」
と言ってきた。
「きょ・・・今日だけですよ」
と言った。
「え?」
まさかOKの返事が返ってくると思っていなかったおれは、思わず驚いてしまった。
ウソじゃないのかと思って、
「ほんとに?
ほんとに一緒に飯に行ってくれるの?」
と再度西森に問う。
西森はちょっと怒りながら、
「勘違いしないでくださいよ!」
と言った。
「か、勘違い?」
え?
おれ、何か勘違いしてた?
「ハイ、別に先生とご飯が食べたいわけじゃなくて、前から行ってみたいお店があったんですけど、一人で入る勇気が無くて、一緒に行ってもらいたいだけですから!」
『おれと一緒にご飯を食べたいわけじゃない』
ということを強調されたが、そんなことは今どうでもいい。
西森と一緒に特別な時間を過ごせられるのであったら、例えボロボロな食堂だったとしても、何だって構わない!
やったー!
マジでうれしい!
ここがコンビニでなかったら、絶対叫んでいたと思う。
おれは西森の手をギュッと再び握りしめると、
「西森、ありがと!どこのお店でもお供しますよ!」
と笑顔で言った。
西森はなんだか『勝負に負けた』ような悔しそうな顔をしていたが、でもおれが握っている手を離そうとはしなかった。
「と、とりあえず先生、コンビニから出ましょう。
さっきから他のお客さんからの視線が恥ずかしいんですけど」
西森にそう言われ、改めて周りを見ると、さっきまでガラガラだったコンビニは、いつの間にか晩ごはんを買うお客さんでいっぱいになっていた。
あわてて西森の手を離し、
「そうだな、じゃ、外に出よう」
と言って、ドアの方に歩き出した瞬間、ハッとあることを思い出してしまった。
西森とコンビニで遭遇してから、ずっと左手に握りしめていた『彼氏とイチャイチャするならこんな場所』特集の女性誌だ。
西森を飯に誘い出すのに必死になりすぎていたせいか、雑誌は手の中で完全に丸まってしまい、今さら棚に戻すこともできない状態だ・・・。
おれはあわてて西森の方に振り返り、
「西森、先で外で待っていてくれないか?」
と言って、レジに向かう。
「お会計、540円です」
さっきからおれと西森のやり取りを見ていたコンビニの店員は、女性誌の表紙を見て、
『今からあなた達、イチャイチャするんですか?』というような目で、おれを見ている。
でも、ここで照れた顔を見せたら、完全に気持ちを見透かされるような気がしたので、
「ありがとうございます!」
と、超さわやかな笑顔で受け取り、何事もなかったようにコンビニを出た。
外では西森が、ちゃんと待ってくれていた。
『彼氏×彼女』じゃないけど、おれのことを待ってくれている姿を見ると、思わずそんな気持ちにさせられてしまう。
「じゃ、行こうか」
空に輝き始めた星を見ながら、おれと西森はゆっくり歩き始めた。
少し緊張している西森の横顔を見て、もう後戻りできない覚悟をおれは心の中でかみしめていた。
***
「それで、西森が行きたいお店ってどこ?」
一緒に食事をする条件として『一度行きたかったお店に付いてきてくれること』と西森から提案されていたので、おれはどこのお店に行きたいのか聞いてみた。
女の子だから、オシャレなカフェとか、イタリアンなお店辺りを想像していたのだが・・・。
「あ、あのお店です」
西森が指さした先を見てみると、『スタミナ大王』の看板をデカデカと掲げているラーメン屋だった。
ここのラーメンはメガ盛りで、ラーメンの上に大量のもやし、チャーシュー&ニンニクが乗っていて、食べ盛りの男子高校生&大学生に人気のお店だ。
そういうおれも、けっこう通い詰めている常連客で、大将とは『顔なじみ』であったりする。
「え!?ほんとにこの店でいいのか!?
ラーメン屋だぞ?」
普通の女子高生なら絶対選ばないようなお店をチョイスしてきたので、おれは驚いて西森に確認をした。
「ハイ、そうですけど?なんか変ですか?」
西森はあっけらかんと答える。
「いや、変じゃないけど、なんかもっとかわいらしいお店に行きたいのかと思っていたから、ビックリしたというか・・・」
「いつも塾の帰りに前を通るたびに美味しそうな匂いがしていたので、食べてみたかったんです。
でも、男のお客さんが多いので1人では入る勇気がなくて。
でも、先生と一緒だったら大丈夫かな、と思ってここを選んでみました」
そう言ってうれしそうに話す西森を見たら『もっとオシャレなお店に行こう』とも言えず、泣く泣くラーメン屋に入ることにした。
おれとしては、落ち着いて話せる場所を期待していたのだが、ラーメン屋じゃ人もいっぱいで、西森と真面目な話をしたとしても隣の席の人たちに会話がダダ漏れ状態だ。
フフフ・・・、世の中、そんなに甘くないよな・・・。
さっきは、
『西森と一緒に行けるならボロボロなお店でも構わない!』
と思っていたけれど、実際にボロボロなラーメン屋を前にすると、
『こんな店はイヤだ~!!』と本音が出てしまう。
でも西森との約束なので、仕方なくラーメン屋の扉を開けた。
「ヘイ!らっしゃい!」
と、威勢のいい声で店員さん達に迎えられる。
やはりこの時間帯、男子大学生、サラリーマンを中心に店内はたくさんのお客さんでにぎわっていた。
空いている席を探していると、
「おや!?流ちゃんじゃないか!」
と大将が大声で話しかけてきた。
やばい・・・
制服姿の女子高生を連れているのを見られたくなかったのだが、さっそく見つかってしまうとは・・・。
「あ、大将、こんばんは。
今、混んでて席が無い?」
席が空いてなくて、追い返されることを期待していたのだが、大将は、
「1階は埋まっているけど、2階の個室なら空いてるよ」
と言ってきた。