第1話:ドキドキ初デート(その1)

文字数 1,694文字

西森と(仮)だけど『恋人同士(?)』になってから、初の登校日がやって来た。

今日からどんな素晴らしい毎日が始まるのかと思うと、ウキウキ気分が止まらない。

「おはようございます!」

いつも以上に明るく元気にあいさつをして職員室に入ると、他の先生から、
「何かいいことあったの?妙にご機嫌だね」
と声をかけられる。

「えっ、そうですか!?」

相変わらず『感情』が顔に出やすいようで、『幸せ気分』がダダ漏れ状態のようだ。

いかん、いかん!

おれはホッペをたたいて、気合を入れる。

ここは学校だ。
西森との関係は絶対ヒミツにしないといけない。

とにかく西森に迷惑をかけてはいけない。

それには、おれがヘマをしなければいいのだが、いつも「ここぞ」という場面で失敗を繰り返すクセがあるからな・・・。

そんなことを1人いろいろ考えていると、担任の吉川先生が「おい、高山」と声をかけてきた。

「吉川先生、おはようございます」

おれがあいさつをすると、吉川先生は、
「急な話だけど、今日の朝のHR、おまえが代わりに行ってくれないか?」
と言ってきた。

「HR?
別にいいですけど・・・」

軽く返事をしたものの、待ってくれ。

朝のHRって、西森とすぐさま顔を合わせることになってしまうじゃないか!?

会うのは3時間目の地学の授業だと思っていたので、心の準備がまだ出来てない!

なぜかオロオロしているおれの様子に、吉川先生は「?」と首をかしげるが、
「すまないが、このプリントを配って、来週までに提出するように伝えておいてくれ。
詳しい内容は、また後でおれから生徒達に説明するから、とりあえず配るだけ配っておいてくれないか?」
と言いながら、プリントをおれに渡す。

「はあ・・・」

おれは手渡された用紙に目をやると、それは『進路希望調査』の内容だった。

「進路希望・・・、超真面目な内容じゃん・・・」

西森達はまだ高校2年生だが、そろそろ大学受験の進路を考え始める時期でもある。

西森と付き合えることになって浮かれ気分のおれだったが、現実はそう甘くはない。

西森にはちゃんと勉強してもらいたいし、おれもその邪魔にならないように最大限の努力はしようと思う。

なので、今は浮かれた気持ちを封印し、シャキッと背筋を伸ばし『先生』の立場として教室に向かった。

でも・・・

心は素直なモノで、教室が近づくにつれ、どんどん心臓の音がドキドキ高鳴ってくる。

西森に会えるのはうれしいが、何かヘマをやらかしそうで怖い。

『確か西森の席は・・・』

おれは頭の中で、西森の席を思い出そうとしていた。

西森の席は、ちょうど真ん中の後ろの方だったから、なるべくそこに目を向けないようにすれば、おれも冷静さを保てるだろう。

いや、でも完全に無視すると西森から『無視された』と文句を言われるかもしれないから、ちらっと一瞬だけでも目を合わせた方がいいのだろうか・・・。

そんなくだらないことをウジウジ考えているうちに、いつの間にか教室の前までやって来ていた。

教室からはワイワイと騒ぐ声が聞こえてくる。

「またあいつら、騒いでいるな」

そう思うと、急に『先生』へのスイッチが入った。

おれはガラッと勢いよくドアを開け、
「ほら、HRやるから静かにしろよ」
と言って教室に入る。

「あれ?高山ちゃんじゃん。吉川先生は?」

担任でなく副担任がやって来たので、生徒たちは不思議そうな顔でおれを見ている。

「吉川先生は用があるから、代わりにおれが来たんだ。
プリント配るから、後ろの人に回してくれ」

そう言いながら、右側の席からプリントを渡していく。

ここまでは順調だったが、ちょうど真ん中の列に来た時、ふと西森と目が合ってしまった。

西森のことだから、いつもと変わらないポーカーフェイスのままだろう、と思っていたのだが・・・

西森は急にビクッとすると、顔を少し赤らめて下を向いてしまった。

「えっ!?」

西森の予想外の反応に思わずおれもビックリして、手に持っていたプリントを床に落としそうになる。

ちょっと、西森!
何、そのかわいい仕草!?

頼むから、今ここでそんな表情をするのはやめてくれ!

女子はともかく、おれ以外の男には、西森のかわいい表情を絶対見せたくないんだ!
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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