第30話:教育実習生にメラメラ(その30)

文字数 1,220文字

「イヤじゃないのか?」

先生の手がソッと私の髪の毛に触れる。

「つまり・・・その・・・
西森はおれと別れたくないって、少しは思ってくれているってこと?」

「え?」

「おれと『仮』だけど、付き合っていることが、イヤじゃない?」

急に心臓がドキンとする。

さっきまで、あんなに『本音の気持ち』があふれて、平気で先生にぶつけていたのに、こうやって先生から攻められると、恥ずかしくなって何も言えないなんて・・・。

これでは卑怯すぎる。

先生にビンタをくらわしておきながら、正攻法で攻められるとダンマリしてしまうなんて・・・。

「西森?
本当のこと言って。
じゃないと、おれもこの先、どうしたらいいか、本当に分からなくなるから」

本当のこと・・・

「わ・・・分からないです・・・。」

「分からない?」

これが、私の本当の気持ちだと思う。

でも、もうちょっと言葉を付け足さなければ、先生には伝わらない。

「自分の中で、いろんな気持ちがうごめいているというか・・・。
先生のことが、うっとうしい、と思うこともあります。
見ていてイライラすることもよくあります。」

「う・・・うん・・・」

私のストレートな言葉に、先生は少し困惑しているようだ。

でも、これが私の本当の気持ち。

「だから、先生と別れたら、どれだけ気持ちが楽になることか、と思ったんです。
でも・・・」

「でも?」

「なぜか・・・心のどこかに、『イヤだ』っていう気持ちが現れて・・・」

私の髪の毛に触れていた先生の手が、今度はソッと頬に触れる。

心臓がさらにドキドキ高鳴っていく。

でも、結果が悪いと予想される試験の結果を見る時にドキドキ高鳴る嫌な心臓の音ではない。

くすぐったくて、でも心地よくて、もっと先生に触れたくて・・・。

「西森」

「は、はい!?」

急に名前を呼ばれて、声が少し裏返る。

先生は私の目をじっと見つめてこう言った。

「おれ、西森と仮で付き合おうって言った時に言った言葉覚えてる?」

「先生が言った言葉・・・」

なんだろう、何か言っていたような気がするけれど、思い出せない。

すると先生が、
「今、西森がおれに感じてくれている気持ちが一体何なのかを、教えてやるって。
特別な『課外授業』を受けてみないか、って。」
と言った。

『課外授業』・・・。

そういえば、そんなことを言っていたような気がする。

あの時は、
「絶対先生に教えられるわけがない!」
って言い返したような・・・。

すると先生は、グイッと私の体を引き寄せ、
「西森、この『恋の課外授業』、続けて受けてみますか?」
と、改めて提案してきた。

「西森の中にある気持ちが一体何なのか、今度こそちゃんと教えてみせるから」

先生からの再びの挑戦状。

私の答えは・・・

「う・・・受けてあげてもいいですよ・・・」

相変わらず、素直じゃない言い方。

でも、これじゃダメだ。

もっと、ちゃんと私の気持ちが先生に届くように・・・

「でも、もう少し、分かりやすくお願いします!」

そう言って、私は先生の首元にギュッと抱きついた。

(第4話おわり)

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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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