第29話:教育実習生にメラメラ(その29)

文字数 930文字

「先生!」

一方的に「別れよう」と先生に言われて、思わず引き留めてしまった私。

「え?」

先生が振り返った瞬間、私は「バチーン!」と先生の頬にビンタを喰らわしてしまった。

「!?」

先生は驚きの余り、ヨレッと体のバランスを崩し、尻もちをつくように床に倒れ込んだ。

ビンタされた頬に手を添え、ポカーンと口を開け、唖然としている先生。

ダメだ、まだ怒りが収まらない。

「いったい、どういうことですか?」

私の迫力に、先生はしどろもどろだ。

「え?どういうことって・・・」

いつもなら、絶対『自分の本音』を言わず、誰もが期待する『優等生』を演じている私だけど、先生に「別れよう」と言われ、せき止められていたダムの水が決壊したかのように抑えていた気持ちが一気にあふれ出した。

「『つき合おう』って言ったかと思えば、今度は急に『別れよう』って、どういうことですか!?
何、その自分勝手な考え方!!
本当に、自分勝手すぎる!」

すると先生はオロオロしながら、
「え、いや、だって・・・、西森が倒れるぐらい、おれのことが邪魔になっているんだったら、身を引いた方がいいのかと思って・・・」
と、蚊の鳴くような小さな声で答えた。

「だから、それが自分勝手な考え方なんですよ!
散々、人のことふり回しておいて、『別れよう』って、何!?
ただ単に、私をからかって遊んでいたわけですか!?
先生は私と付き合うほどの勇気がなかったわけなんですか!?」

先生が遊びで付き合っていたわけではない、とは分かっていたけれど、飛び出した言葉は止まる術を知らない。

さすがに先生もこの言葉には驚いたのか、
「違う!
断じて、からかって遊んでいたわけじゃない!!
おれは本気で西森が好きでー・・・」
と、即反論してきたが、さっきから情緒が不安定な私は、先生の言葉を信じられない。

「だったら・・・
なんで、急に別れようなんて・・・」

さっきまで「怒り」の感情が心の中で吹き荒れていたのに、今度は急になぜか悲しくなって涙が出てきた・・・。

『感情のジェットコースター』なんて言葉を、本か何かで読んだことがあるけれど、今の私がまさにそれだと思う。

怒ったり、ビンタしたり、泣き出したり・・・。

「西森・・・?」

先生が立ち上がって、ベッドの上で泣いている私に近づいてきた。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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