第13話:苦手な優等生(その13)

文字数 1,373文字

満天の星空の下、
おれと西森は抱き合うような体勢になっていた。

2人とも動かない・・・

というか、動けなかった。

おれの胸の中にいる西森は小さくて、
よく小説やマンガで表現されているように
強く抱きしめてしまえば壊れそうな感じがした。

西森はうつむいたままだ。
どんな表情をしているのかは分からない。

じゃなくて!
とりあえず、体を離さないと!

「西森、すまない!」
と、あわてて体を離した瞬間に西森から
「先生!何やってんですか!
急に引っ張るから私、
先生の望遠鏡を壊しちゃったじゃないですか!」
と怒号が飛んできた。

西森にそう言われて、ハッと望遠鏡のことを思い出した。

あわてて足元を見ると・・・

学生時代、バイトで稼いでがんばって買った天体望遠鏡は
部品が飛び、レンズも割れて、
見るも無残な状態となって倒れているではないか!?

天体望遠鏡との楽しい思い出が頭の中を駆け巡っていく・・・。

しばし放心状態・・・。

自分で蒔いた種ではあるが、
さすがにダメージが大きくて
青ざめたままその場に立ち尽くしていた。

そんなおれを見かねたのか西森は、
「ハァ」とため息をつくと、望遠鏡のそばにしゃがみこんだ。

「先生が手を引っ張るからこうなったんですよ。
99%先生が悪いですけど、
私も注意を怠っていたから1%ぐらい悪かったです。
だから、いくらかは弁償しますよ」

西森にそう言われ思わずおれは、
「いや全然大丈夫。これ安かったモノだし、
もう一本部屋にあるから全然大丈夫!」
と強がってみせた。

本当にもう1本、
これより高いヤツが部屋にあるから大丈夫なんだ!

というか、
生徒に気を使われるなんてどこまでかっこ悪いんだ・・・。

そう言って強がるおれを西森は、
いつもの冷めたような目で見ている。

情けなくて西森の顔を見るのが怖くて天を仰いでいたが、
チラッと西森の方を見てみた。

2人の視線が絡み合った瞬間、
なぜかあわてたように西森が目をパッとそらす。

意外な反応におれはちょっと驚いた。

西森は散らばったレンズのカケラを拾い集めながら、
「先生、なんで急に私のこと引っ張ったんですか?
何か言いたいことでもあったんですか?」
と、急に聞いてきた。

西森に言いたかったこと・・・

望遠鏡が壊れてしばらく放心状態だったが、
現実に連れ戻された。

西森はいつの間にか顔を上げ、
おれの方をまっすぐ見ている。

西森に言いたかったこと・・・

『西森の笑顔をもっと増やしたかった。
もっともっと楽しませて、いろんな表情を見たいんだ』

そう思うと、体が勝手に西森の手をつかんでいた。

急に心臓が高鳴り出す。

何か言いたそうな顔をしているおれを見て、
西森が立ち上がった。

「先生?」

黙ったままのおれを心配そうにのぞきこむ西森。

「その・・・手を引っ張ったのは・・・」

胸のドキドキは最高潮に達し、頭がクラクラしてきた。

今までたくさんの恋愛をしてきたおれが
なぜこんな女子高生に対して、
心臓が爆発しそうなぐらいドキドキしているのか分からない。

『生徒相手に何やっているんだ』

自分の中のもう一人の『おれ』が止めようとしたが、
言葉はすでに発せられていた。

「西森、おれの課外授業を受けてみないか?」

そう言った後で、急に冷静な『自分』が戻ってきた。

『課外授業』って・・・

なに!?
このいかがわしそうな表現!?

もう少しマシな言い方はなかったのかよ!!

ああ・・・もう、なんか・・・
最悪の夜だ・・・。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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