第9話:風邪をひいた日の話(その2)

文字数 906文字

キーンコーンカーンコーン

6時間目の授業が終わり、生徒たちは帰宅の準備を始めたり、部活に向かったりしている。

おれも2年のクラスの授業を終え、職員室に戻るべく、教材を抱えて廊下に出た。

「はああ・・・
やっぱり、西森には会えなかったなぁ・・・」

今日一日、休み時間のたびに、西森の姿を探してキョロキョロしていたけど、全く会えなかった。

ま、教室に行けば、間違いなく会えるのだが、あからさまに行動するのも恥ずかしくて、悩んでしまう。

でも・・・

せっかく両想いになったわけだし、会いに行くぐらいで嫌われたりしないだろう。

むしろ、西森も会いたいと思ってくれている(?)かもしれない。

そう都合よく考えたおれは、職員室に向かっていた足を止め、クルリと向きを変えると教室に向かって歩き出した。

別にそんなに緊張しなくてもいいのに、なぜか心臓がバクバク音を立てている。

学生時代に何人もの女の子と付き合ったことがあるけど、こんなに緊張したり不安になったり、悩んだりしたことは、ほとんど無かった。

なのに、西森のことになると、なんでこんなにドキドキしてしまうんだろう?

理由をいろいろ考えてみたけど、やっぱり、
『西森のことが本気で好きだから』
だと思う。

学生時代のおれは、若かったということもあって、付き合っている彼女と別れても、また別の新しい彼女を探せばいいや、とか軽い気持ちで恋愛をしていたような気がする。

でも、今回は違う。

西森とは、これからもずっと一緒にいたい。

それぐらい本気で好きなんだ。

まさか、そう想える相手が、高校生の女の子になるとは思わなかったけれど・・・。

そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか教室に着いていた。

「ええと…西森は・・・」

廊下の窓から教室の中をのぞきこむと、掃除当番がホウキや雑巾を持って掃除しているのが見えた。

掃除当番以外は、帰宅したか部活に行ったみたいで、ほとんど人がいない。

もちろん西森の姿もない。

きっと、塾にでも行ってしまったんだろう。

「はああ・・・一歩遅かった・・・」

がっくり肩を落とし、ため息をついていると、教室の中から、
「最近、西森ってかわいくなったと思わない?」
としゃべる男子の声が聞こえてきた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み