第157話 忍び寄る影・・・ その5
文字数 2,009文字
神父が助左 との話を思い返していた時、突然誰かに呼びかけられた。
「神父様?」
神父はその呼び声で我に返った。
そんな神父に、さらにの ほ ほ ん とした声がかかる。
「オラに来るようにと使いがきただが、何だね?」
「ああ、お前に頼みたい事があってね。」
「ああ、ええだよ、今日はやることもねぇだ。
だども、神父様ぁ何かあっただかね? ぼ~っとして、神父様らしくねぇ。」
神父に話しかけている者は、教会近くに住んでいる村人である。
名前を捨吉 という。
捨吉に神父は上の教会へする報告書の配達を定期的に頼んでいる。
それ以外に捨吉は教会にいる巫女 や下働き から、いろいろとお願い事をされているようである。
神父は懐 を探りながら捨吉に頼み事をした。
「書状をいつもの教会に届けて欲しい。」
「ああ、あの教会に届ければいいだかね?」
「ええ、あの教会にね。」
「わかりやした。」
「頼んだよ。」
「へぃ。」
捨吉は書状を受け取るとすぐに礼拝堂を出て行った。
その後ろ姿を見ながら、神父は呟く。
「助左に言われて書いたものの、大丈夫なのだろうか?
最高司祭様が見たら心配するのではないだろうか・・。
渡してしまったから今更どうしようもないのだが。」
神父はそう言って眉間に皺 を寄せた。
捨吉に渡したのは定期的に教会に渡す報告書と最高司祭宛 への手紙である。
そのうちの最高司祭宛は、助左に頼まれ書いた短い手紙だ。
その文言は・・
”こちらは厳冬のおり、なれない神薙 の巫女 様は難儀をしております。
それと神薙の巫女様は、田舎暮らしに不満を持ち外に出たいと多少我が儘 になられたようです。
最高司祭様も多忙のことと思います。
お体に気を付けて下さいませ。”
この短い文面を、助左に頼まれ言われるままに神父が書き記したのだ。
神父が知る限り神薙の巫女がここに来てから一言も我が儘など言った事はない。
そのため神父は我が儘だという箇所は削除すべきだと強く助左に言った。
しかし助左に自分からはそう見えるから仕方がないと言い切られた。
さらに最高司祭様から、助左の率直な意見を神父の意見として書いてもらい手紙で報告するようにと指示を出されたと言われたのだ。
そう言われれば、言われた通りに一字一句書くしかなかった。
神父にとって誠に不本意な文言である。
神父は手紙を書きながら苦い顔をしていたのだ。
だが、神父は手紙を書きながら疑問に思っていた。
助左は神薙の巫女を気に入っていたように思えたのだ。
それなのに、なぜ養父である最高司祭様にあのような報告をしたのだろう?
あのような事実無根の事を。
どうしても解せない神父であった。
そしてそのことと、それ以上に頭を痛めていることが神父にはあった。
それは村の入り口の警備だ。
なんとか強化をしたかったのだ。
助左から緋 の国の間者としてお鶴が送り込まれたと聞き、村の入り口を警備している軍にさらなる増強を依頼しようと考えたのだ。
だが、助左にそれを止められた。
なぜならば、拉致 をしようとしているという証拠がないのだ。
あくまでもお鶴が緋の国の間者であるというのは、助左の見たてだけなのである。
それに、いくら元姫巫女 であったとはいえ、今は一介の巫女として幽閉された身だ。
国にとっては御神託を下す貴重な人材であっても罪人扱いなのだ。
その者が拉致されそうだと言っても証拠がないから動かないだろうと助左に言われたのである。
それにもし軍に申請した場合、助左が他国の宮司であることが問題なのだ。
もし助左のことが軍にバレれたならば大変な事になる。
それこそ神薙の巫女を拉致しに来たと思われてしまうだろう。
そして助左が疑がわれ捕らえられたなら、神薙の巫女の護衛がいなくなってしまう。
そうなれば神薙の巫女は容易に拉致されてしまうだろう。
とはいえ、今、村の入り口を警備している者は4,5人程度である。
いくら精鋭だとはいえ、緋の国ならば簡単に排除されてしまう恐れがある。
行き着くところは、助左に頼るしかいない。
だが、助左に今度どうすべきか相談をすると、私に任せなさいの一言である。
本当に大丈夫なのかと聞くと、なんとかなるでしょう、としか言わないのだ。
助左が最高司祭様から使わされその素性を知った時、そしてお鶴の素性を見破ったときは頼りになると思っていたのだが、緋の国に対してノホホンと何とかなるの一言とは。
信用していいのだろうか?
残るは、私が最高司祭様宛にこの村の警備の増強を要請するしかない。
だが、そのような書状を書くと、私自身が最高司祭派閥であると露見する危険が高すぎる。
もし露見すれば小泉神官により、私自身この教会から追い出され、神薙の巫女を擁護する者がいなくなってしまう。
かといってここを離れて中央に出向くなど、地方の一神父としてできないのだ。
まさに、手詰 まり状態なのだ。
「やはり、助左一人に頼るしかないのか・・。」
そう呟き、神父は肩を落とした。
「神父様?」
神父はその呼び声で我に返った。
そんな神父に、さらに
「オラに来るようにと使いがきただが、何だね?」
「ああ、お前に頼みたい事があってね。」
「ああ、ええだよ、今日はやることもねぇだ。
だども、神父様ぁ何かあっただかね? ぼ~っとして、神父様らしくねぇ。」
神父に話しかけている者は、教会近くに住んでいる村人である。
名前を
捨吉に神父は上の教会へする報告書の配達を定期的に頼んでいる。
それ以外に捨吉は教会にいる
神父は
「書状をいつもの教会に届けて欲しい。」
「ああ、あの教会に届ければいいだかね?」
「ええ、あの教会にね。」
「わかりやした。」
「頼んだよ。」
「へぃ。」
捨吉は書状を受け取るとすぐに礼拝堂を出て行った。
その後ろ姿を見ながら、神父は呟く。
「助左に言われて書いたものの、大丈夫なのだろうか?
最高司祭様が見たら心配するのではないだろうか・・。
渡してしまったから今更どうしようもないのだが。」
神父はそう言って眉間に
捨吉に渡したのは定期的に教会に渡す報告書と最高司祭
そのうちの最高司祭宛は、助左に頼まれ書いた短い手紙だ。
その文言は・・
”こちらは厳冬のおり、なれない
それと神薙の巫女様は、田舎暮らしに不満を持ち外に出たいと多少
最高司祭様も多忙のことと思います。
お体に気を付けて下さいませ。”
この短い文面を、助左に頼まれ言われるままに神父が書き記したのだ。
神父が知る限り神薙の巫女がここに来てから一言も我が儘など言った事はない。
そのため神父は我が儘だという箇所は削除すべきだと強く助左に言った。
しかし助左に自分からはそう見えるから仕方がないと言い切られた。
さらに最高司祭様から、助左の率直な意見を神父の意見として書いてもらい手紙で報告するようにと指示を出されたと言われたのだ。
そう言われれば、言われた通りに一字一句書くしかなかった。
神父にとって誠に不本意な文言である。
神父は手紙を書きながら苦い顔をしていたのだ。
だが、神父は手紙を書きながら疑問に思っていた。
助左は神薙の巫女を気に入っていたように思えたのだ。
それなのに、なぜ養父である最高司祭様にあのような報告をしたのだろう?
あのような事実無根の事を。
どうしても解せない神父であった。
そしてそのことと、それ以上に頭を痛めていることが神父にはあった。
それは村の入り口の警備だ。
なんとか強化をしたかったのだ。
助左から
だが、助左にそれを止められた。
なぜならば、
あくまでもお鶴が緋の国の間者であるというのは、助左の見たてだけなのである。
それに、いくら元
国にとっては御神託を下す貴重な人材であっても罪人扱いなのだ。
その者が拉致されそうだと言っても証拠がないから動かないだろうと助左に言われたのである。
それにもし軍に申請した場合、助左が他国の宮司であることが問題なのだ。
もし助左のことが軍にバレれたならば大変な事になる。
それこそ神薙の巫女を拉致しに来たと思われてしまうだろう。
そして助左が疑がわれ捕らえられたなら、神薙の巫女の護衛がいなくなってしまう。
そうなれば神薙の巫女は容易に拉致されてしまうだろう。
とはいえ、今、村の入り口を警備している者は4,5人程度である。
いくら精鋭だとはいえ、緋の国ならば簡単に排除されてしまう恐れがある。
行き着くところは、助左に頼るしかいない。
だが、助左に今度どうすべきか相談をすると、私に任せなさいの一言である。
本当に大丈夫なのかと聞くと、なんとかなるでしょう、としか言わないのだ。
助左が最高司祭様から使わされその素性を知った時、そしてお鶴の素性を見破ったときは頼りになると思っていたのだが、緋の国に対してノホホンと何とかなるの一言とは。
信用していいのだろうか?
残るは、私が最高司祭様宛にこの村の警備の増強を要請するしかない。
だが、そのような書状を書くと、私自身が最高司祭派閥であると露見する危険が高すぎる。
もし露見すれば小泉神官により、私自身この教会から追い出され、神薙の巫女を擁護する者がいなくなってしまう。
かといってここを離れて中央に出向くなど、地方の一神父としてできないのだ。
まさに、
「やはり、助左一人に頼るしかないのか・・。」
そう呟き、神父は肩を落とした。