第81話 話陽の国:渦巻く陰謀 11 最後の取調べ

文字数 1,993文字

 姫御子は取調べで罪を認めた。
だが、これに吟味役も小泉神官も苦い顔をする。

 認めたのは、祐紀と懇意にしたことだ。
それは女性として好意を持ったと踏み込んで認めた。
だが、好意であって恋愛ではないと断言した。
よって感情を姫御子の立場に持込んではいないことも。
そして、これを追求をするなら、証拠を提示するように求めたのだ。

 一方、御神託については、私個人に降りたものと改めて明言した。
そして、国には関係ない御神託なので祐紀に話しをした事を認めた。
さらに、私個人では解決が難しいため、助言を求めたとも。
だが、祐紀がまさか自分を助けに来ると言うとは思わなかったことも。

 だから、国がらみというなら証拠を見せて欲しい。
御神託についての証拠を吟味役と小泉神官に求めたのだ。

 今まで証拠があるように振舞ったのはそちらだ。

 私は養父様が帰ってくるのを待っていたのだ。
そのための時間稼ぎをしていたのだ。
嘘とならないよう、また、これ以上貶められないよう注意をして。

 私を否定するなら証拠を出してもらおうではないか。
もし、出るとしたなら捏ち上げ(でっちあげ)だ。
そんな証拠は直ぐにバレる。
養父様が、捏ち上げなど許す筈はない。

 今回、この騒動で散らなくてもよい命が散った。
それが残念でならない。

 私は、牢屋で私に会いに来て亡くなったあの神官に感謝した。
渡された手紙は非常に短いものだ。

 『最高司祭様を信じ、お帰りになるまで時間をかせがれよ。』

 この当り前の事が書いてある文に救われたのだ。

 かの者は私に会って言葉で伝えられなかった時の事を考えたのであろう
だが、(ふみ)などもっての他だ。
敵の手に渡る可能性がある。
それに渡された厚い文など私が持っていることも、内密に処分することもできない。
だから、自分にもしもの時があったなら、私を励まし折れないようにと文を持ってきたのだろう。

 死を覚悟してこんな文を渡したあの者の無念は計り知れない。
あの文は翌日、厠で見て口の中に入れ処分をした。
苦い味がし、涙が滲んだ。
胸が熱くなった。

 吟味役は姫御子から証拠を見せよという言葉に押し黙った。

 確実な証拠がまったく出てこないからだ。
たしかに、陰の国と手を組んでいるという状況証拠はある。
だが、これらは小泉神官が差し出してきた調査書によるものだ。
よくできた調査書であった。

 だが、裏をとると確証が持てないのだ。
一部の証人から確かに言質はとれた。
だが、逆に一部の人からは言質どころか否定されたのだ。
証拠も出て来たが、改竄(かいざん)されている(ふし)がある。
それも巧妙にされており、よく調べないとわからない。
こんなものを吟味役として出すわけにはいかない。
自分の矜恃が許さない。

 吟味役は困惑の目を小泉神官に向ける。
今回の取調べで姫御子は全て認めると小泉神官から聞いていたからだ。

 その小泉神官はというと・・。
姫御子を睨付け(にらみつけ)、両手をきつく握りしめている。
(わず)かであるが、その握りしめた手が震えているようだ。
おそらく怒りのためであろう。

 小泉神官は、姫御子が牢屋で罪を認めるといった言葉を鵜呑みにした。
それに罪を認めさせる自信もあった。
養父である最高神官の立場、己の立場を考えると罪を全て認めるだろうと。

 それに牢屋での姫御子の様子は逐一報告を受けていた。
姫御子が途方にくれて考え込んでいる様子を。
さらには、かなり精神的に参っているとも。
これらは牢屋を見張らせている黒装束の者達からの情報である。
かなり信頼性が高い情報だ。

 それなのに何で罪を全て認めん!
牢屋で罪を認めると言ったではないか!

 怒りで今にも姫御子に襲いかかりそうだ。

 一方、姫御子であるが落ち着いていた。
今までの取調べで日を追う毎に参っていった様子が嘘みたいだ。

 姫御子は小泉神官に微笑みを向けていた。
姫御子は確かに牢屋で罪を認めると約束した。
だが、疑われた罪を全て認めるなどとは言っていない。
勝手に小泉神官が思い込んだだけだ。

 吟味役も小泉神官も、そのうち罪を認めると軽く考えていたのだろう。
もしかしたら気を抜いて、証拠の捏造など手を抜いているかもしれない。
それに対し、養父様は戻って来て色々と動いているに違いない。

 私が罪を認め証拠の提示を求めた事で、取調べも長引かせられないだろう。
これから、養父様は何か吟味役と小泉神官に爆弾を落すかもしれない。
だが、私が巫女になることは阻止できないだろう。
私は、裁定がおりてから養父様は何かを仕掛ける気がする。

 私は、できることはやった。
あとは養父様を信じて裁定に大人しく従うだけだ。
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