第33話 陽の国・神殿にて 4

文字数 1,993文字

 姫御子(ひめみこ)は神官から言われた噂の対処をどうするか考えていた。

 噂を放って置くと、民が

に対し悪感情を抱く恐れがある。
それを先導する(やから)が現れると面倒だ。
神殿と私を利用して陰の国の評判を落とすような事は是が非でも避けたい。

 それと、この噂、養父様は知っているのだろうか?
最高司祭である養父様のことだ噂については(つか)んでいるとは思う。
しかし、私が耳に(はさ)んだ私と神殿にかかわることを伝えないわけにはいかない。
できれば養父様に負担をかけたくはないのだが・・。
かといって、この噂の対処は、私だけでは手にあまる。

 今ならまだ養父様は自宅にいる時間だ。
そう思い神殿から急いで自宅に戻った。

 自宅に戻ると、養父は朝食を終え、お茶を飲んでいた。

 「朝の礼拝を終えたのか?」
 「はい。」

 養父は姫御子の顔を見て、何かに気がついたようだ。

 「どうした、何かあったか?」
 「小泉神官なのですが・・。」
 「あの男か・・。」
 「え?」
 「いや、何でもない。」

 姫御子は養父の顔をジッとみた。
何か歯切れが悪い物の言い方だ。
養父らしくない。

 「父上?」
 「・・・」

 しばし養父と目を合わせ、無言で問い詰める。
折れたのは養父の方だった。

 「やはりお前に接触してきたか。」
 「・・・」
 「これから話す事は他言無用だ。」
 「・・・分かりました。」

 「この神殿の組織で情報部という部門を知っているか?」
 「はぃ、存じていますが私は関わったことが御座いません。」
 「それで良い。だが遠くない未来にお前はそこの長となる。」
 「え?!」

 「情報部の長は表向きおらん。」
 「・・・。」
 「知られてはならないのだ。」
 「・・・。」

 「表向きの情報部の統括者は、情報神官長となっておる。」
 「はい、それは知っております。」
 「彼のところには重要な情報の一部しかいかない。」
 「もしかして・・。」
 「そうだ、精査して本当に重要なものは長に行く。」
 「それでは今は・・。」
 「儂が長を兼任しておる。」

 養父は淡々とそのように言う。
養父が淡々という時は要注意だ。
言われたことを一字一句聞き逃してはならない。

 「その部門から、彼奴(あやつ)が神殿内で自分の派閥を最近急速に広げつつあると報告があった。」
 「?」
 「そして神殿での勢力を強固にするためにはお前が必要だ。」
 「なるほど・・。」
 「遅かれ早かれお前に接触するとは思ったが、やけに早かった。」
 「・・・。」

 「それと、あの者の()の国との繋がりが報告された。」
 「え?!」
 「本来なら神官は中立でなければならない。」
 「はい。」
 「彼奴(あやつ)が何をしようとしているのかは不明だ。」
 「・・・」

 「お前に近づくのは単に神殿の力関係のためだけではないであろうよ。」
 「はい。」
 「彼奴が緋の国との接触をもってから、神殿内での勢力を強めようとしているようにも見える。」
 「?」
 「当面は彼奴に好きなようにさせる。」
 「なぜですか?」
 「泳がせて、彼奴の目的をさぐるためだ。」
 「・・・わかりました。」

 「彼奴(あやつ)との会話に気を付けるように。
特に、彼奴は弁が立つ。
誘導され言質(げんち)をとられないようにしなさい。」
 「はい。」

 姫御子は()の国との関連を聞いて、神官から聞いた噂がひっかかる。

 「父上は、陰の国の噂をご存じですか?」
 「どのような噂じゃ?」
 「陰の国の成人の義で私が倒れたのが、陰の国の陰謀ではないかという・・。」
 「・・・」

 「小泉神官が、その噂を朝の礼拝堂にて知らせてきました。」
 「なるほどな・・。」
 「やはり

との関係が?」
 「お前は

と、

の関係は知って居るか?」
 「いえ、詳しくは・・。」
 「そうか・・。」

 「あの?・・。」
 「よいか、この件は儂が対処する。」
 「え?!・・しかし・・。」
 「お前では対処は無理じゃ。」
 「それは・・そうですが・・。」
 「心配には及ばん。」
 「はい・・。」

 「それより、其方は小泉神官の誘いに乗ってはおらんだろうな?」
 「ええ、それは大丈夫です。」
 「それでこそ我が娘だ。」
 「はい。」

 「そういえば其方から陰の国での話しをゆっくりと聞いておらんな・・。」
 「はい。父上がこのように家にてゆっくりなさることが無かったものですから。」
 「そうであった・・済まぬ。」
 「いえ、そのような・・。」

 「で、何を儂に伝えたい?」

 その養父の言葉に姫御子は苦笑いを浮かべた。
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