第214話 縁 市 その5
文字数 1,436文字
「
そう
何か変な夢を見ていた。
それは幼少の頃の夢だ。
そう思った時・・
あれ? 何の夢だったのだろう?
あれ?
つい先ほどまで覚えていた夢の内容が思い出せない・・。
夢告げ?
いやそうではない。
何か懐かしい夢だったような気がする。
そう思ってしばし起き上がらずにボ~っとしていた。
何気なく自分の頬にふれてみた。
「あれ? 私、なんで泣いているの?」
顔に触れた指は涙で濡れていた。
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一方、
市とゆっくりとお茶の時間を過ごした付けが廻ってきていたのだ。
そんな奪衣婆が唐突に叫んだ。
「あっ!」
「ど、どうされました奪衣婆様!」
「あ、いえね、先ほど市に話そうとして忘れていたことが・・。」
「奪衣婆様、あれほど長い時間、お茶をしていてまだ話し足りなかったのですか?」
「そう!、足りない!・・。」
そう言って奪衣婆は
「奪衣婆様・・、手が止まっておりますよ?」
「ねぇ、少し休まない?」
「休みません! 先ほど休んだばかりではございませんか!」
「いや、でも根を詰めるのは良くないと思うでしょ?
休みましょう!
ね、そうしましょう!」
「はぁ~、そこにある決済が終わるまで今日の仕事は終わりませんよ。」
「ええええええ!! そんな
「何が無体ですか! 貴方様がサボった結果です。」
「お、お前は鬼ですか!」
「どちらが鬼ですか!
貴方様のサボりのおかげで、こちらがどれだけ苦労をしているか!」
じろりと
どちらが上司か分かったものではない。
ああ・・まぁ、いいか、今更、市に言っても意味ない内容だしね。
そう奪衣婆は
市に話そうとしたのは、平安時代、市の父だった者の事だ。
今、その者は市のいる国に輪廻転生をして暮らしている。
そのものは
そう、
この者は平安時代に市に英才教育をし、人としてのあり方をたたき込んだ者だ。
その者の教えは間違ってはいない。
だが、子供に自分でどう生きるべきかという考えの柔軟性を与えなかった。
神々は彼が育てた娘、市が解脱に達していたことや、生き方も市と同じだったため、市と同じ扱いをしようとしたのだ。
だが、それに奪衣婆は反対した。
神々にとっての解脱判断より、人としての生き方、子供への愛情と育て方があまりにも精錬潔白過ぎて人らしくなかったからだ。
そのため輪廻転生をさせ、そこでの生き方を見据えて解脱者とするか決めることにしたのだ。
その一之進であるが・・。
生前と同じように主に忠実に従う生き方は変えなかった。
三つ子の魂、とでもいうかのように。
だが、妻子に対する愛情は人そのものの愛情にあふれた生き方をしている。
奪衣婆は一之進が寿命を全うしたならば、解脱者として天界に受け入れてもよいと考えていた。
とはいえ人生は何がおこるのかはわからない。
いずれにせよ一之進が生を
それにしても・・
まさか神一郎が、一之進と関わりあうなどとは奪衣婆さえ思わないできごとだった。
そればかりではない・・
一之進と市が同じ時代の同じ国に転生し、それも身近な場所で生活しているなどと誰が予想できたであろうか?
まさに縁という他はない。