第232話 陽の国・これから・・・
文字数 2,343文字
その席で猪座から神一郎が怪我をし発見された時の状況を知るのであった。
そんな夕餉が終わり、お茶を一服しているときに神一郎が裕紀に聞いてきた。
「ところで裕紀、お前、
その言葉を聞いて、裕紀はちらりと亀三と猪座を見る。
「何じゃ? 亀三と猪座には話せないことか?」
「え? あ、はぁ・・・。」
「ふん、どうせお前のことじゃ、
「「え!」」
驚きの声を上げたのは、裕紀、それに続いて猪座であった。
神一郎はそんな裕紀を見て、ニヤリと笑う。
そして猪座に聞く。
「猪座、神薙の巫女様をご存じか?」
「神薙の巫女様でございますか?」
「ああ、そうだ。」
「いえ、知りません。」
「そうか・・。
あ、そうだ、巫女様といえば・・この国は大変だったみたいだな。」
その言葉に一瞬、猪座は何のことか? と、考え込んだ。
だが直ぐに思い当たり、ポンと手を叩いた。
「ああ、あの件ですか・・。
「そう、そう、姫御子様だった。」
「突然
そして
その言葉に裕紀が思わず問いかける。
「それはどのような噂ですか?」
「え?・・・。」
裕紀の問いかけに猪座は、一瞬口ごもる。
そんな猪座に神一郎が問いかける。
「裕紀には言えぬような噂か?」
「・・まぁ、その・・、なんと言いましょうか・・。」
「裕紀に
神一郎の言葉に裕紀が思わず立ち上がり大声を上げた。
「なんですって!! 何故そのような根も葉もない事を!」
「裕紀、落ち着きなさい!」
「あ!」
裕紀は、ハッとした。
お恵は大声に驚いたのであろう、目を見開いて泣きそうな顔をしている。
裕紀はそれを見て、すごすごと腰を落とし座り直す。
そしてお恵と目を合わせ、裕紀は優しい声で話しかけた。
「お恵ちゃん、ごめんね、大声を上げて。」
お恵はそれを聞いて、コクンと小さく
「裕紀お兄ちゃん、怒っているの?」
「え? あ、いや、怒ったんじゃないんだよ。」
「?」
「驚いてしまったんだよ。」
「?」
お恵は意味がわからず小首をかしげる。
それを見て、猪座がお恵に声をかけた。
「お恵、そろそろ寝なさい。
もう、子供は寝る時間だよ。
それと安心しなさい。
裕紀様は怒ったわけではないんだよ。
これは大人の話なんだ。
それで声を上げただけなんだよ。」
「そうなの?
お恵にはわかんない。」
「うん、今はいいんだよ、分からなくて。
さ、寝なさい。」
「うん。」
お恵はそう言うと、ピョコンと立ち上がり、頭をチョコンと下げた。
「おじちゃん達、裕紀お兄ちゃん、お休みなさい。」
お恵の言葉に、裕紀らは軽く手を振り、お休みの挨拶をした。
「お父ちゃん、お休み!」
「ああ、お休み。」
お恵はトタトタと、部屋を出ていった。
お恵が出て行った後、誰も口を開かず静寂が支配した。
静寂が耳に痛い。
やがて猪座がオホンと咳払いをした。
そして
「噂は神一郎様がおっしゃった通りです。
それが、まことしやかに市中に流れました。
姫御子様が裕紀様と恋仲となり、裕紀様が陰の国に来るように誘ったと。
姫御子様は、国抜けを企んで実行しようとしたところを押さえられたとか。」
裕紀は、その言葉に思わず膝の上に置いた両手を握る。
神一郎と猪座は無言で聞いていた。
「ですが、都でそのような騒動が実際あったと聞いたことがありません。
私はたちの悪い噂だろうと。
ですが
私は、なんとなく誰かが
「意図的ですか?」
「ええ。」
裕紀はなんとも言えない顔をした。
そして猪座に聞く。
「御触書が出たと言いましたが、どのような事が書かれてあったのですか?」
「御触書には姫御子様が国主様の不興を買い、一介の巫女に落とされたとありました。
ですが、どのような不興なのかは書かれていません。
御触書は、一回出されただけです。
ですから姫御子様が一介の巫女となりどうなったかは分かりません。
噂も御触書が出されると、不思議とされなくなったのです。」
「裕紀、この国における姫御子様の状況は分かったな?」
そう言って神一郎は裕紀の顔を見た。
裕紀は顔を
「まぁ、そう怖い顔をするな。」
「ですが怒りを覚えます。濡れ衣を着せた犯人を捕まえ無実を証明したい。」
裕紀はそう言うと、両の手を固く握り直した。
「
大きな悪行をなした者には天から罰が下るものじゃ。
国を乱すような悪行だ、天が見逃すわけがない。
だが、国としては
国の不祥事だからのう。」
それを聞いて、裕紀はさらに握っていた手に力が入った。
「裕紀よ、怒りを収めよ。
今、ここで怒っても意味はない。
神薙の巫女様を信じておれ。
自分の無実は自分で晴らされるであろうよ。
また、周りにも力強い味方もおろう。
儂は心配する事はないと思うぞ。」
その言葉に猪座が不可思議な顔をし、神一郎に聞いてきた。
「神薙の巫女様?・・。
どうしてそこで神薙の巫女様が出てくるのですか?
姫御子様の話しですよね?!」
神一郎は、猪座のその言葉に、しまった!という顔を一瞬した。
だが、それは一瞬のことである。
亀三はというと、あらら、やっちゃった、という顔をした。