第118話 牛頭馬頭との決着を決めた朝の出来事・・

文字数 2,482文字

 阿修羅(あしゅら)に道場へ引っ張られてから数日経った。
その間、帝釈天(たいしゃくてん)大人(おとな)しく過ごしていた。

 それというのも毒を飲んで体力が落ちていたのと、阿修羅との道場の試合で疲れたからだ。
帝釈天が数日間も大人しくしているのは珍しことだ。
それだけ体への負担が大きかったということだろう。

 阿修羅にしてみれば、数日帝釈天を大人しくさせるため試合をした面がある。
もちろん自分の欲求不満解消も兼ねてであるが。
帝釈天はおかげで体調も本調子となったようだ。

 帝釈天はそろそろ牛頭馬頭(ごずめず)との決着をつけようと決心した。
牛頭馬頭の背景もわかり、閻魔(えんま)大王らと奴等(やつら)(つな)がりもわかった。
あとは牛頭馬頭を説得させるだけだ。

 帝釈天には牛頭馬頭を説得させる自信があった。
それというのも前回の説得で分かったことがあるからだ。
彼奴らは力が全ての地獄界で育っていて、確かにそれが根幹にある。

 ならば、今回も対決で勝敗をつければ言う事を聞くのは確かだ。
さらにいうならば、前回、神力を彼奴(あいつら)らに見せた。
おそらく彼奴らもバカではない。
神力について気がついて磨いているに違いない。
おそらくかなり以前より強くなっているはずだ。
奴等は自惚(うぬぼ)れと自尊心が強い。
阿修羅が彼奴らの研究所を破壊し、技術者も始末した。
彼奴らは怒り心頭(しんとう)のはずだ。
だから此方(こちら)かの決闘の誘いに乗るに違いないのだ。

 そして今日、牛頭馬頭と決着をつける。
そう決めた。
そのために朝食はしっかりと取る。

 朝食にがっついていると母である奪衣婆(だつえば)が声をかけてきた。

 「其方(そなた)、そんなに朝食にがっついて如何(いかが)した?」
 「え? ああ、その・・、今日、阿修羅とまた稽古(けいこ)を。」
 「そうであったか、まあ、怪我(けが)をせぬようにな。」
 「はい。」

 帝釈天は母に心配をかけたくなかった。
前に牛頭馬頭(ごずめず)との決闘前に毒を飲んで心配をかけた。
その牛頭馬頭とまた決闘をするなどと言えなかったのだ。

 そんな朝食の最中に来訪者をしらせに側使えが来た。

 「阿修羅様がお見えです。」

 「げっ!・・。」
 「これ帝釈天、げっ! とは何ですか! はしたない!」
 「す、すみません母上、つい。」
 「まったく貴方という方は。
 年相応になりなさい、もう子供ではないのですから。」
 「はい。」

 「阿修羅も貴方(あなた)との稽古が待ちきれなくなったのでしょう。
 阿修羅をここに通しなさい。」

 「え! あ、ちょっと待って下さい、母上!」
 「ん? どうしたのですか?」
 「あっと、私が玄関で阿修羅と話してきます。」
 「何をいう、私も阿修羅と話しがしたい。」
 「え? あ、でも・・。」
 「それとも何か?
 母が阿修羅と話すとなにか不味(まず)いのか?」
 「・・・え? あ、いえ、そのようなことは・・。」
 「なら良いな?」
 「え? あ、はい。」

 帝釈天は不味いとおもった。
阿修羅とは稽古の約束などしていない。
ここで母がそのことを持ち出してバレたら追求される。
さて、どうしたものか・・
そう思っているうちに側使えが阿修羅を食堂に連れてきた。

 母が阿修羅に話しかける。

 「おはよう阿修羅。」
 「おはようございます、奪衣婆(だつえば)様。」
 「良く来たのう、さ、茶でもいかがだ。」
 「はい、頂きます。」

 「あ、それとも朝食の方が良いかえ?」
 「あ、朝食はすましましたので。」
 「そうか、では茶を出そう。
 これ、阿修羅に茶を。」

 側使えはすぐに茶の準備をして阿修羅に茶を出した。
奪衣婆は阿修羅に話しかける。

 「今日は帝釈天と稽古だとか。」

 その言葉に阿修羅はチラリとこちを見た。
不味い! そう帝釈天は思った。
だが・・

 「はい、それで待ちきれなくて此方にきました。」
 「そうか、そうか・・。
 相変わらずお前達は仲がよいのう。」

 「仲がよいのではなく、腐れ縁です。」
 「ホホホホホホホ、()の子よのう。
 これからも帝釈天と仲良くしてたもれ。」

 その言葉に阿修羅は微笑(ほほえ)む。
そして帝釈天と目を合わせ、口の端を少し上げた。
これは不味い・・、そう帝釈天は思い背筋を伸ばす。
そして、帝釈天は奪衣婆に話した。

 「は、母上、で、では私たちはこれで。」
 「おや、もう出かけるのかえ?
 もうすこし阿修羅と話しがしたいのじゃが?」

 阿修羅がそれに答える。

 「奪衣婆さま、また日を改めて(うかが)います。
 そのときにユックリとお話したいと。
 ですので、今日はこれにて失礼します。」

 そういって阿修羅は奪衣婆に頭を下げた。
昔から奪衣婆は阿修羅には甘い。
阿修羅がこうしたいというと止めることはなかった。
自分の息子より甘いのだ。
だから阿修羅がこういうと、それ以上は引き止めない。

 「わかった。
 では、気を付けて稽古をなさい。」
 「はい。」

 そう言って阿修羅は席を立つ。
そのとき目配せで帝釈天に、さあ、説明しろ! と合図を送る。
帝釈天は仕方無く席を立ち上がった。

 「では、母上、出かけてきます。」
 「阿修羅に迷惑をかけるのではないですよ?」
 「母上、迷惑をかけられるのは私の方です。」
 「何を其方(そなた)は言う。
 どう考えても阿修羅の方が迷惑をかけられているであろう?」

 その言葉に帝釈天は眉根(まゆね)を寄せる。
自分の息子より、阿修羅の言う事を信じるのかよ、と。
まあ、実際、自分のしてきたことを考えると納得できるのだが。
だが、納得したくない自分がいた。
しかし、ここでそれを言うと話しが長くなる。
ぐっと堪えて(こらえて)笑顔を作り、阿修羅と外に出た。
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