第16話 祐紀の目覚め

文字数 2,415文字

 「う・・・うん・・・」

 「これ、祐紀! 起きろ、起きんか!」
 「・・・ん・・爺様・・。」
 「おお、やっと起きたか・・心配したぞ・・。」
 「あれ?・・・、僕はなんで寝所にいるのですか?」
 「お前は、拝殿で神様に成人の報告をした直後に倒れたのだ。」
 「あっ!」

 そうだ、思い出した。
宴会場に向わねばと思ったときに、突然、目眩がして倒れたことを。
・・・。
ん?・・何か、何かが可笑(おか)しい・・。
倒れて、何か大事なことがあったような・・。
いや、倒れているのに大事なことがあったなどと可笑しい考えだ。
でも・・。

 一人、考えに沈んでいる祐紀を見て宮司は焦った。
もし、祐紀の具合がまだ悪いのかと。
これ以上は宴会を待たせられない。

 「大丈夫か、祐紀?」
 「あっ!」

 宮司の言葉で、現実に祐紀は戻された。
そうだ、今は考えている場合ではない。
一刻も早く宴会場に行かなければならない。

 「宴会に行けそうか?」
 「はい!」

 「それなら良い。ただ心配したぞ・・突然、倒れて。」
 「ご心配をおかけしました。」
 「うむ・・。大丈夫なんだな?」
 「はい。」
 「では、宴会に顔を出すぞ・・・。
ただ、お前が倒れたことを伏してある。
成人の義で倒れたなどと縁起がわるいからな。」
 「はい・・すみません。」
 「お前は、御神託を受けて席を外したと言ってある。」
 「はい。」
 「もし、御神託の内容を聞かれたら、御神託ですので人には話せないと言えばよい。」
 「わかりました。」
 「うむ。では行くぞ。」

 祐紀は乱れた服装を整え、宮司と一緒に宴会場へと向った。
宴会場に向かう途中、宮司は姫御子のことを言い忘れたのを思い出した。

 「そうだ! 忘れていた!」
 「?」
 「宴会場で姫御子様が倒れた。」
 「え?」

 「いや、心配するほどのことではない。
気絶しただけで問題はないようだ。」
 「そう、なのですか?・・」
 「うむ、ただ姫御子様が、いつ気がつくかわからない。
国賓であるので、不注意な発言をしないよう留意してくれ。」
 「わかりました。」

 とりあえず宮司と宴会場に向った。
宴会場の入り口に近づくと、場内のざわめきが聞こえてきた。
宴会場の入り口で、宮司と祐紀を見た神官が場内に入り来賓に告げる。

 「来賓の皆様、成人した祐紀が戻りました。」

 その声に宴会場がシンと静まりかえった。
祐紀は一端、入り口の手前でとまり、深呼吸をする。
そして笑顔を作り、ゆっくりと宴会場に足を踏み入れた。
一礼をしてから、自分の席につく。

 「皆様、宴会が多少遅れることになり、お詫び致します。
私も成人の報告の義で御神託を授かるとは思わず、皆様を待たせてもうしわけありません。
なにぶんにも御神託を疎か(おろそか)にするわけにもまいらず、その点をご配慮いただければと思います。
また、姫御子様が倒れたと聞き及んでおります。
姫御子様は現在、休んでおいでで、大丈夫とお聞きしております。
遠路参られ疲れがでたのではないでしょうか。
私の成人の義でご迷惑をおかけし申し訳ありませぬ。」

 これを聞いた

の神官が、祐紀に向かい返礼を行った。

 「祐紀様、この良き日に姫御子様が倒れてしまいご迷惑をおかけしました。
姫御子は祐紀様の成人を祝うことを楽しみにしておりました。
祐紀様の仰られるとおり、姫御子様は国内において御神託の対応でお疲れだったことは事実です。
お詫び申し上げます。」

 この言葉に宮司は顔が青くなった。
姫御子は、御神託を受けるほど霊力が強かったのか?!
これは不味いかもしれぬ。
祐紀が御神託を受けたという嘘がバレているかもしれない。
されど、もう嘘をついてしまったため、押し通すしかあるまい。

 そう思い、宮司は祐紀を見た。
祐紀は

の神官から、このことを聞いても顔色さえ変えていない。

不思議に思ったが、祐紀は宮司の顔もみないで神官に言葉を返した。

 「そうでしたか。
姫御子様も御神託を授かり多忙の身だったのですね。
そのようななか、私のためにお越し頂きありがとうございました。」
 「いえ、そのようなお言葉をいただき恐縮です。」

 それを聞いて、会場は安堵の雰囲気につつまれた。
宮司は、宴会の開始を来賓の方々に告げて宴会が始まった。

 「祐紀よ、よくやった。」

 祐紀は宮司の顔を見て微笑み、ゆっくりと自分の席に座わった。

 「それにしても、姫御子様も御神託を受けておったとは・・。」
 「はい、私も驚いております。」
 「それにしては、おちついておるの?」
 「ええ。」

 「御神託の嘘がばれているかもしれぬのだぞ?」
 「それが、嘘とは言い切れないのです。」
 「?」
 「私は倒れた時に夢を見たようなのです。」
 「何! 御神託か?」
 「だと思います。」
 「思う?」

 「ええ、御神託であって御神託でない、といいますか・・。」
 「どういう事だ?」
 「たぶん、自分に対する御神託だったかと。」
 「たぶん?」
 「ええ・・、ただ、その内容を覚えていないのです。」
 「どういうことだ?」
 「つまり、御神託を受けたことは分かるのですが、内容を覚えていないのです。」
 「そんなことがあるのか?!」
 「・・・。 
わかりません。
ただ、そのように神様がしたとしか・・。」
 「ふむ・・。まあ、よい。
儂には知るよしもない。」
 「ええ。ですので時とともに御神託が明らかになのかと。」
 「ふむ・・、わかった。」

 宮司はしばし考えていたが、これ以上は御神託について話さなかった。
祐紀も御神託については記憶が残らないという不可思議はあるものの、神様の意思として考えないようにした。
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