第122話 組織壊滅 その2

文字数 3,425文字

 帝釈天(たいしゃくてん)は、気まずそうな顔を隠した。
阿修羅(あしゅら)から真摯な感謝の言葉を聞いたからだ。

 帝釈天は照れ隠しに阿修羅に催促する。

 「ほら、お前が組織を壊滅をするんだろう?
四方山話(よもやまばなし)にしたブラックホール弾が、まさか出てくるとは普通思わん。
入手困難で、高価な武器だ。
ましてやここは地獄界だ。
手に入るとは誰も思わんさ。
お前が油断するのは当然だ。」

 「まあ、そうだが油断した事に違いはない。」
 「これで彼奴らがブラックホール弾を所持しているのが分かった。
だが高価すぎ彼奴らが所持できたとして、あと数発だろう。
お前の欲求不満には、ちょうどよい弾数だろう。
後は任せた。」

 「ああ、任せろ。」

 そういうと阿修羅は歩き始めた。
帝釈天は阿修羅の数歩後ろに下がり付いていく。
こうする事で攻撃対象が阿修羅になるからだ。

 暫く歩いた時だった・・。
阿修羅が突然右手を前に(かざ)した。

 シュン!

 鋭い空気を裂く音がした。

 阿修羅の右手の前に歪んだ空間が現れていた。
半径30cm位の丸い空間だ。
そこに先ほどの黒い弾丸のような物が吸い込まれ消えた。

 帝釈天は感心し、声を上げる。

 「ほう、相変わらずよい反応だな。
それに、あの弾を他の次元に追いやるとはな。
あの空間は崩壊した宇宙だろう?
即座にあの空間を選ぶとはな。
よく頭が回るものだ。
でもさ、お前、頭を使いすぎると禿()げるぞ?
気を付けた方がいい。
俺のように、弾などぶった切っればいいんだ。
そうすれば頭など使わずにすむぞ?
まあ、斬られた弾が後方で何かを飲み込むけどな。」

 「ふん、だから弾を斬らないでいるんだ。
もし、斬った弾が一歩後ろにいるお前に当たったらどうする?
あるいは関係無い者や、貴重な物が俺の後ろにあったならば?」

 「ん? あ、そうか、それを考えたのか?
なるほどな、お前らしい。
やはり頭の良い奴は違うな。
でも、俺は先ほど弾を斬ったときはお前のことを考慮したぞ?
全く考えていないわけではないからな。
能筋ではないぞ?
それにしても、弾の軌道を読んで、それに合わせて即座に次元の扉を開くとはな。
神業だな。
ん?
神が行うことだから、神業になって当たり前か。
うん、褒め言葉にならんな、これは。
でも、褒めるなら神業というしかないよな。
うん、これはいい。」

 「一人で何を感心している、帝釈天よ。」
 「あれ? 面白くなかいか、これ?」

 「はぁ~・・。
全く面白くない。
それより弾を斬るなど、美しくない。
戦いには美学が必要だ。」

 「次空間で弾を消滅させるのがか?」
 「ああ、そうだ。」
 「まあ、いいさ。美学は俺には無縁な世界だ。」
 「そうだろうな。」
 「そう()めるなよ。照れるぜ。」
 「褒めてなどおらん。」

 「なんだ、褒めたんじゃないのか?
ところでお前、体が鈍っていないか?
今の処理だけで少し汗が(にじ)んでいるぞ?」

 「しかたあるまい。
望んでもいないのに出世させられたんだ。
現場にあまり行けず、ディスクワークが多くなった。
体を鍛えている暇などない。
お前とは違うんだ。
欲求不満がたまるって仕方がない。
だから、お前をオモチャにするんだ。」

 「おぃ! 俺はお前のオモチャじゃないぞ!」

 そう叫んだ時だ。

 シュン!

 帝釈天は矛を軽く振る。
先ほどと同じように後方で猛烈な疾風が渦巻いて消えた。

 阿修羅が、それを見て怒りの形相(ぎょうそう)になる。
組織の建屋に向かって怒鳴った。

 「なぜ俺を(ねら)わん!
お前らの目は、どこに付いている!
なぜ、俺の後ろの奴を狙った!
バカだろう、お前ら!
俺の運動不足解消に協力しろ!!」

 組織の者は唖然とした。
誰を狙おうが、それは自分達の勝手だ。
それに狙えなど、バカとしかいいようがない。
まるで遊んでいるようではないか?

 ならばご期待に応えてやる!
組織は、阿修羅へ向け一斉(いっせい)攻撃をした。
だが、次空間爆弾や、ブラックホール弾などは無かった。
それら最先端の武器は弾切れのようだ。

 使われた武器は旧式の武器だ。
銃や迫撃砲、バズーカなどである。
たまにボーガンなど弓矢も混じる。

 銃声や派手な爆音が5分以上続いた。
ありったけの武器を投入したようだ。

 阿修羅と帝釈天の姿は、爆煙で姿が見えなくなった。

-------

 組織の幹部は守りに対し自信があった。
襲撃にあっても簡単に対処できると思っていた。
隠し球として次空間爆弾があったからだ。

 だが、牛頭馬頭は違った。
次空間爆弾があった研究所が、何者かに壊滅されたからだ。
だから、急遽ブラックホール弾を用意した。

 組織の幹部は、牛頭馬頭を影で失笑した。
あれほど強いのに、慎重すぎると。
研究所が壊滅したのは次空間爆弾が不良品だったからだと決めつけていた。
幹部らは、次空間爆弾に絶大な信頼を寄せていたのだ。

 そして牛頭馬頭が居ない今日、怪しい二人連れがきた。
その一人は前回、牛頭馬頭とやり合った者だった。
敵だと即座に認識した。
此奴には爆弾などでは通じない事は分かっている。
あの時は、牛頭馬頭から次空間爆弾の使用を禁止されていた。
だが、今は違う。
だから、次空間爆弾を放ったのだ。

 だが、二人に次空間爆弾は通用しなかった。
確実に爆発したというのにだ。
組織は焦った。
そんなバカな事はないと。

 あわててブラックホール弾を用いた。
これで一発で決まると思った。
だが、前回来た奴がいとも簡単に阻止してしまったのだ。

 組織の者は何が起こったかわからなかった。
ブラックホール弾が何故効かなかったのかが。
それに何故ブラックホールが、目標と別の場所二カ所で発生したのかも。
普通は、一カ所で爆発するはずだ。
まさか弾が斬られたなどとは想像もできなかった。

 幹部の一人は、状況を冷静に考えた。
そして、放った弾丸は不良品だったと解釈した。
今度こそはと、二発目のブラックホール弾を放った。

 だが、通用しなかったのだ。
なぜか爆発も何も起こらなかった。
まるで何処かに消えたかのようだ。

 まさか、これも不良品か!と思った。
その幹部は、武器商人の顔を思い浮かべた。
二発も不良品を売りやがって! 
見つけ出し、落とし前はつけさせる。
そう思った。

 そして今度こそはと、ブラックホール弾を打ち込んだ。
用意したブラックホール弾の、最後の一発だ。
だが望み空しく、通用しなかった。
不可解な場所二カ所でまた爆発をして終わっただけだった。

 こうなれば有りったけの武器を使うしかない。
部下全員に総攻撃を命じた。

-------

 爆煙だけが立ちこめる静寂の中、爆煙が薄らぎ始めた。
やがて帝釈天と阿修羅の姿が見え始める。

 「まあ、こんなもんだろうな。」

 そう帝釈天が言うと、阿修羅はうんざりとした顔で答える。

 「お前が前に受けた歓迎はこれか?」
 「ああ、そうだ。」
 「・・・研究所の方が熱烈歓迎だったぞ。」
 「ほう、それはよかったじゃないか。」
 「良くない! 欲求不満になったと言っただろうが!」
 「うん、聞いている。
おかげで俺がオモチャにされたからな。」

 そう言って帝釈天は溜息をついた。

 一方、組織の方はというと・・。
帝釈天や阿修羅の傷一つない様子を認識したのであろう。
建物の中が次第に慌ただしくなってきた。
何やら怒鳴ったり、何やら動かしたりして騒々しい。
バリケードでも組んでいるようだ。

 「なあ、帝釈天、建物に入ったら面白いか?」
 「さぁて・・どうだろう?」
 「お前、建物の中で歓迎されたんだろう?」
 「まあな、俺には退屈だったけど。」
 「そうか・・。」

 阿修羅はそういうと、右手を前に突きだした。
手のひらに光球が現れた。
牛頭馬頭の研究所を壊滅したときと同じものだ。

 阿修羅は、その光球を躊躇う(とまどう)ことなく放った。
その光は建物に吸い込まれると光りが炸裂し、無音で建物は消え去る。
後にはクレーターのような穴が残された。
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