第216話 縁 閻魔大王・・・ その2

文字数 1,747文字

 (しず)は暗闇の中、目を覚ました。

 辺り一面、真っ暗で何もみえない。
だが、それも束の間(つかのま)であった。
突然、(まぶ)しい光が現れ視界を真っ白に染めたのだ。

 「こ、ここは・・・。」

 静の目の前には、十二単(じゅうにひとえ)を着た少女がいた。
その少女に見覚えがある・・・。

 そう・・、それは私だ!
平安時代に生きた私だった。

 やがて真っ白な世界に色がつき始め周りの様子がはっきり見え始める。

 自分は御簾(みす)の中におり、くつろいでいるようだ。
すると足音が聞こえてきた。
そして、部屋の前の廊下でその者は立ち止まり正座をし平伏(へいふく)する。

 「姫様、ご報告が!」
 「おお、(いち)が見つかったのか?! 大事ないか?」

 側仕え(そばづかえ)である市が、数日前に突然姿を消したのだ。
今思うと、姿を消す前、市の様子がおかしかった。

 他の側仕えによると、その日は朝早くお使いを頼まれたと断り出かけたという。

 だが、そんな(はず)はない。
市は私の側から離れるときは、些細なことでも私に断ってから出かける。
だが、今回は何も私は聞いていないのだ。

 あの市が私に何も報告もせずにお使いに出かけるなどあり得ない。
あるとしたら緊急事態で、私に知らせたくなく、また私にかかわるとしか思えない。
それほど市は私に尽くしてくれている者なのだ。

 そして市は霊能力者でもある。
何か未来予知をし、その対処のため動いたと思えてならない。
市が心配でならなかった。

 廊下で控えている者は慌ててきたのであろう、息が整わず苦しそうだ。
だが市の事を早く知りたい。
思わず御簾(みす)から出て聞こうとしたのを、側近が(あわ)てて止める。

 「姫様、なりませぬ!」
 「でも・・。」
 「落ち着いてくだされ・・、姫様。」
 「・・そうじゃな・・、落ち着こう。」

 高貴な者、特に女性は人の前に姿を現してはならない。
ましてや姫と呼ばれるものならば、なおさらだ。

 御簾は自分の姿を隠すためのものであり、人と人とを分ける結界でもある。
高貴な者とそうでない者を分ける役目を果たしているのが御簾なのだ。

 御簾から出てはならない、そんな事は分かっている・・。
分かってはいるだ。
だが、市の事となると冷静でおられず、御簾などどうでもいいように思えたのだ。

 側近とやりとりしてい間に、廊下にいる者の息がすこし収まる。
そしてその者は多少荒い息のなか、話しかけてきた。

 「姫様、落ち着いて聞いてくだされ・・。」

 その言葉にいやな予感がし、背筋に冷たい汗が流れる。
聞くのが怖い・・。
でも・・。

 「・・・報告を・・。」

 「御意(ぎょい)、お市様は亡くなりました。」
 「何ですって!」

 私はショックで前屈みになる。
倒れまいと御簾に片手をかけた。
御簾に体重がかかり、引きちぎれそうになる。

 目の前が真っ暗となり、心臓の音がうるさい。

 いったい市に何が!・・・。

 報告は続く。

 「お市様は、荒れ寺で発見されました。
人があまり訪れない場所にあり発見が遅れたのです。」

 そう言って、いったん言葉を句切り息を整えた。
そして

 「姫様にお聞きしたいことがあります。
お市は人から恨まれておりませなんだか?」

 「馬鹿者!!
お、お市が人から恨みを買うなどと!!」

 私の剣幕に、側にいた側近が慌てて私を(いさ)める。

 「姫様、落ち着きついてくだされまし。
かの者は、お市様を手にかけた下手人を、姫様のために早く捕らえたいのでしょう。
ですからお市の事を一番知っている姫に聞いておるのです。」

 「くっ!・・・、すまなんだ、取り乱した。」

 私は御簾の中から、廊下の者に謝る。

 「いいえ・・、姫様、すみませぬ、私の聞きかたが悪うございました。」
 「よい・・。」

 しばらく沈黙し、再び聞かれる。

 「お心あたりは・・。」

 「お市は人から恨みを買うような者ではない。」
 「そうでございますか・・。」

 「じゃが(わらわ)の側近じゃ。
それも、妾が一番信頼しておる者であった。」

 「・・・。」

 「お市を亡き者にした者に、心当たりが無いわけでは無い。」
 「!・・、下手人は誰でございましょう?」

 「おそらく(わらわ)の一族を蹴落(けお)としたい一派がやったのであろう・・。」
 「・・・。」

 「お市・・すまぬ・・・。」

 そう話した時、倒れまいとしていた気力が失せた。
側近が倒れそうな私を慌てて支える。

 私は廊下の者に、私の叔父に今後の事を相談するように指示をし退出した。
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