第156話 忍び寄る影・・・ その4
文字数 2,451文字
お鶴が来て数日が経った。
だが、特に怪しい動きはせず平穏な日々が続いている。
助左はというと自室での謹慎をとかれ、神薙 の巫女 に付いて、神父となるための教えを請う日々を送っていた。
とはいえ、真面目にしているか、といえばそうではない。
お鶴を口説いたという噂が狭い教会に流れ、巫女らから冷たい視線を浴びている。
それが辛いのだろうか・・、神薙の巫女がちょっと目を離すとちょくちょく居なくなるようになった。
そんなお鶴、助左、そして神薙の巫女の事を考えながら溜息を吐く者がいた。
神父である。
神父は誰もいない礼拝堂の長いすに座わり、お鶴が突然訪問した日の夜の事を思い出していた。
あの日の夜、寝ようとしたときに寝室のドアがノックされた。
神父は何事かと思った。
「誰ですか?」
「助左です。」
「?!」
神薙の巫女から自室謹慎を言い渡された助左が、ここを訪れるのはまずい。
もし誰かに見られたら大変な事となる。
へたをしたらこの教会から追放となる。
慌てて神父はドアに駆け寄り、扉を開いた。
そんな慌てている神父を余所に、助左はドアの前で暢気 に微笑んで立っていた。
「まずいですよ! もし誰かに見られたら・・。」
「そんなヘマなどしませんよ。」
「え?」
「細心の注意を払ってきているので、大丈夫ですよ。」
「そ、そうですか・・、それならば・・いいのですが・・。」
「入って良いですか?」
「え? あ、はい・・、どうぞ。」
そう言って神父は助左を部屋に招き入れた。
部屋にはベッドと、二人用の狭いテーブルセットがあるだけだった。
「そこの椅子へお座り下さい。」
「ありがとうございます。」
「お茶、飲みますか?」
「あ、いや、そんなに時間は取らせませんので。」
「そうですか・・。」
神父も椅子に腰掛ける。
「神父様、昼間は謹慎となり人目に入りやすいので聞きにこれられなかったのですが・・。」
「お鶴の件ですね。」
「ええ、そうです。」
神父はお鶴と話した内容を助左に一通り話した。
助左は神父に尋ねる。
「お鶴をどう見ますか?」
「そうですね・・、特別怪しいとは思えません。」
「・・・。」
「ただ、曖昧な事が多すぎるのが少し・・。」
「?」
「確かに昔祖母の思い出を聞いた事ですから、曖昧になっていても不思議ではないのです。
ですが、祖母の親しかった友達の名前や、祖母が住んだ場所の特徴は分からないというが・・。
このような田舎まで尋ねてくる程の思いなら、覚えていると思えるのです。」
「なるほど・・。他には?」
「いえ、特には。 それに神父として個人的な事情に立ち入って聞くのは憚 られます。」
「そうですか・・。」
「助左の方は、何かお鶴に疑問を持ったのですか?」
「歩く様子で、怪しいと思いました。」
「歩く姿を一目見ただけで、怪しいと?」
「ええ、武芸の心得がある所作が見られたんですよ。」
「武芸・・ですか?」
「歩く重心の移動、まあ体幹の様子と言えばいいのでしょうか・・。」
「歩く姿で武芸の経験者かわかるものなのですか?」
「ええ。」
「そうですか・・、でもそれは別に怪しいことではないのでは?」
「?」
「女子 が一人で巡礼をしているのです。多少武芸の心得があっても不思議ではないでしょう?」
「いえ、そういうレベルではないのですよ、また歩き方を意識し隠すなど普通はしませんよ。」
「そうですか・・、かなりの使い手ということですか?」
「ええ、ですからさらに確かめるため、手を確認したんです。」
「手・・・ですか? ああ、それで求婚の振りをして触ったと?」
「そうです。 手にできたタコを探るためです。」
「お鶴は見た限りタコなど無かったように見えますが。」
「見ただけではタコとわからないタコがあるのです。」
「?」
「神父様、手に一目でわかるタコなどがあれば間者 など勤まりませんよ。」
「・・なるほど。」
「ですから間者となる者は、一目で分からない程度にタコができる修行をするのです。」
「なるほど・・・、で、タコがあったと。」
「ええ、そういうことです。」
「助左が求婚までして何をしたかったのか分かりました。」
「どうでしたか? 自分ではなかなかの芝居だったと自負しているのですが?」
「ははははは、まぁ、確かに。 それを見ていた者はあきれてしまい噂になっていますよ。」
神父は声を出し笑った。
助左は周りに聞こえないように注意を払いながらも、自然体で笑う神父に感心をする。
言い換えると、とんだ狸 である。
「ところで助左、間者がこの教会へ何しにきたと思いますか?」
「想像がつきませんか?」
「他国の間者が、このような何もない辺鄙な教会などに用は無いでしょう?
中央に行き軍や、政治の情報を探るのなら分かりますが?」
「もと姫巫女様が、ここにいるではないですか。」
「え?、いや、でも神薙の巫女が目当てだと決まったわけでは・・。」
神父のその問いかけに助左は答えず、神父に質問をした。
「神薙の巫女がお鶴の面倒を見るそうですね?」
助左はそう言って、お鶴がそうさせるよう仕向けた事を神父に話した。
それを聞いた神父は自分の米神 に左手を添え俯 いた。
「まさか教会の仕来り が悪用されるとは・・。」
「ええ、敵ながらよく調べ考えたものです。」
「それにしてもですよ、神薙の巫女に世話をさせ何をするつもりなのでしょう?」
「お鶴が、緋の国の者だとしたら?」
「緋の国?!」
「ええ、そうです。」
「な、なぜそのような事が分かるのですか!」
「所作や手のタコのできる場所などからおおよその流派が分かるのです。」
「・・緋の国にある流派だったと?」
「そうです。緋の国の間者となれば理由はお分かりでしょ?」
「・・・。」
「おそらく神薙の巫女の拉致でしょうね。」
「確かに・・・、緋の国は御神託のできる巫女を喉から手が出るほどに欲しがっていますからね。」
「・・・。」
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神父は助左との会話を思い出し悩んでいた。
だが、特に怪しい動きはせず平穏な日々が続いている。
助左はというと自室での謹慎をとかれ、
とはいえ、真面目にしているか、といえばそうではない。
お鶴を口説いたという噂が狭い教会に流れ、巫女らから冷たい視線を浴びている。
それが辛いのだろうか・・、神薙の巫女がちょっと目を離すとちょくちょく居なくなるようになった。
そんなお鶴、助左、そして神薙の巫女の事を考えながら溜息を吐く者がいた。
神父である。
神父は誰もいない礼拝堂の長いすに座わり、お鶴が突然訪問した日の夜の事を思い出していた。
あの日の夜、寝ようとしたときに寝室のドアがノックされた。
神父は何事かと思った。
「誰ですか?」
「助左です。」
「?!」
神薙の巫女から自室謹慎を言い渡された助左が、ここを訪れるのはまずい。
もし誰かに見られたら大変な事となる。
へたをしたらこの教会から追放となる。
慌てて神父はドアに駆け寄り、扉を開いた。
そんな慌てている神父を余所に、助左はドアの前で
「まずいですよ! もし誰かに見られたら・・。」
「そんなヘマなどしませんよ。」
「え?」
「細心の注意を払ってきているので、大丈夫ですよ。」
「そ、そうですか・・、それならば・・いいのですが・・。」
「入って良いですか?」
「え? あ、はい・・、どうぞ。」
そう言って神父は助左を部屋に招き入れた。
部屋にはベッドと、二人用の狭いテーブルセットがあるだけだった。
「そこの椅子へお座り下さい。」
「ありがとうございます。」
「お茶、飲みますか?」
「あ、いや、そんなに時間は取らせませんので。」
「そうですか・・。」
神父も椅子に腰掛ける。
「神父様、昼間は謹慎となり人目に入りやすいので聞きにこれられなかったのですが・・。」
「お鶴の件ですね。」
「ええ、そうです。」
神父はお鶴と話した内容を助左に一通り話した。
助左は神父に尋ねる。
「お鶴をどう見ますか?」
「そうですね・・、特別怪しいとは思えません。」
「・・・。」
「ただ、曖昧な事が多すぎるのが少し・・。」
「?」
「確かに昔祖母の思い出を聞いた事ですから、曖昧になっていても不思議ではないのです。
ですが、祖母の親しかった友達の名前や、祖母が住んだ場所の特徴は分からないというが・・。
このような田舎まで尋ねてくる程の思いなら、覚えていると思えるのです。」
「なるほど・・。他には?」
「いえ、特には。 それに神父として個人的な事情に立ち入って聞くのは
「そうですか・・。」
「助左の方は、何かお鶴に疑問を持ったのですか?」
「歩く様子で、怪しいと思いました。」
「歩く姿を一目見ただけで、怪しいと?」
「ええ、武芸の心得がある所作が見られたんですよ。」
「武芸・・ですか?」
「歩く重心の移動、まあ体幹の様子と言えばいいのでしょうか・・。」
「歩く姿で武芸の経験者かわかるものなのですか?」
「ええ。」
「そうですか・・、でもそれは別に怪しいことではないのでは?」
「?」
「
「いえ、そういうレベルではないのですよ、また歩き方を意識し隠すなど普通はしませんよ。」
「そうですか・・、かなりの使い手ということですか?」
「ええ、ですからさらに確かめるため、手を確認したんです。」
「手・・・ですか? ああ、それで求婚の振りをして触ったと?」
「そうです。 手にできたタコを探るためです。」
「お鶴は見た限りタコなど無かったように見えますが。」
「見ただけではタコとわからないタコがあるのです。」
「?」
「神父様、手に一目でわかるタコなどがあれば
「・・なるほど。」
「ですから間者となる者は、一目で分からない程度にタコができる修行をするのです。」
「なるほど・・・、で、タコがあったと。」
「ええ、そういうことです。」
「助左が求婚までして何をしたかったのか分かりました。」
「どうでしたか? 自分ではなかなかの芝居だったと自負しているのですが?」
「ははははは、まぁ、確かに。 それを見ていた者はあきれてしまい噂になっていますよ。」
神父は声を出し笑った。
助左は周りに聞こえないように注意を払いながらも、自然体で笑う神父に感心をする。
言い換えると、とんだ
「ところで助左、間者がこの教会へ何しにきたと思いますか?」
「想像がつきませんか?」
「他国の間者が、このような何もない辺鄙な教会などに用は無いでしょう?
中央に行き軍や、政治の情報を探るのなら分かりますが?」
「もと姫巫女様が、ここにいるではないですか。」
「え?、いや、でも神薙の巫女が目当てだと決まったわけでは・・。」
神父のその問いかけに助左は答えず、神父に質問をした。
「神薙の巫女がお鶴の面倒を見るそうですね?」
助左はそう言って、お鶴がそうさせるよう仕向けた事を神父に話した。
それを聞いた神父は自分の
「まさか教会の
「ええ、敵ながらよく調べ考えたものです。」
「それにしてもですよ、神薙の巫女に世話をさせ何をするつもりなのでしょう?」
「お鶴が、緋の国の者だとしたら?」
「緋の国?!」
「ええ、そうです。」
「な、なぜそのような事が分かるのですか!」
「所作や手のタコのできる場所などからおおよその流派が分かるのです。」
「・・緋の国にある流派だったと?」
「そうです。緋の国の間者となれば理由はお分かりでしょ?」
「・・・。」
「おそらく神薙の巫女の拉致でしょうね。」
「確かに・・・、緋の国は御神託のできる巫女を喉から手が出るほどに欲しがっていますからね。」
「・・・。」
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神父は助左との会話を思い出し悩んでいた。