第59話 祐紀、御神託の内容を話す 3
文字数 2,673文字
その昔、時の権力者に取り入ろうとした者がいた。
その者は、どこからか
そして地龍について、
ただ、古文書は
その者は古文書の記載の検証を
地龍と契約を結べば、その人知が及ばない力を
そのためには、若い娘を
その者は、その時の権力者に自分の調べたことを伝え取り入った。
本来の龍は天の使いであり、そのような生贄など必要としない。
しかし、その者が手に入れた古文書には生贄による使役が書いてあったのだ。
なぜなら、この者が手に入れた古文書は
禁術書には龍などの
ただし、禁術書とは使用をきつく
そのため、普通に読んだだけでは簡単に分からないよう工夫され書かれている。
学者と同等以上の知識がないと解釈を誤るのは当然といえた。
しかも、その者が手に入れたのは原本ではなかった。
歴史を
そのため、写されていくうちに内容が変わってしまっている箇所があった。
原本には生贄として
龍は巫女の願いを、その清らかな魂を捧げることで聞き入れる。
しかし、その者は生け贄として、修行もろくにしていない一般の巫女を選んだ。
しかも巫女の魂を龍に捧げるという意味を、巫女の生き血を捧げると解釈してしまったのだ。
地龍は地上での出来事を百年単位で天に報告しに行く。
その百年間は地で寝ている。
地龍は寝ているときに、人々の思いを受け取り、神々の意思との違いを検証する。
目覚めたときに地上の様子、すなわち自然破壊や生き物の状態を見るのだ。
そして龍は天に昇り神々に見てきたこと、および人々の思いを報告する。
地龍はその当時、迷路のようなある鍾乳洞の奥で寝ていた。
この者が地龍に近づいたのは、目覚めるまであと数十年というタイミングであった。
そのため龍は多少の騒ぎでは目が覚めない。
これ幸いと、その時の権力者と重鎮を引き連れて龍の
しかも大胆に龍の頭の場所に祭壇までつくるという念の入れようだった。
そして祭壇で生贄の巫女を殺害し、その血を龍の口に流し込んでしまったのだ。
龍は血が口に入り飲み込んだ直後、目覚め暴れ始めた。
龍は本来は血肉ではなく、巫女の思念を食べる聖獣だ。
それなのに、強引に人間の血など飲まされたのだ。
さらには、直ぐ側で殺された巫女の思念まで食べてしまった。
食べた思念は
生きたい、死にたくない、という無念の心。
殺される直前の苦痛。
自分を生贄にした周りへの怒りだった。
龍は、その怨念に
それも無差別に老若男女問わずに手当たり次第に。
ただ、それでも生贄となった娘の魂は、この国以外まで滅ぼそうということはしなかったようだ。
そそのかされた権力者は、生贄を捧げた場で祭事として見守っていたために、その場で龍に殺された。
また
そのため国として機能しなくなった。
普通なら、この状況を見て他国が侵略してくるものだが、怒れる龍がいたため手が出せなかった。
やがて国は滅びたが、それでも龍は暴れていた。
ある時、何処からともなく、この国に
僧侶は他国の高僧だった。
どうやら龍による荒廃ぶりを
荒廃し荒れ果てた国土で、生き残った人々は悲惨な暮らしをしていた。
高僧は、そんな人々に龍を
やがて人々は高僧の元に集まり、神へ龍を汚したことを
しかし、神々に、その祈りは届かなかった。
神は龍を汚した国の人々を見放していたのだ。
そして、哀れではあるが人の血を飲んでしまった地龍も見放した。
僧侶は決心をする。
天の使いである地龍ではあるが、もはや結界に閉じ込めるしかないと。
それは天に対し反逆ともとられかねない。
僧侶は天に自分の命を差し出すかわりに、地龍を閉じ込める
そしてその願いは
僧侶は地龍を自分もろとも地に封じ込めた。
人々は僧侶の指示に従い、地龍を閉じ込めた場所に御堂を建てる。
それが後世、閻魔堂といわれる御堂だ。
地龍を閉じ込めた後、人々は祈りを捧げ続けた。
地龍がいなくなると、有力な他国がこの地を治めるようになる。
そして国の行事として、地龍の鎮魂を行う行事が閻魔堂で執り行われた。
祈りが地龍を閉じ込めるために必要だったからだ。
この行事を代々
しかし時代とともに人々の信仰が薄れた。
それと同じように、この国を治める権力者も次第に地龍の怖さを忘れた。
特に、権力者は神社に多からぬ費用を払っておこなう行事に難色を示したこともあったようだ。
そして閻魔堂で祈りが少なくなり暫くすると地蔵堂周辺地域で不作が多くなった。
雨が長いこと
また、地蔵堂周辺では地震が頻発し、地蔵堂にも被害が出始めた。
地龍神社は付近の村々から寄付をつのり、なんとか地蔵堂の修理をした。
しかし、もし、次に大きな地震があり地蔵堂が壊れたなら修理は無理であろう。
ただでさえ干ばつなどで農作物が育たない地域が無理をして寄付しているからだ。
国としても地蔵堂などに予算を出さない。
もし、伝説通りならば地蔵堂が無くなれば、地龍が復活するかもしれぬと佐伯は言って話しを終えた。