第77話 陽の国:渦巻く陰謀 7 最高司祭、姫御子の現状を知る

文字数 2,659文字

 司祭室で、最高司祭と教会の司祭が二人だけで打ち合せをしている時だった。
扉がノックされた。

 司祭が対応しドアを開けると以外な人物が立っていた。
都の情報局で最高司祭を補佐している柳田という男だった。
都から早馬で駆けてきたようで、かなり疲労しているように見える。

 司祭は柳田を司祭室に招き入れた。
柳田は最高司祭に挨拶しようとしたが、最高司祭はそれを止めた。
そして、対面の椅子に腰掛けるよう指示をする。

 柳田が腰掛けると、司祭は水の入ったコップを柳田の前においた。
柳田は礼を言うと一気にコップの水を飲干す。
飲まず食わずで馬を飛ばしてきたのであろうことが分る。

 最高司祭は柳田に話しをするように促した。
柳田が話した内容は以下だ。

 姫御子が陰の国の祐紀と内通したと吟味役が判断をしたこと。
そして、さらに陰の国に亡命を図っていた疑いもかけられていること。
さらには、小泉神官が吟味役に代り取調べを行ったらしいこと。

 それを聞いた最高司祭は目を見開き押し黙った。
常識で考えて有り得ない事ばかりの内容だらけだ。
一番解せないのは小泉神官が姫御子を吟味役に代り取調べたことだ。
いったい吟味役は何を考えているのだ。
最高司祭は、驚きと呆れで顔を真っ赤にする。
あの冷静沈着な最高司祭がである。

 しかし直ぐに最高司祭は普段と同じ雰囲気に戻った。
そして腕を組み、短い溜息を吐く。
そして、暫くの間、何か考え込んだ。

 司祭は柳田の話を聞いた直後、口をあんぐりと開けた。
やがて有り得ない話しの内容が理解できたのか、何か言おうと口をパクパクさせる。
だが声にならない。
そして一端口を閉じた。
気を落着かせようとしたようだ。
気が落着くと、最高司祭に声をかけた。

 「最高司祭様・・・、どうされます?」
 「どうもこうもないであろう・・。」
 「・・・。」
 「儂にもうすぐ都から呼戻しの書状が届くであろうよ。」
 「・・・。」

 最高司祭は柳田に目を合せると、さらなる情報を得るため聞き始めた。

 「小泉神官と吟味役はどのように繋がっている?」
 「一部推察になりますが、よろしいですか?」
 「うむ・・。」

 「吟味役の部署に、神殿内の内部抗争を暴露した文が投込まれたようです。
 吟味役は国主に報告し、神殿の調査に着手します。
 まず神殿内の協力者を選定しました。
 最高司祭様と権力争いをしていない者を探したようです。
 結果、小泉神官は派閥争いに興味がなく、中立で神殿の争いを憂えているとのこと。
 吟味役は小泉神官を協力者にしました。」

 「そうか・・。
 小泉神官が中立とは笑わせてくれる。
 おそらくだが、吟味役に投込まれた文は小泉神官が書いたものであろう。」

 「はい、私もそう考えております。
 吟味役は神殿内の権力争いについて小泉神官に聞いたようです。
 すると最高司祭様が権力を維持するため内紛が起こったと言ったそうです。
 かたや勢力の高位である神官二人・・、これは言わずもがなですけど・・。
 その二人は信者からの寄付を着服しているのではないかと言っています。
 これについては部下が吟味役の部署に忍び込んで見た調書に記載がありました。」

 「ふむ・・、小泉神官が儂に印象操作をしたか・・。
 まさかとは思うが吟味役はそれを鵜呑みにしてなどおるまいな?」

 「いえ、それが小泉神官への信頼が厚く・・。」
 「なんだと!」
 「はい、不味い状態です。
 最高司祭様が権力を維持しようし、神殿が割れていると吟味役は考えているようです。
 そのための証拠固めに入っているとか。
 最高司祭様については未だに証拠はつかめていないようです。
 小泉神官も捏造に窮しているようです。
 そして(くだん)の反乱神官二人の賄賂などの証拠は既に手に入れたようです。
 まあ、彼らは実際に行っていたので無理からぬことですが。」

 「その様子だと、儂も危うくなっていたのだな。」
 「はい・・。ただ吟味役が騒いでも最高司祭様を疑う重役は少ないので問題ないでしょう。」
 「そうか・・。」

 「陰の国からの例の書状なのですが、吟味役が神殿の調査をしている時に届きました。
 ただ、その書状は我が国に届いてから、国主に渡るまで何故か時間がかかっております。」

 「陰の書状が国主に届いた日は、儂がこの教会に出発した日であろう?」
 「お見通しのようですね。
 おそらくは小泉神官が仕組んだと私には思えます。」
 「お前もそう思うか・・。」

 「話しを続けても?」
 「ああ・・続けてくれ。」

 「姫御子様なのですが・・。」
 「ふむ・・、まんまと罠にかかったようだな。」
 「はい。
 事の発端は先ほどの神殿のもめ事です。
 我が国の御神託について陰の国が知っている事に一部の重役が懸念したのです。
 スパイが神殿にいるのではと。」

 「さもありなん・・。」
 「そして・・、これが問題なのですけど・・。
 小泉神官が言葉巧みに、姫御子様と吟味役を誘導したようです。
 姫御子様が陰の国に情報を流しているかのように。」

 「やはりな・・。」
 「誘導したという証拠は残っておりません。
 そのかわり、小泉神官が姫御子様の吟味に立会う経緯は掴んでおります。
 小泉神官が神殿のことは神官にしか分らないだろうからと協力を申し出たようです。
 吟味役は、その申し出を受けたようです。
 これについては、吟味役の日記に書かれているのを部下が確認しております。」

 「そうか・・、吟味役は・・虚け(うつけ)なのか・・。」
 「はい、そのようです。」

 「お前に頼みたいことがある。」
 「なんでございましょう。」
 「この国にいる緋の国の者達の動きを、よく見張ってくれ。」
 「え? はい。」

 「おそらく緋の国は今まで以上に慎重に行動し始めるであろう。」
 「・・・・それは何故でしょうか?」
 「姫御子を捕え護送するためだ。」
 「え!!」

 最高司祭はそういうと柳田の目を見つめた。
柳田はゴクリと唾を飲込むと、その命を引受けた。

 「儂への登城の書状が暫くしたら届くであろう。
 登城の前に小泉神官と緋の国との繋がりについての証拠を集められるか?」

 最高司祭は司祭と柳田の顔を交互に見た。
二人は厳しい顔をしながらも、はいと答えたのだった。
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