第217話 縁 閻魔大王・・・ その3
文字数 2,479文字
そうだ・・思い出した。
この二日後、夜陰に紛 れて私は暗殺されたのだ。
死ぬ直前、私は市 の事を考えた。
おそらく市は私の暗殺を予知し、それを防ごうと動いたのではないだろうか?
それを敵が察知し、市の口を塞 いだのでは・・。
そうか、そうであったのか・・・。
すまぬな、市・・・。
静 は市の失踪から、自分が暗殺されるまでの事を思い出した。
そして思い出すと同時に、目の前が徐々に暗くなっていき、やがて暗闇につつまれた。
静はハッとした。
今、私は何を見た?!
いったい何が起こったのだろう・・。
たしか閻魔大王 様が、私の頭に手をのせて激痛が走り・・・。
そうだ!
それがきっかけとなり・・かなり昔の前世を思い出したのだ。
それを思い出すと同時に、自分がぼ~っとしている事に気がついた。
焦点が定まっていない自分がいた。
やがて、ぼやけていた焦点が少しずつ合いはじめる。
すると、目の前に自分を見つめている閻魔大王がいた。
「え、閻魔大王様!!」
静は焦った。
閻魔大王の前でボ~っとしていた自分にオロオロとする。
そんな静に、閻魔大王様が話しかけた。
「思い出したようじゃな。」
「え?」
「平安時代の記憶じゃよ。」
「え? あ・・、はぃ・・?」
閻魔大王様が私の前世の記憶を思い出させた?
何故?・・。
静は訳がわからなかった。
なぜ、そのような事をするのだろうか?
死者は次の輪廻転生 に備えなければならない。
そのために過去にとらわれないように仕向けられる。
つまり、生前の思いに囚われないよう現世 の記憶が徐々に消されていくのだ。
それなのに・・
なぜ閻魔大王様は過去を、それもかなり昔の過去を思い出させたのであろうか?
平安時代という、何度か輪廻転生を繰り返す前の事を。
静は、閻魔大王に聞かずにはいられなかった。
「閻魔大王様・・、何故、私に前世を、それも平安時代を思い出させるのでございましょう?」
「それは、お前に協力して欲しいことがあるからだ。」
「?」
その言葉に静は困惑する。
「奪衣婆 を知っておるか?」
「え?・・、あ、はい。」
「会ったことがあるのか?」
「はい・・、平安の時代で死んだ直後に一度、声をかけられた事が。」
「そうか・・。」
「あの・・、奪衣婆様が何か?」
「市は奪衣婆見習いとなったのだ。」
「なんと! それはすごい! 良かった、本当によかった。
市は輪廻転生から解き放たれたのですね!」
「お前はそれを嬉 しく思うのか?」
「はい!」
「そうか・・、だが、市は奪衣婆見習いを止め転生をした。」
「え?!」
お静は目を見開き、呆然とした。
「な、何故にございますか!! 奪衣婆見習いになったのでしょ!
なら解脱 をしたのでは!
解脱をしたならば輪廻転生は必要無いではないですか!」
静の剣幕に、閻魔大王は左手をゆっくりと前に出す。
静は、己の動揺と態度にハッとした。
「すみませぬ、閻魔大王様・・。」
「よい。
その方が市の事を気にかけていたのがよう分かった。
市はのう・・、平安時代のお前の事を引きずっておるのだ。
お前が死ぬ直前に、側にいられなかったことを悔やんでおる。」
「なんと・・馬鹿な子・・、悔やむ必要などないのに。
むしろ私は市に会って、私に仕えてくれた礼を言いたいのに・・。」
「そうか、礼を言いたかったのか。」
「はい。」
「では、市に会ってみるか?」
「え?」
「市とは、市の夢の中で会うことができる。
市は霊能力をもって転生しているゆえ、夢で会ってもお前からのお告げだとわかる。」
「あ、あの・・、閻魔大王様・・?」
「なんじゃ?」
「私が申し上げるのもなんですけど・・。
私と市のために、そのような事をなさってもよろしいのですか?
閻魔大王様は個人的関与はなさらないお立場だとお聞きしましたが・・。」
「その通りだ。」
「・・・・。」
「これには理由がある。それは神界の都合なのだ。」
閻魔大王は市の事について静に話した。
それは・・
市は姫である静に仕え死んだ後、魂が純粋ゆえある能力が開花した。
それは本来、神界の者が有する能力である。
つまり神界に来るべき魂なのだ。
だが市は死後、三途 の川で天界が出した解脱の門を潜 らなかった。
この門を潜ることには重要な意味がある。
一つには神が解脱者として認めたという証。
そしてもう一つが、神界に入る資格を得たという事だ。
どちらかというと後者の方が重要な意味を持つ。
そして、解脱の門が出てもそれを潜らないなら輪廻転生の輪に戻らねばならない。
己で苦界ともいえる現世 への転生を望んだという事になるからだ。
だが、そうであっても神にとってはどうでも良いことで関心など持たない。
だが、市のような能力に目覚めた魂となるとそうはいかない。
もし、市の魂が通常の輪廻転生をすれば、目覚めた力は消滅する。
神にとってそのような事は看過 できないのだ。
そのため奪衣婆は神々に妥協案を示したのだ。
それは自分の元において、市の魂が解脱の門を潜るまで面倒を見るというものだ。
通常はこのような提案は通らないのだが、奪衣婆の提案であったから通ったのである。
しかし、これは暫定的な神々の処置にすぎない。
もし、市がいつまでも解脱の門を潜る気が無いと知れたら大変な事になる。
市の魂のあり方に問題があると見なされてしまうからだ。
問題のある魂なら消滅をさせてしまえ、という裁定が下されても不思議ではない。
消滅とは魂が完全なる無に帰するという意味だ。
だが、そのような神々の考えなど、市には知るよしがない。
いや、神からみたら市は知る権利も知る必要もない存在なのだ。
そのような裁定は神々がこの世に生まれてから2度程しかない。
魂とは輪廻転生を繰り返し、やがては天界に至るものなのである。
そうとは知らぬ市は奪衣婆のもと、頑な に解脱の門を潜るのを拒んでいたのである。
閻魔大王と奪衣婆以外の神は、そのような市の気持ちを知らないでいた。
市に解脱の門を潜らせるきっかけを、静ならば与えられるのではないかと閻魔大王は考えたのだ。
これを聞き、静は迷うこと無く了承した。
この二日後、夜陰に
死ぬ直前、私は
おそらく市は私の暗殺を予知し、それを防ごうと動いたのではないだろうか?
それを敵が察知し、市の口を
そうか、そうであったのか・・・。
すまぬな、市・・・。
そして思い出すと同時に、目の前が徐々に暗くなっていき、やがて暗闇につつまれた。
静はハッとした。
今、私は何を見た?!
いったい何が起こったのだろう・・。
たしか
そうだ!
それがきっかけとなり・・かなり昔の前世を思い出したのだ。
それを思い出すと同時に、自分がぼ~っとしている事に気がついた。
焦点が定まっていない自分がいた。
やがて、ぼやけていた焦点が少しずつ合いはじめる。
すると、目の前に自分を見つめている閻魔大王がいた。
「え、閻魔大王様!!」
静は焦った。
閻魔大王の前でボ~っとしていた自分にオロオロとする。
そんな静に、閻魔大王様が話しかけた。
「思い出したようじゃな。」
「え?」
「平安時代の記憶じゃよ。」
「え? あ・・、はぃ・・?」
閻魔大王様が私の前世の記憶を思い出させた?
何故?・・。
静は訳がわからなかった。
なぜ、そのような事をするのだろうか?
死者は次の
そのために過去にとらわれないように仕向けられる。
つまり、生前の思いに囚われないよう
それなのに・・
なぜ閻魔大王様は過去を、それもかなり昔の過去を思い出させたのであろうか?
平安時代という、何度か輪廻転生を繰り返す前の事を。
静は、閻魔大王に聞かずにはいられなかった。
「閻魔大王様・・、何故、私に前世を、それも平安時代を思い出させるのでございましょう?」
「それは、お前に協力して欲しいことがあるからだ。」
「?」
その言葉に静は困惑する。
「
「え?・・、あ、はい。」
「会ったことがあるのか?」
「はい・・、平安の時代で死んだ直後に一度、声をかけられた事が。」
「そうか・・。」
「あの・・、奪衣婆様が何か?」
「市は奪衣婆見習いとなったのだ。」
「なんと! それはすごい! 良かった、本当によかった。
市は輪廻転生から解き放たれたのですね!」
「お前はそれを
「はい!」
「そうか・・、だが、市は奪衣婆見習いを止め転生をした。」
「え?!」
お静は目を見開き、呆然とした。
「な、何故にございますか!! 奪衣婆見習いになったのでしょ!
なら
解脱をしたならば輪廻転生は必要無いではないですか!」
静の剣幕に、閻魔大王は左手をゆっくりと前に出す。
静は、己の動揺と態度にハッとした。
「すみませぬ、閻魔大王様・・。」
「よい。
その方が市の事を気にかけていたのがよう分かった。
市はのう・・、平安時代のお前の事を引きずっておるのだ。
お前が死ぬ直前に、側にいられなかったことを悔やんでおる。」
「なんと・・馬鹿な子・・、悔やむ必要などないのに。
むしろ私は市に会って、私に仕えてくれた礼を言いたいのに・・。」
「そうか、礼を言いたかったのか。」
「はい。」
「では、市に会ってみるか?」
「え?」
「市とは、市の夢の中で会うことができる。
市は霊能力をもって転生しているゆえ、夢で会ってもお前からのお告げだとわかる。」
「あ、あの・・、閻魔大王様・・?」
「なんじゃ?」
「私が申し上げるのもなんですけど・・。
私と市のために、そのような事をなさってもよろしいのですか?
閻魔大王様は個人的関与はなさらないお立場だとお聞きしましたが・・。」
「その通りだ。」
「・・・・。」
「これには理由がある。それは神界の都合なのだ。」
閻魔大王は市の事について静に話した。
それは・・
市は姫である静に仕え死んだ後、魂が純粋ゆえある能力が開花した。
それは本来、神界の者が有する能力である。
つまり神界に来るべき魂なのだ。
だが市は死後、
この門を潜ることには重要な意味がある。
一つには神が解脱者として認めたという証。
そしてもう一つが、神界に入る資格を得たという事だ。
どちらかというと後者の方が重要な意味を持つ。
そして、解脱の門が出てもそれを潜らないなら輪廻転生の輪に戻らねばならない。
己で苦界ともいえる
だが、そうであっても神にとってはどうでも良いことで関心など持たない。
だが、市のような能力に目覚めた魂となるとそうはいかない。
もし、市の魂が通常の輪廻転生をすれば、目覚めた力は消滅する。
神にとってそのような事は
そのため奪衣婆は神々に妥協案を示したのだ。
それは自分の元において、市の魂が解脱の門を潜るまで面倒を見るというものだ。
通常はこのような提案は通らないのだが、奪衣婆の提案であったから通ったのである。
しかし、これは暫定的な神々の処置にすぎない。
もし、市がいつまでも解脱の門を潜る気が無いと知れたら大変な事になる。
市の魂のあり方に問題があると見なされてしまうからだ。
問題のある魂なら消滅をさせてしまえ、という裁定が下されても不思議ではない。
消滅とは魂が完全なる無に帰するという意味だ。
だが、そのような神々の考えなど、市には知るよしがない。
いや、神からみたら市は知る権利も知る必要もない存在なのだ。
そのような裁定は神々がこの世に生まれてから2度程しかない。
魂とは輪廻転生を繰り返し、やがては天界に至るものなのである。
そうとは知らぬ市は奪衣婆のもと、
閻魔大王と奪衣婆以外の神は、そのような市の気持ちを知らないでいた。
市に解脱の門を潜らせるきっかけを、静ならば与えられるのではないかと閻魔大王は考えたのだ。
これを聞き、静は迷うこと無く了承した。