第74話 陽の国:渦巻く陰謀 4 小泉神官の尋問 

文字数 2,651文字

 姫御子(ひめみこ)小泉(こいずみ)神官と目を合せた。

 小泉神官は何時ものように柔和な笑顔を湛えている。
小泉神官の本性を知らない者が見たら、いかにも神官らしい姿に見えたであろう。

 だが、姫御子は小泉神官の目が獲物を捕えた肉食獣の目に見えた。
そして納得した。

 これは小泉神官が仕組んだのだと。
それも、最高司祭である養父がいないこの時期を狙って。
これは覚悟を決めて臨まねばならない。

 吟味役には姫御子と小泉神官が親しそうに笑顔を交しているように見えた。
和気藹々(わきあいあい)とする場ではない。
吟味役は吟味を始めることにした。

 「姫御子様、今日お越し頂いた件なのですが・・。」
 「はい、なんでも

から書状が届いた件と(うかが)っておりますが?」
 「ええ、その書状が届いた経緯について伺いたいのです。」
 「はて?・・、経緯ですか?」
 「ええ。」

 姫御子は言っている意味が分らず、首を傾げる。
その時、目の隅に小泉神官の顔が入った。

 小泉神官はネコがネズミを捕まえていたぶっているいるかのような表情だ。
背筋が寒くなる。

 吟味役は話しを続ける。

 「

が我国に協力を求めて来ました。」
 「はい、それが何か?」
 「

は協力をしていただければ、姫御子様の御神託の協力をしたいと申出ています。」

 そう言って吟味役は姫御子の様子をジッと見つめた。
どうやら目の動きなどから、姫御子の心の動きを見ているようだ。

 姫御子は吟味役が何を知りたいのかわからず質問をする。

 「あの・・、私に何を聞きたいのでしょうか?」
 「姫御子様の御神託とは一体どのような物ですか?」
 「吟味役様、それは言えない事はご存じなのでは?」
 「では、言い方を変えましょう。」
 「?!」

 吟味役の目が鋭くなる。
姫御子は思わず両手を握った。

 「なぜ言えない御神託を

が知っているのですか?」
 「それは

祐紀(ゆうき)様も、御神託を授る能力があるからです。」
 「ほう?・・、それは可笑しいのでは?」
 「え?!」

 「御神託とは一人の霊能力者に降りるものだと伺っております。」
 「!・・」
 「それが二人に降りるのですか?」
 「そ、それは!・」

 そこで小泉神官が口を挟んできた。

 「吟味役殿、一つよろしいでしょうか?」
 「はい、何でしょうか?」
 「姫御子様と少しお話がしたいのです。」
 「それは、本件と関わることですか?」
 「はい。」

 吟味役は小泉神官に許可を与えた。

 「姫御子様、祐紀様が貴方様の御神託を知ったのは何時ですか?」
 「なぜ、私が貴方にそれを教える必要が?」
 「別に構わないですよ、(おっしゃ)らなくても。」

 そういうと小泉神官は吟味役の方を向いた。
そして、いかにも仕方ないという仕草をする。

 吟味役はその様子を見て、姫御子に予想外の意見をする。

 「姫御子様、小泉神官に正直に答えた方がよいですよ?」
 「なぜ私が答える必要があるのですか?」
 「小泉神官は私の代りに聞いているのです。」
 「え?」

 姫御子はその言葉に、一瞬ポカンとした。
そして慌てて小泉神官を見てしまった。
小泉神官は、その様子を見て微笑む。
姫御子はゾッとした。

 姫御子は自分の置かれている立場がわからなくなった。

 小泉神官は神職であって、吟味役ではない。
しかも階級的は私より下だ。

 それなのに、小泉神官が吟味役のかわりに私を吟味する?!
いったい吟味役は何を考えているのだろうか?

 しかし、この様子だと小泉神官の質問に答えなければいけないようだ。

 やはり、この呼出しは小泉神官の罠だ。
動揺してはいけない。
冷静さが欠ければ感情的になり言葉尻を捕えられる危険がある。

 落ち着こう・・・。

 姫御子は小泉神官に気がつかれないように深呼吸をしようとした。
だが、小泉神官はこのチャンスを逃さなかった。

 「吟味役殿、姫御子様は

(かば)っているようですね。」

 その言葉に姫御子は冷静さを失った。

 「な、何を言うのですか、小泉神官!」
 「おや? 祐紀殿が貴方様の御神託を知った理由を言えないのですよね?」
 「それがどうして陰の国を庇うことになるのですか!」
 「でも

の書状の通にしたいのでしょ?」
 「当り前ではないですか! 私は陰の国に行って祐紀殿の手伝いをします!」

 その言葉を聞いて吟味役が目を見張る。
小泉神官は、一瞬、口の端がほんの僅か上がった。
だが、姫御子はその様子に気がつかない。

 小泉神官は話しを続ける。

 「ほう・・祐紀殿の手伝いね・・。」
 「え?」
 「いや、何、だいぶ祐紀殿と親しいようですね。」
 「当り前ではないですか、祐紀様の成人の義に出席しているのですから!」
 「でも、ご挨拶程度の方なのでしょう?」

 「宴会の席で、祐紀様に声をかけられて話しをしております!」
 「宴会の席? 二言三言(ふたことみこと)くらいしか話せないでしょ?」
 「っ!」

 「吟味役殿はどう思われますか。」
 「ええ、公式の宴会の席では、二言三言程話すにとどめるのが常識でしょうな。」

 「それにしても、二言三言(ふたことみこと)で親しく感じるとは・・。」
 「どういう意味ですか!」
 「いや・・、姫御子としていかがなものかと・・。」

 「二言、三言で親しく感じた訳はありません!」
 「おや? 宴会の席で話し込んだのですか?」
 「私は外交儀礼を逸脱などしておりません!」

 「ほう・・、では一目見て親しく感じたとでも?」
 「違います、宴会後に祐紀様と個人的に二人だけで話しをしたからです!」
 「ほう・・、個人的に二人で、ですか?」
 「!」

 姫御子は失態に気がついた。

 今の会話では、祐紀と密談をしたと捕えられるだろう。
誤解を解くには御神託について話さねばならない。
しかし、それはできないことだ。御神託なのだから。

 祐紀と個人的に話しをしたことは、御神託に関わる極秘事項だ。
本来、これも含め言うことでは無い。

 まんまと小泉神官の罠に嵌ってしまったのだ。

 小泉神官は笑みを浮べ、満足そうな目をしていた。
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