第105話 対決 4

文字数 2,020文字

 助っ人の言葉に牛頭馬頭(ごずめず)は、言葉を()んだ。
帝釈天(たいしゃくてん)(とど)めを刺しにいくのか、という言葉に。

 もしそうなら黙って見てはいないぞ、という意味か?
いや、おそらくそう言う意味だろう。

 それにしても、と、牛頭は思う。
この助っ人は、助っ人として帝釈天様の側に現れたのではない気がする。
帝釈天様が片膝を付いた時に、突然現れたのだ。
最初は、帝釈天様が毒に気がつき、なんらかの方法で助っ人を呼んだと思った。

 だが、この助っ人の様子を見ているとそうで無いと思わざるをえない。
この助っ人・・
いや、この者は帝釈天様に用事があってきたのではないだろうか?
そして来てみたら、決闘の最中だったとしたら納得できる。
おそらく最初は決闘などしていると思わなかったのではないだろうか?
だから様子を暫く見ていた・・。

 そして見ていて決闘だと気がついた。
さらに帝釈天様は蹴りを放った後、突然片膝をついたのだ。
それを見て驚くと同時に不審に思ったのだろう。
不自然に片膝をついたのを。
それですぐさま帝釈天様の側に転移したというところだろう。
そして事のあらましを帝釈天様から精神干渉で聞いた。
これなら、今までの様子が納得できる。

 さて、この者に帝釈天の助っ人となられては困る。

 実力はわからないが、かなりの者だと考えるべきだ。
理由は、帝釈天様を呼びに来た者だから神の系列という事になるからだ。
弱いはずがない。
それに次元転送で、この地獄にきたのだ。
それも、次元転送器のような物を持っているようには見えない。
おそらく自分の能力だけで来たと見るべきだ。
何らかの特殊能力を持っているに違いないのだ。

 今、帝釈天に毒が回っている状態だ。
とはいえ、この助っ人の見立てでは俺達二人でも勝てるか怪しいという。
おそらくハッタリではないだろう。
そこにこの助っ人が加われば、俺達に勝ち目はない。

 だが・・、助っ人をできなくさせられるかもしれない。
それは帝釈天と決闘をする前に、()わした口約束だ。
帝釈天一人に対し二人で挑むという。
これが守られるなら助っ人は手を出せない。

 とはいえ、決闘する前に(だま)して帝釈天に毒を飲ませたのだ。
それを助っ人がどう(とら)らえるかが問題だ。

 地獄界では、(だま)される者が悪い。
それが地獄でのルールだ。
そういう意味では、こちらに正当性がある。

 しかし、それが神に通用するだろうか?
おそらく毒の事を理由にし、助っ人が決闘に参加するに違いない。
そう思い、牛頭(ごず)逡巡(しゅんじゅん)する。

 押し黙った二人の様子に、助っ人は悪びれた笑いを浮かべる。
おそらく助っ人は二人が何を心配しているか分かったのだろう。
助っ人は二人に宣言をする。

 「安心しろ、俺は手助けなどせん。」

 その言葉に牛頭馬頭はポカンとした。
助っ人をするのではないのか?
真意が理解できず、呆気にとられた。

 助っ人は、さらに言う。

 「お前等(おまえら)は、助っ人を呼びたければ呼べばいい。
 帝釈天も、それでいいと言っている。
 だが、()めといた方がいいぞ。
 彼奴(あいつ)は今、あまり余裕がなく加減が難しい状態だからな。
 もし、やるなら死ぬことを覚悟してやるんだな。
 まあ、俺にはどうでもいい事だ。
 で、どうする?」

 この言葉に牛頭馬頭は考え込んだ。
助っ人は手を貸さず、さらに俺等には助っ人を頼めだと?
俺等に助っ人が新たに加わろうが、帝釈天様一人で勝てるとでも?
ハッタリか?
・・・。
いや、先ほどの会話からハッタリではないだろう。
だが、俺達は負けを認めるわけにはいかない・・。

 牛頭馬頭は互いに顔を見合わせる。
そして、目で確認しあう。
二人は一言も(しゃべ)らなかった。
おそらく会話をしなくても、互いの気持ちが伝わるのだろう。

 牛頭(ごず)は助っ人に向かいあった。
 そして予想外の回答をする。

 「お前が言いたい事はわかった。
 この勝負は引き分けだ。
 これは(ゆず)れん。」

 「そうか・・、まあ、帝釈天に伝えてくるとするか・・。」

 そう言って助っ人は急ぐこともなく、ゆっくりと帝釈天に向かった。

 牛頭は、助っ人の様子を見て不思議でならなかった。
いったいあの助っ人は何を考えている?
できるだけ早く治療をしないと、帝釈天様の命が危険だというのに。
それなのに、あの歩みの鈍臭(のろくさ)さはなんなんだ?
まるで助ける気が無いかのようだ。

 それに、今、帝釈天様は呼吸ができず苦しいはずだ。
なぜ、わざとゆっくりと歩む。
まるで帝釈天様が苦しむのを面白がっているかのようだ。
いったい神とは何なんだ?
背中に薄ら寒さを感じた。
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