第50話 権禰宜見習いの来訪:その3

文字数 2,110文字

 宮司(ぐうじ)青木村(あおきむら)から来た権禰宜(ごんねぎ)見習いに言い放った。

 「(わし)は神主ぞ! 神への信仰の無い者などすぐ分かるわ!」
 「!」

 「お主達(おぬしら)の目的はなんだ!」
 「「なっ!」」

 宮司は鋭い眼光で二人を睥睨(へいげん)した。
二人の権禰宜(ごんねぎ)見習は、その眼光に一瞬で身構えた。
そう、半身になり身構えたのだ。

 「馬脚を露わ(ばきゃくをあらわ)したか・・。」

 その言葉に見習いの二人はハッとする。
無意識に体が臨戦態勢をとってしまった事に気がついた。

 「くっ、しまった。」
 「うぬ、ただの神主かと思っておったが!」

 「ふん、村人に化け権禰宜(ごんえぎ)見習いで来たと言えば通るとでも思ったか!」
 「くっ!」
 「なんで分かった!」

 「そんな(いか)つい体躯(たいく)をした村人などいるか、青木村(あおきむら)に。」
 「・・・。」
 「それに微妙にお国言葉の(なま)りと違うことに気がつかんとでも?」
 「う、ぬ・・。」
 「ただの神主ではあるまい、お主。」

 「いや、(わし)一介(いっかい)の神主じゃ。」
 「ふざけおって!」
 「計画が台無しだ!」

 「ほう、計画ね・・。」
 「知りたいか?」

 そういうと権禰宜(ごんねぎ)見習いはニヤリとした。
冷酷な笑みだ。
しかし、そのような笑みを浮かべても動じない宮司の態度に気がついていない。
おそらく自分達を見破り、振り回した宮司に怒り心頭であったのだろう。
何時もなら自分の笑顔に怯えるはずだと思い至っていない。

 そして悪い癖がでた。
これから死にゆく者をいたぶりたいという気持ちが。
自分が死んだ後を後悔させてやりたいという気持ちだ。
そして、この相棒でもある者も怒りのため、気がついていなかった。

 「ほう、教えてくれるのか、親切だな。」
 「ふふふ、余裕だな。」
 「そうでもないかな、二人相手だと。」
 「くっくっくっく、分かっているではないか?」
 「で、何が言いたい?」

 「儂等の目的は祐紀(ゆうき)拉致(らち)よ。」
 「それはまた、祐紀も見込まれたものよな。」
 「ああ、皇帝がご執心なのでな、諦めろ。」
 「諦めろ、ね~・・・。」
 「穏便(おんびん)に拉致しようとしたのだがな。」
 「穏便ね~・・。」
 「ああ、我らが神社で祐紀を洗脳し、自から(みずから)亡命させる計画だったのだがな。」
 「ほう・・。」
 「それなら誰も死にもしないものを。」

 「じゃあ、儂を見逃してくれるのか?」
 「くっくっく、いや、もう遅い。」
 「儂を殺したら、祐紀は警戒すると思うが?」
 「いや、お前を殺したのはこの国の城の者さ。」
 「どういう意味だ?」
 「な~に、祐紀を洗脳しこの国を嫌いになってもらうだけだ。」
 「ほう、考えたな。」

 宮司の暢気な返事にようやく権禰宜(ごんねぎ)見習い達は気がつく。

 「お前・・、やけに冷静だな・・。」
 「そうか?」

 「おい、此奴(こやつ)、怯えや殺気を感じない、様子がおかしいぞ!」
 「ああ、それにこの冷静さ・・なにか。」

 そういうと二人は、隠し持っていた短刀を出した。
スラリと刀を抜き、鞘をそのまま持ち、独特の構えをした。

 「ほう・・、間者というわけでもないか・・。」
 「な!」
 「元は武士であろう、其方(そなた)。」
 「う・・ぬ・・!」
 「そして、その流派は・・、たしか()の国の・・。」

 「やるぞ!」
 「おお!」

 そう言って二人は同時に斬りかかる。
それを宮司は後ろに数歩さがり、左によけて左側の者の手首を握った。
その途端、左側で襲ってきた者は宙に舞い頭から落ちた。
嫌な音とともに。

 右手にいた者は、絶命する相棒を目を見開いて見た。
しかし、その瞬間、自分の左手が取られたことに気がつく。
気がついた時には自分も宙にまって頭から地面に落ちる。
受け身など頭から落ちれば無意味だ。
それも、河原で石だらけの場所である。
目の前に地面が見えたと思った瞬間、地面にたたきつけられていた。

 「はぁ・・儂は宮司ぞ・・、無意味な殺生なぞさせおって・・。」

 そう呟くと宮司は気を緩めずに倒れている患者の頸動脈に触る。
脈が途絶えているのを確認し、ボソリと呟く。

 「これは、あの狸に知らせねばならんな。
 いや、彼奴(あやつ)のことだから知っておるのではないか?
 はぁ・・、たぶん、知っているな、彼奴は・・。
 まあ、それでもだ、とりあえず知らせるか。
 祐紀(ゆうき)の周りも心配だ。」

 そう言って二つの(むくろ)を人の目の届かない場所に隠した。
滝行(たきぎょう)の者に見られるわけにはいかない。
夜にでも片付ければいいか、と考えた。
そして・・

 「ここ、神聖な滝行(たきぎょう)の場所なんだが・・。」
そう他人事(ひとごと)みたいに(つぶや)く宮司だった。




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