第115話 牛頭馬頭の正体

文字数 2,942文字

 阿修羅の邸宅から帝釈天は追い出され、自宅に戻った。
そして母である奪衣婆に散々甘えられ辟易した帝釈天であった。

 そんな有る日、帝釈天は阿修羅に呼び出される。

 「牛頭馬頭の件でも分かったか?」
 「ああ、次元移動の研究施設が分かった。」
 「よし、じゃあ教えろ、ちょっと行ってくる。」
 「バカ言うな。」
 「?」

 「お前、この前、牛頭馬頭と遊んだだろ?」
 「遊んだだと? 決闘なんだが・・。」
 「ふん、お前にしたらお遊びだ。」
 「毒を喰らった遊びか?」
 「ああそうだ、だから今度は俺が遊んでくる。」
 「なんでお前なんだ?」
 「お前のせいで、欲求不満だ。」
 
 帝釈天はその言葉に肩を竦めた。
そして仕方ないか、という顔をする。

 「まあ、いいだろう、じゃあ、任せた。」
 「ああ、では留守を頼む。」
 「へ?」
 「俺が遊ぶと、その間は仕事が止まるだろう?」
 「え? だから何で俺が留守番なんだ?」
 「何か文句があるか?」

 帝釈天は阿修羅に睨まれ目を反らす。
そして、再び阿修羅と目を合わせ・・

 「・・・わかった。留守番をしよう。」

 帝釈天は思った。
もし、これを拒んだら母に何を告げ口するか分からない。
ここは阿修羅の機嫌を取っておくべきだと。

 阿修羅は帝釈天の嫌そうな顔を見てニヤリとする。

 「うん、いい顔だ。
 じゃあ、行ってくる。」

 そういうと阿修羅は次元移動をし姿が消えた。
帝釈天は阿修羅の居た場所をしばし睨んだ。
そしてボソリと呟く。

 「今回の件、相談する相手を間違えたな・・。」

 そう言うと阿修羅の豪奢な執務机に座った。
帝釈天は情報部に所属していないが、補佐はできる立場だ。
今回はその自分の立場を忌々しく感じていた。

 なんで俺が情報部の仕事をせにゃならん・・。
母には怒られ、甘えられ、踏んだり蹴ったりではないか。
そう独り言を呟く。

 そして机に積み上げられた書類に目を留めた。

 おや?

 山のように積み上げられた書類の一つに目を留める。
きっちりと角を揃えられた書類の山に。
その山の中腹あたりにある一冊が、わずかに斜めになっている。

 阿修羅の几帳面な性格では、有り得ない置き方だ。

 おもわず帝釈天はその書類を引き抜いた。
表紙を見ると「極秘」とだけ書いてある。

 帝釈天はその書類を睨んだ。
極秘扱いなら、こんな机の上に置かない。
彼奴らしくないな・・そう思った。

 極秘とあるため、帝釈天は所定の管理場所に置こうと椅子から立ちかけた。

  ん?

 帝釈天は可笑しなことに気がつく。
普通、極秘資料は神力でロックし読めないようにしてある。
だが、この書類はロックされていなかったのだ。
あの几帳面な阿修羅が忘れるなど有り得ない。

 本来情報部の極秘資料は、帝釈天であっても見てはならないものだ。
だが、阿修羅の意図を感じ読むことに決めた。
浮かした腰を再び椅子に戻す。

 書類をぱらぱらと捲り目を通す。
そして・・

 「なんだ、これは!」

 帝釈天は思わずさけんだ。
そして、自分が叫んだことに気がつき慌ててあたりを見回す。
だが、今、この部屋にいるのは自分一人だけである。
それを確認してホッと息をつく。

 そしてさらに書類を読む。
一通り読み終わると、溜息をついた。

 「・・・そうか、そいうことか・・。
 よく調べたな彼奴・・。」

 その調査書は牛頭馬頭の出生について調査したものだった。
おそらく阿修羅は帝釈天に知らせるために(わざ)と置いたのであろう。

 その内容は信じられないものであった。
かの昔、神であるカーリーは戦の最中で恋におちた。
相手は妻子のある神である。
人間でいう不倫をしたのだ。

 神にも部族的な考え方がある。
ある神の系列では一夫一婦制であり、逆に一夫多妻制の系列の神もいる。
部族同士の結婚は問題ないが、部族間での結婚は契約が必要だ。
そうしないと、ある部族では複数の神と結ばれるのが重罪となる。

 カーリー神は一夫一婦制で、相手の神は一夫多妻制であった。
相手の神はその点を認識していなかった。
自分が一夫多妻制であるので、もう一人妻を迎えるだけだと考えていた。
カーリー神は、相手が自分を受け入れたので一夫多妻制だと思わなかったのだ。

 カーリー神は、戦の神だ。
気性は激しく、情熱的であり、直情的だ。
さらに戦場での恋であった。
そのため、なおさら欲情的になったのであろう。

 神の系列間で契約を結び、結ばれたならば問題は何もなかった。
だが、契約はせず結ばれてしまったのだ。
そして、カーリー神は、子を授かった。

 戦後、このことが知れ渡り直ぐに神の系列の審判が行われた。
契約もしなかったこともあり重罪となる。
子には罪は無いが、神の系列には受け入れられない。
つまり神の国にはいられないのだ。
だが、神の子は神界以外では力がありすぎ追放はできない。
つまり処分されるしかないのだ。

 カーリー神は必死に子の無罪を訴えた。
相手の神は制度の違いに辟易として、ダンマリを決め込んだ。
だが、規則は規則でどうしようもなかった。

 判決と処刑を担当したのが閻魔大王であった。
奪衣婆はカーリー神とは何故か気が合い、親交があった。
そして閻魔大王も、戦争犯罪などの裁判の関係でカーリー神とは旧知であった。
閻魔大王はカーリー神の実直さを気に入っていたのだ。

 閻魔大王と奪衣婆が、カーリー神に救いの手を差し伸べても不思議はない。
そのため子を地獄界に逃がして、処刑したと見せかけたのであろう。
そして、その子が自活できるように気を配ったのはカーリー神だ。
おそらく腹心の部下、または側近の子供を自分の子の相手に着けたのだろう。
自分の子を神界から追放してまで、カーリー神の子の腹心にするなど普通はしない。
よほどカーリー神と主従関係が強いのだろう。

 これらの内容は決して阿修羅と帝釈天が知ってはならない内容だ。
また、誰に知られてもならない。

 だから帝釈天に業務を任せる振りをして、阿修羅はこの書類を見させたのだろう。

 帝釈天が書類を閉じようとしたとき、付箋紙のような物が書類から落ちた。
それを拾い元に戻そうとして、何か書かれているのに気がつく。
書かれている内容を見て、帝釈天はギョッとした。
だが、すぐに納得した表情になる。

 帝釈天はその極秘書類を右手に持ち、胸の前あたりまで持ち上げた。
すると書類が突然燃え上がった。
一瞬で灰となり、その灰もやがて微粒子となり空中に消えた。

 帝釈天は、椅子に深く座り直し天井を仰ぐ。
そして深いため息を吐いた。

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注意)

 本小説には神様が多数出て来ます。
私は宗教関係に詳しくありません。
もしかしたら、本小説を読んで不愉快だと感じる方がおられるかもしれません。
この小説は空想の神々の世界での小説として書いております。
もし、不愉快に思う方がいたらばご容赦願えればと思います。
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