第98話 観光地にて  その2

文字数 2,367文字

 帝釈天(たいしゃくてん)は悠々と建物に近づいていく。
だが、先ほどのように銃弾が飛び交うことはなかった。

 建物の広い入り口の扉は開いており、帝釈天は無造作に中に入った。
建物の中は意外にも人の気配がなく静まりかえっている。

 「おや、ここでは歓迎をしてくれないのかな?
 先ほどの外での歓迎で終わりか?
 屋上から弾を降らせただけで歓迎が終わりということは無いよな。」

 そう(つぶや)き周りを見渡す。

 目の前は、広いエントランスだ。
天井は高く、外の光が天窓から降り(そそ)いでいる。
建物は古いが、内装は新しく豪華だった。
権力者が住んでいる事を証明するかのようだ。

 エントランスの左手にはエレベータがある。
エントランスの正面奥は広い階段だ。
まるで帝釈天が来るのを待ち構えているかのように見える。

 帝釈天は念のため索敵(さくてき)を行った。
索敵は、この建屋に潜む者を探る能力だ。
どこに何人居て、どのように隠れているかが分かる。

 先ほどの歓迎程度なら帝釈天にとっては警戒などする必要はない。
だが、念のために行ってみたのだ。

 索敵を終えた帝釈天は、肩を(すく)めた。

 「やれやれ、隠れるならもう少し考えろよ・・。」
そう言って溜息を吐く。

 帝釈天は(おもむろ)に階段を目指した。
階段を使い、各フロアーを巡りながら最上階に行くことにしたのだ。
各階でどのような歓迎をしてくれるのか期待してのことだ。

 階段に着くと、躊躇(ちゅうちょ)することなく階段を上り始める。
そして二階に行く途中の踊り場に来たときだ。
二階より何かが落とされた。
それは踊り場の少し上の階段に落ち、固い音を立て大きく跳ね上がる。
そして階段に沿って飛び跳ねながら落ちてきた。

 カン、カン、カン・・

 落ちてきたのは手榴弾だ。
それは帝釈天の足下に辿り着くと同時に爆発した。

 バン!!

 爆煙(ばくえん)と共に破片が飛び散った。
破片は満遍なく四方八方に飛散し、一部が階段の壁に突き刺さる。
そんな爆煙の中を帝釈天は悠々(ゆうゆう)と出て来て二階を目指した。
まるで何事もなかったかのよだ。
帝釈天は感心していた。
そして思わず呟く。

 「見事なタイミングで爆発させたものだ。」

 暢気(のんき)なものだ。
手榴弾の直撃を受けたというのに傷1つ()ってはいなかった。

 さらに付け加えるなら、帝釈天は神力を使っていない。
建物に入る前に神力を使うのを止めたのだ。
それには理由がある。

 建物に近づいて攻撃された当初、警戒をし神力をほんの少し出した。
それは様子を見るためだった。
それというのも閻魔大王からの指摘があったからだ。
その指示とは、身に危険を感じたら牛頭馬頭(ごずめず)を捕縛をせず消してもよいというものだ。
つまり暗に帝釈天とは互角以上の相手だと伝えたのだ。

 だが、建物に入る前の攻撃はたいした事はなかった。
子供がオモチャで攻撃しているようなものだ。
相手も様子見なのだろう。
そう思った。
ならば神力を使わずに付き合おうと考えたのだ。

 余談であるが手榴弾が間近で爆発したというのに、帝釈天の服には汚れも穴もない。
着ている服は防弾チョッキのような機能はなく普通の服だ。
とはいっても、神々の普段着ではある。

 もし人間が着て銃弾などを受けたなら、服に穴は開かないが骨は折れるだろう。
衝撃は吸収しないが破れず汚れないという代物(しろもの)だ。

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 帝釈天は四階へ行く階段を上り始めた。
今まで攻撃に使用された武器は、ドス、拳銃、ライフル、マシンガンなどの銃器、手榴弾。
そして近づくと関知して爆発するトラップ。
おかげで階段や廊下は使いものにならない箇所が多数作られた。

 さらに武器ばかりでなく、(たま)に体術による奇襲もあった。
神力に等しい能力があれば体術は凶器となる。
だが、そのような能力者はいなかった。
銃器が通用しないのだ。
なのに神力もなく何故体術で襲撃したのだろうか?
帝釈天は理解に苦しんだ。

 今のところ帝釈天にとって子供の水鉄砲を相手にしているようなものだ。
そのため、帝釈天は少し飽きてきていた。

 その最たる理由は前述した体術だ。
神力がなければ体術は意味をなさない。
ならばそれなりに遊ぶことはできる。
だが、相手の体術の技量がそもそもなっていないのだ。
そのため暇つぶしにもならなかったのだ。

 武術家の中には、空手を使う者がいた。
壁を打ち抜くくらいには鍛えていたようだ。
だが、その程度であった。
打ち抜くスピードが遅すぎるし、反射神経が鈍すぎる。
返し技もお粗末であった。
暇があれば少し鍛えてやりたいくらいだ。
帝釈天から溜息が出た。

 気を取り直し、階段を上る。
目指すのは最上階の5階だ。
5階に牛頭馬頭がいる。

 4階のフロアーでは、今まで以上の襲撃があった。
守るべき5階の直前であるからであろう。
当然といえば当然の事ではあるが、目新しい武器はないのか?
達人と呼べる武術者はいないのか?
そう思わず呟き、5階を目指した。

 そして、その5階に辿り着いた。
5階の階段を上りきった場所は、ちょっとした広場になっていた。
何も置かれておらず、ガランとしている。
立ち話をしたり、机を置いて一息着くためのスペースであろう。
そして、この広場の奥にドアが一つだけある。

 あのドアのある部屋が牛頭馬頭の部屋だろう。
帝釈天は近づこうとして目を少し見開いた。

 「ほう・・・、神力か・・。」

 そう呟いた。
ドアから神力が滲み出ていたのだ。
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