第161話 拉致された巫女 その2

文字数 2,162文字

 神薙(かんなぎ)巫女(みこ)は恐怖に震えながらも気丈(きじょう)に小泉神官に問いかけた。

  「小泉神官様、貴方様は一体なぜ此処(ここ)にいるのですか!・・。」

 その問いかけに、小泉神官は満面の笑みを浮かべる。
そして、もったいぶるかのように答えた。

 「(わし)がどうして拉致(らち)されたお前の(そば)にこうしているか知りたいのか?」
 「ええ・・、貴方様は拉致されて(しば)られて此処(ここ)に連れてて来られたようには見えませぬ・・。」

 「ふふふふふふ。
よかろう教えてやろう。
此処で儂の事を知ったからといって、もはやお前にはどうしようもあるまいからな。」
 「え?」

 「儂は()の国と手を結んだんだよ。
それというのも、あの国に協力する(たび)に、それなりの物がもらえるからね。
あの国は金払いがよいのだ。
それにだ、緋の国がこの国に攻め込んできても儂は今以上の暮らしが保証されておる。
どうじゃ、緋の国とはよい国であろう?」

 「何という(はじ)知らずな!」
 「あははははは、何とでも言うがいいさ。」
 「私を緋の国に渡すために、貴方様は此処(ここ)にいるのですね!」
 「それは違うな。」
 「え!」

 「儂はお前が緋の国に拉致されたことを知り、恐怖に泣き叫ぶ顔を見たかったのだよ。」
 「それはお生憎(あいにく)様、私は泣き叫んだりなどしません。」
 「どうやらそのようだな。」
 「それより、私を拉致し緋の国に渡した罪は最高司祭様が必ずや白日(はくじつ)(もと)にさらされます。」
 「はははははは、負け犬の遠吠えか、これはいい。」

 その言葉に神薙の巫女は、小泉神官の顔を睨み返した。
それを見て、小泉神官は歪んだ顔で笑う。

 「そうだ、その顔だ、その顔が気に喰わん。
儂に素直に()びへつらっていたら、こんな手荒な事をせんでも済んだものを。」

 「可哀想な方ですね、貴方様は。」
 「?」
 「貴方様は本当に緋の国がこの国に責めてきたとき約束を守るとでも。」
 「心配するな、約定書がある。」
 「このように私を攫う国が約定など守るものですか。
それにそのような約定が見つかれば緋の国は言い訳などできません。
そんな物を残しておくとでもお思いですか?」

 「まあ、なんとでも言うがいいさ。
儂はそんなに甘くはないわ。」

 「そうですか、もう貴方様は救いようがありませんね。
用は済んだのでしょ、だったらもう私の目の前から消えて下さいませ。」
 「いや、儂はまだお前に用事がある。」
 「私にまだどのような用事があると言うのですか!」
 
 神薙の巫女は小泉神官を(にら)み返す。

 「お前を(もてあそぶ)ぶ用事がな。」

 その言葉に神薙の巫女は目を見張る。
小泉神官は、ニヤリと笑い神薙の巫女に近づく。

(しば)られた両手両足を動かし、何とか小泉神官から距離を取ろうと神薙の巫女は足掻(あが)く。
だが、(ほとん)ど自分のいる場所から動けない。
 
 「無駄(むだ)だ、縛られておるのだ、逃げられるとでも思うのか。
それに外には()の国の黒装束(くろしょうぞく)の者達がおる。
仮に此処(ここ)を出られたとしても無駄だよ。
あきらめて儂のオモチャになるがいい!」
 
 そう言って小泉神官は神薙の巫女に(おおい)(かぶ)さった。
 
 「きゃあ!!!」
 「そうだ、(わめ)け、泣き叫べ!!
わははははは、そうだ、そうだ! 儂はこの時を、これを待っていたのだ!」
 
 小泉神官は神薙の巫女の寝間着を()がそうと馬乗りになる。
 
 「はははははは、良い(なが)めだ!」
 
 その時だった
 
 「何が良い眺めだと?」
 
 夜の(とばり)のような落ち着いた声が、小泉神官の耳に届いた。
小泉神官は声が聞こえた方に、ゆっくりと顔をむける。
そこには扉以外何もなく、扉は閉まっていた。
扉越しに、外にいる者がかけた声のようだ。

 小泉神官は、扉を睨み付けながら怒鳴る。

 「一時間は儂にくれるという約束だ! 邪魔をするな!」
 「ほう・・・、そんな約束をしたのか。」

 「(とぼ)けるな! 約束は守れ!
この時をどれほど儂が待っていた事か!
お前も楽しみたければ、儂の後で楽めばいい。
儂が終わるまで待っていろ!
誰にも儂の邪魔などさせん!」

 「()()だな、お前は。」
 「なんだと!!」

 小泉神官が叫ぶとほぼ同時であった。
扉がきしみながらユックリと開く。
そこから現れた者の顔を見て、小泉神官は驚愕の声を上げた。
 
 「お、お前は! 助左?!」

 「さすがに覚えておいでのようですな。」
 「そ、そんな馬鹿な!!」
 「馬鹿な、ですか、何が予想外なのかとんと分かりませんが?」

 そういって助左は微笑んだ。

 「な、なんでお前の様な奴が此処(ここ)にいる!!」
 「そんな簡単な事も分からんとは・・、あんた達を追いかけてきたからに決まっておるであろう?」
 「ば、馬鹿な!
市兵衛(いちべえ)!! 曲者(くせもの)だ!
曲者がおるぞ!」

 「市兵衛? そうか、頭領の名前は市兵衛か?」
 「な!!! い、市兵衛ぇ!! は、はやく来ぬか!、早く此奴(こやつ)を!」

 「呼んでも無駄だ、彼奴等(あやつら)は先に行って待っているだろうよ。」
 「なんだと! 儂を置いて彼奴らは逃げたのか!!」
 「逃げてはおらん。」
 「?!」

 「心配せんでもよい、お前は彼奴ら全員と直ぐに会えるであろうよ。あの世ででな。」
 「な、なんだと!! そんな馬鹿な!」
 「先ほどから何かにつけ馬鹿という言葉を使う奴よのう。
馬鹿という言葉が好きなのか?」
 
 小泉神官は現状の把握ができていないようだ。
だが、神薙の巫女に(かま)っている場合ではないと判断したようだ。
馬乗りになっていた神薙の巫女から離れ、立ち上がった。
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