第149話 小泉神官の来訪

文字数 2,120文字

 助左(すけざ)が教会に来てから2週間経った頃である。
神薙(かんなぎ)巫女(みこ)が礼拝堂で神への祈りを捧げていると、教会入り口が突然騒がしくなった。
何事かと思っていると呼びに来る者があった。

 「あの・・・。」
 「どうしましたか?」
 「それが、その・・。」
 「?」

 呼びに来た巫女は、どう説明をしたらよいか迷っているようだ。
その間に助左がやってきて、呼びに来た巫女の後ろからひょっこりと顔を覗かせた。
そして柔和な笑顔で、とんでもないことをさらりと言う。

 「()()()()()様、今日は厄日(やくび)かもしれませんね。」
 「え?」

 厄日?
私が?
御神託(ごしんたく)はとくになかったわよね?
だから民への災厄では無いはず・・・。
そうなると私個人へ助左からの御神託なのかしら?

 神薙の巫女はポカンとした。
助左はそんな様子の神薙の巫女に淡々と告げる。

 「小泉(こいずみ)神官が来ました。」
 「え?!」

 助左の言葉に神薙の巫女は固まった。
何も言わなくなった神薙の巫女に助左は再び声をかける。

 「どうしましたか? 小泉神官がこちらに尋ねて来ましたが?」
 「何故!!」

 神薙の巫女は思わず叫んでしまった。
それを聞いた助左は不思議そうな顔をして神薙の巫女の言葉を反復した。

 「何故?」
 「だって、あの方が此処に来られるわけがない!
私を貶め(おとしめ)追放した方ですよ!
それに、中央で養父様の地位をねらっている方ですよ?
そのような方が、こんな田舎にいる私に会いにくるなんてあり得ません!」

 助左はそれを聞いて、はぁ~・・・と、溜息をついた。

 「神薙の巫女様・・・。落ち着いて下さい。」
 「あ!・・。」

 助左の言葉に神薙の巫女は、はっとした。
自分が取り乱している事に気がついたからだ。

 神薙の巫女は、一度深呼吸をする。
そして冷静を取り戻すため取り乱した自分に自問自答をする。

 私は小泉神官が苦手だ。
貶められ敗北した事で臆病になっている。
そう・・小泉神官から逃げようとしている。

 だめ!・・、これではだめ・・・。
養父様が私を姫巫女(ひめみこ)に戻そうと動いてくださっているというのに、私が弱気でどうする!

 神薙の巫女は冷静を取り戻し、姿勢を正した。
助左はそんな神薙の巫女の様子をみて微笑んだ。

 ふむ、(せがれ)()れただけのことはあるな。
そう思った。

 呼びに来た巫女は、神薙の巫女の様子と助左の様子を見て途惑いながらも神薙の巫女に話しかける。

 「神薙の巫女様・・・。」

 問いかけられた神薙の巫女は、毅然(きぜん)とした態度で確認をした。

 「小泉神官は私に会いに来たのですね?」
 「え・・、はぃ・・・、ですが・・。」

 「貴方の言いたいことはわかります。
本来なら中央の神官が、一地方の教会に来るのは異例です。
しかも名指しで巫女に会いに来るなど。
巫女は教会に所属しているとはいえ中央神官の部下ではありません。
小泉神官の面会を拒絶できることは分かっております。」

 そういって神薙の巫女は微笑んだ。
そして言葉を付け足した。

 「ですが・・・・、会いに来られたのでしたらお会いしましょう。」
 「えっ!?」

 「私がお伴いたします。」
 「ええ、お願いしますね、助左。」

 ーーーー

 小泉神官は神父の部屋にいた。
応接用のソファーに尊大な態度で腰掛け、出された茶をのみ我が物顔で(くつろ)いでいた。
そんな小泉神官に、神父は問いかけた。

 「それで小泉神官様、このような田舎の一巫女(みこ)にいかような用事で?」
 「お前に話す必要などない。」

 「ですが、私はここの責任者です。
いくら中央の方でも地方の神父を(ないがし)ろにはできませんが?」
 「ふん、(わし)に逆らうのか?」
 「いいえ、貴方様の地位と権力は存じておりますよ。」

 小泉神官はジロリと神父を(にら)んだ。

 神父はそんな小泉神官を見て思う。

    凶相・・・。

 まさにそれ以外の言葉が当てはまらない。
だが、そんな小泉神官に神父は柳腰をつらぬく。

 「まあよい、神薙の巫女がどのような経緯でここに来ているかは知っているであろう?」
 「ええ、それは知っておりますが?」
 「儂は姫巫女(ひめみこ)、いや今は神薙の巫女か・・、その者の中央での悪事を暴いた。」
 「・・・。」

 「だが、神薙の巫女が優秀であることを儂は認めておるのだ。
だから、心を入れ替え真摯(しんし)に神と向き合っておるのか確かめにきたのだ。」

 「そうでしたか、でも中央神官である小泉様が自らこのような田舎にまで出向く必要はないかと?」
 「何を言う。 よいか仮にも姫巫女になった事がある者だ。
そのような者ならば儂が出向いても不思議はあるまい。」

 小泉神官が言っているは詭弁である。
中央の神官はどのような理由があるにせよ、このような田舎に来ることはない。
それに罪状のある監視対象の更正判断の権限は、中央の神官には無い。
何か別の目的があることは確かだ。
なんとか小泉神官を神薙の巫女に会わさずに、しかも自分が最高司祭派であることを感づかれずに追い返す方法はないかと神父は考えを巡らす。

 その時であった、ドアがノックされた。
まさか!
そう思うのと同時にドア越しに声がした。

 「神薙の巫女です。」

 その言葉に神父は内心で舌打ちをした。

    何故来た?!

 元姫巫女ともあろう者ならば、小泉神官の面会など無視できることは知っていたであろう!
そう心の中で神父は叫んだ。
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