第130話 結界に閉じ込められた龍・白眉  その3

文字数 2,706文字

 白眉(はくび)帝釈天(たいしゃくてん)に懇願する。

 「帝釈天様、もうすぐこの結界を維持している御堂は壊れます。」
 「うむ、それを知っていたか・・。」
 「はい。私は滅び去った眷属の()わりをしたいと思います。」
 「代わり?」
 「はい、先ほど話した子孫の祖先の代わりです。
眷属(けんぞく)の力を己のために使うことは許されてはならないのです。
ですから、私はそれを止めたいのです。」
 「うむ、分かった・・。」

 そう帝釈天は言って、腕を組み目を(つむ)った。

 帝釈天としては、いつかは白眉を天界に戻したいと考えていた。
だが、そう簡単にいかないことは自分が今の地位についてからいやというほど分かった。
今は白眉を天界に戻す方法がないのが現状だ。
だからといって白眉をこのまま放置する気はない。
それに、このままだと朽ち果ててしまう。
何とか朽ち果てさせず、白眉のしたいことをさせ、天界に戻す方法はないものか・・

 そう考えていたら、別の事が気になった。
この世界に母である奪衣婆(だつえば)が、祐紀(ゆうき)(いち)(姫巫女)を転生させたことだ。

 なぜ白眉のいるこの世界だったんだ?

 疑問がわいた。
だが、今はこの疑問を考えている時ではない。
帝釈天は再び、白眉との会話に集中した。

 「白眉よ、お前が止めたいという者はどこに居る?」
 「人が()の国と呼んでいるところです。」
 「なんだと!」
 「え? 緋の国が何か?」

 帝釈天の驚きに白眉は困惑した。

 「いや・・、何でも無い。」
 「?」
 「ところで、その子孫とやらは顔をみればわかるのか?」
 「ここに閉じ込められていたので顔まではわかりません。」
 「ふむ、そうか、ではどうやって探し出す?」
 「自分の臭いで探します。」
 「?」

 「私の髭を秘薬にして飲んでいるのですよ。」
 「なるほどな、自分の臭いを探すか・・。」
 「はい。」

 「聞いた限りだと、その子孫は野望を抱いた人間だ。
平民として大人しく暮らしているとは思えん。
国の権力者となっているか、権力者の近辺にいるだろう。」
 「え?」

 「お前のことだ、国の隅から隅まで探すつもりだろう?
時間を無駄にするな。
お前は長い間閉じ込められていた。
その間に人の社会は大分変わっている。
緋の国に行ったら皇帝がいる城を中心に探せ。」

 「帝釈天様、そのような事を私に教えてもよいのですか?」
 「俺は独り言(ひとりごと)をいっているだけだ。
たまたまそれをお前が勝手に聞いただけだ。
そもそも、俺はお前と会ってなどいない。」

 そういって帝釈天はニヤリと笑った。

 「じゃあ、俺はそろそろ帰るか・・。」
 「はい、帝釈天様、ありがとう御座いました。」
 「あ、そうだ・・」
 「何か?」

 「結界がなくなり外に飛び出した時、どうする?」
 「そうですね、とりあえず神聖なる高山に行き養生します。」
 「ふむ・・、とはいえ其方は神界を追われた身であろう?」
 「ええ。聖地で養生してもさほど寿命はかわらないでしょう。」
 「そうか・・」
 「でも、それでも緋の国で子孫を探し出して処理するには充分かと。」
 「覚悟はできているということか・・。」

 その言葉に白眉は笑顔で応えた。

 「お前に聞いて欲しいことがある。」
 「なんで御座いましょう?」
 「この御堂から出たなら、龍の姿で緋の国と逆方向に向かえ。
国境付近の連山で人がいない場所へな。」
 「え?」

 「そして山で派手に暴れるんだ。山の一つ二つ壊す程度でよい。」
 「え?! 暴れる? 何故?」
 「さすれば正気でないと思うだろう?
そんな意味のない場所で暴れるんだ。」
 「・・・。」

 「そして、その場所で眠りについたように見せろ。」
 「?・・・。」
 「うん? 分からぬか?」
 「はい・・・。」

 「この御堂が破損、または壊されれれば、子孫はお前が結界を抜けたことを知る。」
 「はい・・。」
 「お前は、子孫ごと緋の国を滅ぼす気はないであろう?」
 「ええ、もちろんです。」
 「ならば、緋の国で人の姿となり子孫を探すという事になる。」
 「はい。」

 「よいか、御堂が壊されお前が龍の姿で緋の国に現れないとする。
そしたらその子孫はどう考える?」
 「?」
 「子孫は龍の髭を取り返しに来るか、自分が殺されると思い警戒するぞ?」

 「なるほど・・、私が正気を失い考えることができないと見せるのは、髭を取り戻そうなどと考える理性が無いと見せるためですか。
そして眠りについたと見せることで、さらに安心させろと・・。」

 「そうだ。
だが、子孫が安心したからといって、自分の周りにお前の罠を仕掛けない保証はない。
注意は必要だ。
その点は儂と遊んだ仲だ、罠など大丈夫だろう?」

 「そうですね、昔、帝釈天様には大分えげつない罠を仕掛けられましたからね。」
 「えげつないとは失礼な!」

 そういって二人は顔を見合わせ笑った。

 「ついでにアドバイスをしておいてやろう。
お前が眠りについたと見せるためには、人の目撃が必要だ。
山ならマタギが見つけるのが最初であろう。
マタギならお前のトグロを巻いているのを見たら眠りに入ったとだませる。
あいつらは神を敬い、近づかないから遠くで見るだけだ。
簡単にだませるだろう。
だから、山でマタギを見つけてからその近くの山を破壊し眠ったふりをするんだ。
そうすれば、マタギが直ぐに噂を広げるだろう。
短時間でその子孫とやらに噂が届き、眠りについたと安心をするだろう。
もしかしたら、自分達の持っている髭の供給がまたできるとほくそ笑むかもしれん。
なにせお前達龍は寝ると、数十年は起きんと言われているからな。」

それを聞いて白眉は帝釈天に頭を下げ御礼を言う。

 「帝釈天様、アドバイスありがとうございます。」
 「何のことだ、俺の独り言だ。
独り言(ひとりごと)に御礼を言うバカなどおらんぞ。」

 そういうと帝釈天は白眉に向け片手を(かざ)した。
そこから白眉に向かって眩い光がほとばしる。
だが、光りは直ぐに止んだ。

 「帝釈天様・・・。」
 「俺からの選別だ。
受け取っておけ。
山を数個破壊してもおつりがくる程度の神力にはなるだろう。」

 そう言うや否や帝釈天はその場から消え去った。
残された白眉は帝釈天がいた場所に(こうべ)()れた。
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