第146話 来訪者・神薙の巫女 3
文字数 2,297文字
「私が最高司祭様から貴方様の護衛を頼まれた理由なのですが・・。」
「あ、はい・・。」
「まあ、正直言いまして教会に
「は? でも、
そこでジッと聞いていた神父が、プッと吹き出した。
「え? 神父様?」
「あ、失礼・・。そうか・・
「何が、ですか?」
「諸国に名を
「?」
「
この言葉に助左は思わず口を
「神父様! その呼び名は
「おや、何故ですか?」
「恥ずかしすぎる!」
「まあ、よいではないですか。
私のような田舎者でも知っている程に有名な名なのですから。」
二人の会話についていけない神薙の巫女はポカンとする。
それに気がついた神父は肩をすくめ、助左を見た。
助左はというと、仕方ないか、と、神父を見返す。
神父はそれを了承ととられ、話し始めた。
「神宮流というのは、陰の国の
戦国時代に侵略者から神社を守るために発達した武芸なのです。
ただ、宮司は刀を
とはいえ相手から刀を奪い、それを使う事もあるとか。」
そう言って神父は助左を見る。
だが助左は肯定も否定もしなかった。
それは当然であろう。
流派の
もし、敵がそれを知ると不利になる事があるからだ。
武芸者は流派は名乗っても、技など口にしない。
神父は助左が何も言わない理由を理解しているのか話しを続ける。
「戦国時代が終わると、この流派は
今ではある神社一社のみが継承しているようです。
そして、そこの跡継ぎが化け物のような強さと言われていました。」
「ば、化け物?! ちょとそれは酷い言いようでは!」
「そうですか? でもそれは私の感想ではなく世間で言われている事ですよ?」
「う・・ぐ!・・・。」
助左はなんともいえぬ顔をした。
「話しを続けますね。
で、その者は
理由は陰の国の中では強すぎて相手がいなくなったからだとか。
武者修行に出たという事ですね。」
「あの、それ・・宮・いや、助左の事ですか?」
神薙の巫女はそう神父に確認をしながら助左を見た。
神父はそれに無言で
「そうですよ。目の前の助左です。」
「・・・そう・・ですか。」
神薙の巫女は信じられないという顔をする。
神父はそんな神薙の巫女の様子を見て、まあそういう反応になるだろうなと思った。
一度肩をすくめ神父は話しを再開した。
「話しを続けますね。」
「え? あ、はい・・。」
「助左は諸国を荒らし回ったそうです。」
「神父様、人聞きが悪い。荒らし回るなど・・。」
「そうですか? 名だたる道場を全て周り打ちのめしておいて?」
「あ、いや、打ちのめしたのではなく・・。」
「試合で相手が
「いや、それは・・何か秘技を隠しているかと・・。」
「打ちのめしたのでしょ?」
「・・えっと・・、まあ、確かに。」
神薙の巫女はあっけにとられ口を開く。
え? こんな柔和に思える宮司様が?
叩きのめして道場巡り?
この温厚で柔和な祐紀様の養父様が?
神薙の巫女は、信じられなかった。
そんな神薙の巫女の心中などわかる筈のない神父は話しを続ける。
「聞くところによると、破れた道場の門弟が闇討ちをしたとか。」
「ああ、まあ、確かにそんな事もあったかも、な・・。」
「それも一回や二回じゃないでしょ?」
「え~・・と、数えたことないからな~・・。」
「なるほどね・・。」
「神父、何、その納得顔は?」
神父は助左のその言葉を無視して話しを続ける。
「複数の道場が手を組んで、昼夜問わずに狙われたが全て返り討ちとか。」
「いや、だって、かかってくる火の粉は普通払うでしょ?」
「いやいやいや、普通はそんな火の粉がかかったら殺されてるでしょ?」
「いやいやいや、殺されちゃ、困るでしょ?」
「いやいやいや、そもそも闇討ちを推奨したでしょ、助左は?」
「え?・・、ああぁ、まあ、その・・・。」
「闇討ちをどんどんしろ、と、自分から言って回ったとか。」
「・・・。」
「否定はしないんですね?」
「否定して信じてくれる?」
「信じるとでも?」
「・・・。」
押し黙った助左を無視して神父はさらに話しを続ける。
「やがて闇討ちさえも無駄と思い知った各道場は諦めたとか。」
「いや、一時休憩しただけだ。」
「コテンパタンに闇討ちでも打ちのめされたのに?」
「まあ、武芸者なんてそんなものであろう?」
「聞くところによると自信をなくして道場を畳んだところもあるとか。」
「え?そうなの?」
「知らなかったのですか?」
「どうりで少しずつ闇討ちが減ってきたなと感じたことはあったけど。」
「はぁ~、まあ、いいでしょ。で?」
「え?」
「闇討ちは?」
「え?」
「だから、休憩中だと言い張る闇討ちはどうなりましたか?」
そう聞かれた助左は目を反らせた。
どうやら神父の言うとおり、闇討ちで道場も懲りたようだ。
神父はしたり顔であった。
神父はやがて真面目な顔をして助左に向き直る。
「お聞きしたいのですが?」
「なんでしょう?」
「試合はどれも、ものの数分もかからなかったとか。」
「どうだったかなぁ、昔の事で忘れたかも。」
「普通は忘れないでしょ?」
助左は再び目を反らせる。