第116話 次元転送研究所への襲撃

文字数 2,472文字

  地獄界の

に阿修羅は居た。
地獄界の都市部は真夏日だというのに、残雪が見える。

 そんな山奥の林の一角で、爆音、銃声が轟き、悲鳴が聞こえていた。

 「ば、化け物だ!」
 「ありったけバズーカでも、迫撃砲でもいい、やれ!」
 「戦闘員を総動員しろ!」
 「弾薬だ! 弾薬が足りん!」
 「おい! こっちに手榴弾でもなんでもいい補充しろ!」
 「だ、だめです! まるで効かん!」
 「ば、ばかな! こんなバカな事があるか!」

 派手な爆発音や、銃声が絶え間なく続いた。
だが、やがて少しずつ音が減り続け、ピタリと止んだ。
どうやら弾などが底をついたようだ。

 「ふむ、外での歓迎はこんなものか?
 神力を使用出来る者はおらんようだな。
 期待はずれもいいところだが・・。
 神力は牛頭馬頭の二人だけということのようだな。」

 そう阿修羅は呟き、興ざめをした顔になる。
そして今まで使用された武器を眺めて溜息をつく。

 「地獄界は近年武装化が進んだと聞いていたが調査ミスか?」

 そう呟いたときだ、阿修羅の目の前の空間が歪んだ。

 「これは・・次空間爆弾か!」

 次空間爆弾、それは次空に切れ目を入れる爆弾だ。
その切れ目にいた物は引き裂かれる。
しかも、切り裂く領域を指定できる優れ物である。
汚染などないクリーンな武器だ。
次元を切り裂いた後、切れ目は即座に無くなり安定した空間に戻る。

 使う側にとってはこの上もなく優れた武器である。
使われた者にとっては悪魔の兵器と言ってよいものだ。

 次空間爆弾に襲われた物体は、一瞬で消えてなくなる。
いかなる物質も次元の狭間に追いやられ不安定となり消失するのだ。

 次空間爆弾で襲われた状況を説明するとしたならば・・。
写真にハサミを入れ三つのピースにし、真ん中の部分を除いて貼り合わせた写真を思えばよい。
例えば富士山と樹海、その周辺の町をパノラマ写真で撮ったとしよう。
富士山の真上で次空間爆弾を破裂させた場合は以下のようになる。

 富士山は半分からスパリと消滅する。
富士山の半分が突然90度の断崖となり断崖の直下に町がある風景に変わるだろう。
あたかも富士山の半分と樹海が最初からなかったかのように。
そのように怖ろしい爆弾である。

 その次空間爆弾が爆発したのだ。
それも阿修羅のいる位置で。

 次空間爆弾が炸裂した瞬間、歓声がわいた。

 「やったぞ、化け物もこれで終わりだ!」
 「よし! よくやった! 次空間爆弾の奴等は!」
 「手こずらせやがって! あの化けもん。」
 「一時はどうなるかと思ったぜ。」
 「ああ、俺ら命拾いしたよな。」
 「しかし怖ろしいよな次空間爆弾はよ。」
 「まあ、化け物といえども消え去って清々(せいせい)したぜ。」

 そう歓喜に盛り上がっていたときだ・・

 「ほう、化け物とは俺の事か?」

 この言葉に騒ぎが一瞬で収まる。
そして騒いでいた全員が、声が聞こえてきた空を見上げた。
そこに阿修羅がいた。
空間に浮いて腕を組み、歓喜に沸いていた者達を見下ろしていたのだ。

 「ば・・、バカな・・。」
 「確かに次空間爆弾は爆発したのではないのか!」
 「な、何で効かない!」

 「も・・もしや・・神?」
 「な! か、神だと!」
 「神が地獄に来るものか!」

 「神だろうが、次空間爆弾で消滅しないはずはない!」
 「いや・・、だが・・実際目の前に・・。」
 「次空間爆弾が不良品だったんだろ! くそっ!」
 「いや、そんな筈はない!」
 「だが、実際奴は生きて居るではないか!」
 
 「おい! てめ~は、誰なんだ!」

 阿修羅は見下ろしているだけで、何も答えない。
(しばら)く好き勝ってに言わせていた。
そして、まるで今まで騒いでいたのを聞いていなかのように呟く。

 「次空間爆弾を持ち出してくるとはな。
 そのような報告は受けていなかったな。
 後日、入手経路を潰す必要があるか・・。」

 阿修羅は次空間爆弾を受けたことを気にしていなかった。
ただ予想外というだけであった。
そして、次空間爆弾を使用された後、続いて攻撃がないことにガッカリしていた。

 阿修羅はとりあえず聞いてみる。

 「おい、攻撃はもう、お(しま)いか?」

 誰もそれに答える者はいなかった。
ただただ、パニックになって騒いでいるだけであった。

 「ふむ、ならばもういいか・・。」

 そういうと阿修羅は右手の(ひら)を下にして腕を前に伸ばした。
すると手の挙に光球が現れた。
テニスボールくらいの大きさだろうか・・。
光球は現れた時、昼間でなんとか認識できる明るさであった。
その光りが一瞬で強くなる。
眩しくて、敵対している者は目を背けた。

 阿修羅は見下ろしている者達に、淡々と告げる。

 「じゃあな、綺麗に消えてくれ。」

 そう言うと、光球が阿修羅の手の挙からゆっくりと離れた。
やがて急激に速度を増して、森の中に佇んだ建物に突進していく。
だが、建物にぶつかると思った瞬間、建物に吸い込まれていった。
やがて建物が(まぶ)しく光り出す。
その光りは建物から溢れた。
やがて半円形のドーム状に建物を覆い尽くし、さらに膨張する。
そして、建物の周りに居た者達全てを光が包んだ時だった。
さらに一際眩しく輝き、急速に縮み始める。
やがて光はテニスボールの大きさまでに縮み、消えた。
物音は一切しなかった。

 建物があった場所は、地下数百メートルまで半円に抉られていた。
まるで巨大なクレータが出没したかのようだ。
先ほど抵抗していた者達も全て居なくなっていた。

 「よし、何も残っていないな。
 じゃあ、帰るか。
 それにしても、準備運動にもならなかったな・・。
 物足りん。
 しかたない、帰って帝釈天で遊ぶか・・。」

 不満顔をした阿修羅は、そう言って姿を消した。
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