第121話 組織壊滅

文字数 2,939文字

 阿修羅(あしゅら)は地獄界に帝釈天(たいしゃくてん)と降り立った。

 帝釈天が牛頭馬頭(ごずめず)(ねぐら)である建物に向かおうとしたとき、阿修羅は止めた。

 「ん、どうした阿修羅。」
 「牛頭馬頭が塒にいるか確かめる。」
 「?」

 帝釈天が理由を聞く前に、阿修羅は精神干渉を行い地獄で暗躍する部下に連絡を取る。
精神干渉とは、テレパシーに似た能力だ。
神力の一つである。

 「うむ、今は塒でもある組織のアジトにはいないようだ。」
 「じゃあ、待つか?」
 「バカか、お前は・・。」
 「へ?」

 「お前、牛頭馬頭を倒してから組織を潰す気だろう?」
 「ああ、そうだが?」
 「先に組織を潰すぞ。」
 「え? 牛頭馬頭が居るときにやればいいではないか?」

 「牛頭馬頭が大人しく組織が潰されるのを見ているとでも?」
 「まあ、見てはいないだろうな。」
 「おまえ組織と牛頭馬頭と同時に戦えるとでも?」
 「ああ、問題ないだろう?」
 
 「いいか、相手は次空間爆弾を用意している連中だぞ。」
 「何か問題か?」
 「はぁ・・、お前、牛頭馬頭の神力がどれほどか把握しているのか?」
 「いや、まあ、やってみれば分かるだろう。」

 「だからバカだというんだ。
彼奴らの神力がお前と互角でだ、それ以外に武器が使われたらどうする。
たとえば、ブラックホール弾(※1)とかをだ。」
 「え?! まさか!」

 「いいか、前に来たときと同じに考えるな。
彼奴(あいつ)らの研究所に次空間爆弾があったんだぞ。」
 「うむ・・。」
 「だから、まず組織を潰す。
そしてから牛頭馬頭と戦う。
いいな。」
 「あ、ああ・・わかった。」

 帝釈天は納得しきれない顔をしながら、阿修羅の提案を呑んだ。

 「では、行くぞ。」
 「え? お前も戦うのか?」
 「当たり前だろう? 欲求不満が解消されていないんだ。」
 「・・わかった。」
 「それと、お前は手を出すな。」
 「はぁ?!」
 「俺の欲求不満解消なのだ、手を出すな。」
 「おい、何だそれは?」
 「じゃあ、この後、俺と遊ぶか?」
 「え?!・・・、あ、いや、分かった、お前がやれ。」
 「分かればいい。」

 帝釈天と、阿修羅は牛頭馬頭の(ねぐら)である建物に近づいた。
建物まであと50mといった距離に近づいたときだ。
二人の空間が歪む。

 「次空間爆弾か・・。
まだあったのか。
調査では、此奴(こいつ)らが仕入れたのは1個だけのはずだ。
研究所で使われた以外に、もう一つ有ったとはな。
巧妙に証拠を改竄(かいざん)していたか・・。
用意周到な事だ。」

 そう阿修羅は呟く。
そして自分を一瞬、別の次元に転送した。
その次元は地獄界と隣接した別空間だ。
二次元空間で厚みがない世界であり、その世界から地獄界を見ることができる。

 もし例えるならば・・
部屋にある金魚鉢を想像すればよい。
金魚鉢は三次元であるが、二次元だと考えよう。
金魚鉢の中からは、外の風景がよく見える。
だが、その部屋にいる人からは金魚鉢は見ることはできない。
触ることもできない。
逆にいうと金魚鉢は部屋の物理現象を一切受けないのだ。
そういう空間である。

 阿修羅の目の前で一瞬空間が切り裂かれた。
真っ黒な世界が口を開いたのだ。
それと同時に阿修羅がいた地獄界の一部が飲み込まれていった。
まるで真っ暗な空間がユックリと飲み込むかのように。
飲み込まれた土や石などが、素粒子に分解され消えていった。

 そして、やがてその真っ黒な世界が閉じていく。
閉じた後の地獄界は、変化がないかのように見えた。
だが、先ほど飲み込まれた地面は存在していない。
飲み込まれた土や石は、あたかも最初から無かったかのようだ。

 阿修羅は別の次元から、元の空間に戻った。
帝釈天も阿修羅と同じに別次元に逃れていたようだ。
阿修羅とほぼ同時に姿を現す。

 阿修羅は、帝釈天に声をかけた。

 「無事か?」
 「まあな。初っぱなから次空間爆弾かよ。
前回の歓迎と大分違うな。」

 阿修羅は帝釈天の話を聞かずに、どんどんと建屋に近づく。
そのとき、後ろにいた帝釈天が突然阿修羅の前に飛び出した。

 「帝釈天?!」

 そう阿修羅が疑問の声を上げた時だ。

 シュン!

 空気を切り裂く音がした。
帝釈天はいつの間にか手にしていた(ほこ)を、手前に向け払った。

 キン!

 金属音とともに、帝釈天のやや後ろの両脇に真っ黒な空間が現れる。
ゴルフボール大の真っ黒な球体のような空間だ。

 上空から見降ろして帝釈天を見たとしよう。
地面に帝釈天を三角形の頂点とし、二等辺三角形を描く。
辺の長さが30m位の三角形だ。
帝釈天の後ろの2つの頂点に、その空間が突如として現れたのだ。
阿修羅は三角形の内側で、帝釈天の直ぐ真後ろにいた。

 その真っ黒な空間は、猛烈な勢いで周りの物を吸い込む。
想像を絶する強風が発生した。
だが、ほんの一瞬で消えた。
それと同時に、真っ黒な二つの空間も無くなっていた。
強風は時間にするとおそらくコンマ1秒にも満たない間だっただろう。

 阿修羅がポツリと呟く。

 「ブラックホール弾か・・、危なかったな。」
 「ああ、お前にしては珍しく油断したな。」
 「・・・。」
 「で?」
 「?」
 「助かったんだ、御礼ぐらい言えよ。」
 「くっ!・・・」
 「あん? なに、助けてもらって御礼も言えないのか?
子供じゃあるまいし。
いやはや、(しつけ)がなっていないな~。
それにさ、情報局の部門長だろう、お前は?
人の上に立つ、いい大人じゃん。」

 「・・感謝する。」
 「ん? 声が小さくて聞こえんな~・・。」
 「分かった! 感謝だ! 感謝する。」
 「あれ? 気持ちがこもっていないよな?」

 阿修羅は顔を真っ赤にする。
だが、帝釈天の言うことはもっともだ。
一度、深く深呼吸をした。
そして深々と頭を下げた。

 「助かった、感謝する。」

 阿修羅の真面目な謝罪に今度は帝釈天がたじろぐ。
茶化したつもりが、真摯(しんし)に対応されたのだ。
帝釈天は阿修羅から顔をそむけ、後頭部に右手を当てる。
帝釈天の癖だ。
困ったときに、無意識に行う癖である。

 それを阿修羅は見て、すこし微笑んだ。

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補足
 ※1 ブラックホール弾
 ブラックホールを擬似的に発生させる弾。
 銃で発射、または指などで弾いた弾が目標に当たった瞬間にブラックホールが発生する。
するとその周辺のものは飲み込まれ消滅する。
人体などに当たると、体の内部でブラックホールが発生し助かることはない。
次空間爆弾は空間が歪んで亀裂発生まで多少時間がかかるのに対し、当たれば瞬時にブラックホールを発生させる点がやっかいな武器である。
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