第26話 寺社奉行・御神託について語る

文字数 1,349文字

 祐紀(ゆうき)寺社奉行(じしゃぶぎょう)があまりに親戚のように接するのに困惑した。
 
 しかし、その反面、祐紀は寺社奉行・佐伯と養父との間柄が親密なことを理解した。

 さて、自分が()の国に出国したいと正直に話してもよいものだろうか、と、少し悩んだ。
そこで、遠回しではあるが御神託について佐伯に質問することにする。

 「あの、お奉行様・・。」
 「おい、おい、堅苦しいな、お前は。」
 「はぁ・・。」
 「伯父(おじ)と呼べと言っても無理かのう・・。」
 「さすがに、それは・・。」
 「そうかのう・・、では佐伯でよい。」
 「はぁ、では佐伯様。」
 「うぬぬぬ・・、まあ、よいか。」

 「では、佐伯様は御神託をどう思いますか?」
 「御神託?」
 「ええ・・。」

 佐伯は腕を組んで、祐紀の目をジッとみた。

 「そうよのう・・」

 そう言って、暫し考え込む。

 「寺社奉行としては、信じてはいけないと思っておる。」
 「それは何故ですか?」
 「では聞くが、御神託を受けていると、どう証明する?」
 「・・・」
 「できないであろう?」
 「はい。 でも・」
 「そうじゃ、もし、本当の御神託を信じなかったら大変なことになる。」
 「それでは・」
 「もし、偽巫女が御神託だと言って(まつりごと)や、商家に対し要求したらどうする?」
 「そ、それは・・。」
 「だから、寺社奉行は信じないのが普通なのだ。」
 「・・・。」
 「のう祐紀、其方は実績があるので、其方の御神託を疑う者はすくなかろう。」
 「はい、たぶん。」
 「しかし、其方の人となり、実際に御神託の結果を見ないものはどうじゃろうな?」
 「・・・」
 「そのような者達に御神託だと言ったとして、信じると思うか?」
 「いえ、信じないかと・・。」
 「そういうことだ。」
 「なるほど・・。」

 佐伯のこの言葉に、佐伯は御神託について理解はしているようだ。
しかし、それを他の者に進言できるか、というとそれは出来ないだろう。
へたに進言すると自分の身が危うくなるばかりで無く、親族をも巻き込む重大事になる可能性がある。

 そうなると、佐伯には御神託の内容を話しても意味はない。
直接、殿様と重臣を一度に説得する手段が必要だ。
佐伯には、殿様と重臣を一度に集めて貰う場の設定だけお願いする必要がある。
そして祐紀が説得をするしかないであろう・・。

 では、どうやって佐伯を説得して、殿様とその重臣を集めた席を設けていただくかだが・・。
祐紀は、そのことに気をとられてしまっていた。

 「これ、祐紀、どうした?」
 「あ、いや、ちょっと考えごとを。」
 「疲れておるか? 道中は大変だったのか?」

 佐伯は心配そうに祐紀を見た。
佐伯に聞かれたことで、はっとなる。

 「そういえば佐伯様、道中で面白いものを見ましたよ?」
 「ほう? なんじゃそれは?」
 「それはマタギの振りをした者が、来る途中の峠に居りました。」
 「?」


 祐紀は道中で会ったマタギや庄屋のことを佐伯に話すことにした。
()の国と関連がありそうで、この陰の国にとって何かしかけてきそうだと思ったからだ。
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