第73話 陽の国:渦巻く陰謀 3 国主からの呼出し
文字数 2,053文字
ある日の事だった。
姫御子 に国主(※1)から呼出し状が届いた。
陰 の国からの書状が国主 に届いたようだ。
その件で話しがしたいので登城 するようにという内容だった。
姫御子は困惑をした。
祐紀 殿の事だと察しはつく。
すぐにでも
今、最高司祭である養父は側にいないのだ。
できれば養父と充分に相談をした上で、出仕したかったのだが・・。
養父は今、都 から遠く離れた地方教会にいる。
この教会から請われ行事に参加しているのだ。
ただ、これは建前だ。
実際は、情報局の長 を姫御子に引継がせるための根回しをしているのだ。
養父がどんなに急いで戻ったとしても、出仕する日までに間に合わない。
そもそも早飛脚を使っても、父に文が届く前に出仕日となってしまう。
国主からの呼出し状に、別の日になどと言えるわけがない。
自分の判断で対応するしかないと覚悟を決めた。
ただ、姫御子はこの呼出しに違和感を感じる。
他国からの要請の書状が届いたのだ。
急ぐのもわからないわけではない
だが、国主なら最高司祭が都にいない事は知っているはずである。
私を呼出すならば、最高司祭である養父も参席させるべきだ。
最高司祭の帰りが待てないほど火急とは思えない。
まるで養父が居ない日を狙って呼出したかのように思える。
しかし、そのような事をして呼出す理由が分らない。
だが第六感が警鐘を鳴らす。
用心をするしかないかと溜息を吐いた。
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招集の日、姫御子は輿 に乗り城へ向った。
輿を降り、案内の者に先導され城内に入る。
そして長い廊下を暫く歩いた。
何時もと違う場所に案内されているようだ。
「はて?・・、何時もと違う場所のようですが?」
姫御子が案内の者に問いただす。
「私は指示された場所に案内をしておるだけで御座りまする。」
そう案内の者は答え、黙々と歩みを続ける。
姫御子は、何時もと違う様子に警戒心を強めた。
そしてある部屋の前で案内の者が立ち止る。
「この部屋でお待ち下さい。」
「分りました。」
案内の者が、襖 をあけ姫御子に部屋へ入るように促 した。
姫御子は部屋に入る前に一度部屋の中を見回す。
この部屋は・・・。
控えの間ではあろうが、調度品は何も無く自分を待たせるにしてはおかしい。
仮にも姫御子を待たせる部屋ではない。
「この部屋で間違いはないのですか?」
「はい。」
「本当に?・・・。」
「はい。」
「・・・・。」
姫御子は少し躊躇 う。
しかし案内の者とここで揉めてもしかたが無い。
怪訝な顔をしながら部屋に入る。
案内の者は襖を閉めると、その場から立去った。
待つこと30分程であろうか、正面の襖から声が掛る。
「姫御子様、お待たせしました、入りまする。」
「どうぞ・・。」
襖が開いて入って来たのは吟味役 であった。
「こ、これは吟味役殿・・」
姫御子は呆気にとられる。
何故に吟味役が?
吟味役が顔を見せるなど有り得ない。
一体どうしたというのだろう?
姫御子の頭は真っ白になった。
吟味役とは、犯罪捜査を行う今でいう警察である。
吟味役は庶民ではなく武家や神官などを対象としている。
そういう意味では姫御子に接するのは間違ってはいない。
いないのだが・・。
吟味役と関わるとなると、犯罪者の取調べ、裁定などである。
それ以外となると、被害の訴え、または不正などに対する訴えであろう。
どちらも姫御子には縁の無い話しだ。
それに今回は、
吟味役が出てくることなど有り得ない。
そんな困惑している姫御子の様子を、吟味役の後ろから伺 っている者がいた。
やがてその者は、吟味役の後ろから出て姿を現す。
「巫女姫様、お久しぶりで御座います。」
「?!」
顔を出したのは小泉神官 であった。
「何故、貴方様がここに?」
「それは吟味役様がお話されますよ?」
そういうと小泉神官は口の端を上げた。
姫御子の背中に冷たい汗が流れる。
何かを小泉神官がしかけてきたのは明白である。
それも、よりにもよって吟味役を伴って・・・。
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参考)
※1 : 国主 (こくしゅ)
国主とは、この国を治める最高権力者のこと。
本来の国主の意味と異なった使い方かもしれません。
本小説では国毎に最高権力者の名称を分けるため、このような使い方をしています。
その件で話しがしたいので
姫御子は困惑をした。
陰の国
からの書状の件は、すぐにでも
陰の国
に返事はしたいのだが時期が悪い。今、最高司祭である養父は側にいないのだ。
できれば養父と充分に相談をした上で、出仕したかったのだが・・。
養父は今、
この教会から請われ行事に参加しているのだ。
ただ、これは建前だ。
実際は、情報局の
養父がどんなに急いで戻ったとしても、出仕する日までに間に合わない。
そもそも早飛脚を使っても、父に文が届く前に出仕日となってしまう。
国主からの呼出し状に、別の日になどと言えるわけがない。
自分の判断で対応するしかないと覚悟を決めた。
ただ、姫御子はこの呼出しに違和感を感じる。
他国からの要請の書状が届いたのだ。
急ぐのもわからないわけではない
だが、国主なら最高司祭が都にいない事は知っているはずである。
私を呼出すならば、最高司祭である養父も参席させるべきだ。
最高司祭の帰りが待てないほど火急とは思えない。
まるで養父が居ない日を狙って呼出したかのように思える。
しかし、そのような事をして呼出す理由が分らない。
だが第六感が警鐘を鳴らす。
用心をするしかないかと溜息を吐いた。
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招集の日、姫御子は
輿を降り、案内の者に先導され城内に入る。
そして長い廊下を暫く歩いた。
何時もと違う場所に案内されているようだ。
「はて?・・、何時もと違う場所のようですが?」
姫御子が案内の者に問いただす。
「私は指示された場所に案内をしておるだけで御座りまする。」
そう案内の者は答え、黙々と歩みを続ける。
姫御子は、何時もと違う様子に警戒心を強めた。
そしてある部屋の前で案内の者が立ち止る。
「この部屋でお待ち下さい。」
「分りました。」
案内の者が、
姫御子は部屋に入る前に一度部屋の中を見回す。
この部屋は・・・。
控えの間ではあろうが、調度品は何も無く自分を待たせるにしてはおかしい。
仮にも姫御子を待たせる部屋ではない。
「この部屋で間違いはないのですか?」
「はい。」
「本当に?・・・。」
「はい。」
「・・・・。」
姫御子は少し
しかし案内の者とここで揉めてもしかたが無い。
怪訝な顔をしながら部屋に入る。
案内の者は襖を閉めると、その場から立去った。
待つこと30分程であろうか、正面の襖から声が掛る。
「姫御子様、お待たせしました、入りまする。」
「どうぞ・・。」
襖が開いて入って来たのは
「こ、これは吟味役殿・・」
姫御子は呆気にとられる。
何故に吟味役が?
吟味役が顔を見せるなど有り得ない。
一体どうしたというのだろう?
姫御子の頭は真っ白になった。
吟味役とは、犯罪捜査を行う今でいう警察である。
吟味役は庶民ではなく武家や神官などを対象としている。
そういう意味では姫御子に接するのは間違ってはいない。
いないのだが・・。
吟味役と関わるとなると、犯罪者の取調べ、裁定などである。
それ以外となると、被害の訴え、または不正などに対する訴えであろう。
どちらも姫御子には縁の無い話しだ。
それに今回は、
陰の国
の書状の件で呼出されたのだ。吟味役が出てくることなど有り得ない。
そんな困惑している姫御子の様子を、吟味役の後ろから
やがてその者は、吟味役の後ろから出て姿を現す。
「巫女姫様、お久しぶりで御座います。」
「?!」
顔を出したのは
「何故、貴方様がここに?」
「それは吟味役様がお話されますよ?」
そういうと小泉神官は口の端を上げた。
姫御子の背中に冷たい汗が流れる。
何かを小泉神官がしかけてきたのは明白である。
それも、よりにもよって吟味役を伴って・・・。
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参考)
※1 : 国主 (こくしゅ)
国主とは、この国を治める最高権力者のこと。
本来の国主の意味と異なった使い方かもしれません。
本小説では国毎に最高権力者の名称を分けるため、このような使い方をしています。