第94話 牛頭馬頭の居場所はどこだ  その2

文字数 2,533文字

 阿修羅(あしゅら)の押し黙った様子に、帝釈天(たいしゃくてん)はやはりと思った。
反乱に対し既に情報部が動いているのだろう。

 閻魔大王は情報部の動きをつかんでいないようだ。
だとすると閻魔大王が得た情報は情報部ではないようだ。

 閻魔大王は裁判官という立場だ。
地獄界を管理し統括する立場ではない。
地獄界で重大な事件などが発生したなら、情報を得られる立場ではある。
だが、起きたばかりの小さな反乱を知っていたのだ。

 閻魔大王が反乱の情報を何処で得たかは謎である。
閻魔大王の様子から、反乱の情報源を聞いたとしても教えてはくれなかっただろう。

 さて、どうしたものかと思った。
できれば閻魔大王の事は話さずに話しを進めたい。
だが、相手は阿修羅だ。
そう甘い相手ではない。
帝釈天は押し黙った。

 阿修羅も暫し無言で帝釈天を見ていた。
だが、帝釈天からそれ以上話してこないので痺れを切らせたようだ。
阿修羅は問いただす。

 「牛頭馬頭(ごずめず)の二人の居場所を聞いてどうする。」
 「何、ちょっとお歳暮(せいぼ)の時期なのでな・」
 「巫山戯(ふざけ)るな、理由を話せ。」
 「・・・。」

 押し黙る帝釈天を阿修羅は(にら)む。
そして言い放つ。

 「帝釈天よ、お前と俺は戦友だ。
 そんな俺にも話せぬか?」

 その言葉に帝釈天は、天井を仰ぎ溜息をついた。
そして阿修羅に向き直り、頭を右手で掻いた。
まるで悪戯(いたずら)のバレた子供のような仕草だ。

 罰の悪そうな顔をしながら、帝釈天は阿修羅に話す。

 「そうだよな、お前には話しておくか・・。」
 「最初からそうしろ!」
 「ああ、すまない・・。
 でも、その前にお前は牛頭馬頭をどうするつもりだ。」

 その言葉に阿修羅は一度、口を閉じた。
阿修羅と帝釈天はしばし目を合わせ、どちらも目を反らさない。

 やがて阿修羅が折れた。

 「牛頭馬頭は地獄界で反乱を起こした。
 起こしたばかりで規模は小さく、上層部に報告するほどではない。
 そして、反乱が起きたのは地獄界だ。
 この程度の反乱は、一見、日常茶飯事の出来事の一つのように見える。
 しかし、放っておけないと俺は考えている。
 これ以上、反乱が大きくなる兆しがあれば、牛頭馬頭を抹殺をするだろう。」

 「そうか・・、そうお前は考えていたのか・・。」
 「所でお前は、牛頭馬頭の情報をどこから仕入れた。」
 「閻魔大王様からだ。」
 「何!」

 阿修羅は口を開けたまま、驚いて二の句が告げない。
その様子を見ながら、帝釈天は阿修羅に告げる。

 「俺は閻魔大王様がどこから情報を仕入れたかは知らん。
 閻魔大王様には色々な情報源が有るのだろう。
 牛頭馬頭は破落戸(ごろつき)で名を馳せている。
 閻魔大王様の耳に入っても不思議はない。」

 「・・・そうかもしれん。
 だが、閻魔大王様が牛頭馬頭など相手にするか?
 それに、お前に頼んだとなれば・・。」

 その言葉に帝釈天は口を閉じた。

 「なあ、帝釈天よ・・。
 閻魔大王様は牛頭馬頭をどうしたいんだ?」

 帝釈天は阿修羅をじっと見たまま答えない。
阿修羅は溜息を吐くと帝釈天に話しかける。

 「お前だから話すが他言無用だ。
 反乱を俺の配下がつかんだが上層部にはまだ知らせていない。
 俺が押さえている。」

 「ほう・・何故?」
 「牛頭馬頭に不明な点がある。
 そのため牛頭馬頭について調査中だ。
 その、調査だが難航しているのだ。」

 「?」
 
 「素性がはっきりしないのだ。
 反乱をしたのも、それが原因のように思えてならない。」

 「素性がはっきりしない?」
 「ああ、そうだ。
 出生が巧妙に書き換えられている。
 このような事、普通はできない。
 そして閻魔大王様が、お前に牛頭馬頭の件で何かを依頼してきた。」
 「・・・。」

 「こうなると閻魔大王様と牛頭馬頭の(つな)がりについても調べねばならぬ。」
 「成るほど・・。」

 帝釈天はそういうと考え込んだ。
阿修羅も腕を組み、帝釈天が話すのを待つ姿勢となった。

 そして帝釈天は阿修羅に唐突な発言をした。

 「お前、俺の話を聞いたら情報部に居られなくなるかもしれないぞ?」
 「・・・。」

 阿修羅は無言だ。
顔色一つ変えない。

 「あれ? なんで反応がないんだ?」

 「お前、俺と何年付き合っていると思っているんだ?」
 「?」

 「はぁ~・・・、まあいい。
 俺はお前が仏を尊重し、絶対に裏切らないことを知っている。
 まあ、見た目はバカで、軽くて、ちゃらんぽらんだがな。」

 「をぃ! バカのように女にもてて、(うらや)ましいってなんだよ。」
 「・・・誰が、そんな事を言った?」

 二人は睨み合う。
そして、どちらからともなく笑い始めた。

 「「ふふふふ・・ははははは、あははははは!」」

 やがて一通り笑え終えたのか、二人の笑いがやがて()む。
そして阿修羅が帝釈天に告げる。

 「俺はお前を信じている。
 情報部は、俺が押さえる。
 場合により情報部を敵に回しても、お前を助けよう。」

 まったく迷いのない言いざまに帝釈天は目を見開いた。
そして目を細くし、口角を上げる。

 「ふん、バカな奴だ。」
 「お前ほどではない。
 で、閻魔大王様とどのような話しをした?」

 「ああ、それなんだが・・」

 帝釈天は閻魔大王と、母である奪衣婆との会話を包み隠さず全て話した。
それを聞いた阿修羅は眉間に皺をよせ厳しい顔をした。

 そして阿修羅は目を瞑り、なにかしら考え始める。
しばし沈黙が二人を支配した。

 やがて帝釈天は(おもむろ)に阿修羅へ告げた。

 「阿修羅よ、俺はまどろっこしいことは苦手だ。
 直接、牛頭馬頭に会ってくる。
 そして、反乱を止めてくるつもりだ。
 お前は、牛頭の出生の秘密を調べてくれ。」

 「分かった。」

 そう言って阿修羅は牛頭馬頭の居場所を帝釈天に教えた。
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